37歳2児の母 巨大な現職に挑んだのは ~ベラルーシ大統領選~

37歳2児の母 巨大な現職に挑んだのは ~ベラルーシ大統領選~
「夫と子どものためにカツレツを揚げていたい」
8月に行われた旧ソビエト・ベラルーシで行われた大統領選挙。37歳の主婦が、”ヨーロッパ最後の独裁者”とも呼ばれるルカシェンコ大統領に挑み、一躍ニュースの人になりました。彼女が立候補した理由には、最愛の夫が関係していました。
(モスクワ支局長 松尾寛)

37歳、2児の母が大統領選挙へ

ベラルーシ大統領選挙に立候補したのはスベトラーナ・チハノフスカヤさん(37)です。2児の母親で、政治経験はなく、関心もなかったといいます。

チハノフスカヤさんも自身について、こう話しています。
「控えめで野心もない」「夫と子どものためにカツレツを揚げていたい」

そんな、ふつうの暮らしをしていた主婦が、なぜ、大統領選挙に立候補することになったのでしょうか。

その理由は最愛の夫にありました。
チハノフスカヤさんの夫は、ベラルーシで人気のブロガーです。彼女が学生時代に一目ぼれし、その1年後には結婚したというエピソードも。

その夫は大統領選挙への立候補を目指していましたが、ことし5月に身柄を拘束されてしまったのです。夫を支えたい一心で、夫に代わり、大統領選挙に立候補したというのです。

現職大統領 VS 2児の母

そんなチハノフスカヤさんが挑んだのは、欧米メディアから”ヨーロッパ最後の独裁者”とも呼ばれるルカシェンコ大統領です。最近は、新型コロナウイルスの対応をめぐって、「コロナにはウォッカがいい」など奇抜な発言で話題となった人物でもあります。

ルカシェンコ大統領は、政敵を次々に護送車に押し込んで拘束し、26年もの間、大統領の座に君臨してきました。

実際、今回の大統領選挙でもチハノフスカヤさんの夫など有力候補者たちが拘束されるなどしました。

そんな大統領に対し、選挙戦でチハノフスカヤさんが訴えたのは「拘束された夫などを解放し、半年後に公正な選挙を行うこと」でした。

8月初旬に私たちが彼女を取材した時にも、「われわれのためではなく国民のためにできることをすべてやりたい」と、まっすぐな思いを語ってくれたのが、とても印象的でした。そんな彼女の思いは、多くの国民にも伝わったようです。
彼女の集会には、この国では異例の数万人が集まりました。立候補できなかった有力候補の支持者も集まり、事実上の反政権派の統一候補となり、大きな旋風を巻き起こしました。

選挙結果は予想通り…

しかし、政権側が公表した選挙の結果は大方の予想通りでした。

政権側は、ルカシェンコ大統領がチハノフスカヤさんに大差をつけて勝利を確実にしたと発表しました。

この発表にすぐさま応戦したのがネットメディアです。各投票所で開票後に掲示された公式結果を写真付きで掲載、チハノフスカヤさんが上回っている地域が多くあると伝えました。

彼女の支持者たちも「結果は不正だ」と訴え、街頭で抗議活動を繰り広げました。抗議活動は各地に広がり、活動に参加した多くの人が拘束される事態となっています。

こうした事態に8月11日、チハノフスカヤさんが「警察に抵抗しないで」と呼びかける動画がインターネット上に出回ります。ただこの動画、よく見るとチハノフスカヤさんは顔も上げずに何かを読まされている様に見えます。

陣営関係者は、治安機関の幹部と面会した際に、撮影を強制された可能性があるとしています。

闘いは続く

チハノフスカヤさんは、選挙前に子ども2人を避難させていた隣国リトアニアに出国しました。

チハノフスカヤさんは「人生で最も重要なのは子どもだ」と語り、「闘いから逃れた」と支持者から非難されることも覚悟したうえでの苦渋の選択でした。

チハノフスカヤさんが去ったあともルカシェンコ大統領の退陣を求める声はベラルーシ国内のみならず、ウクライナなど隣国に避難したベラルーシの政治家やジャーナリストたちからも上がり始めています。

チハノフスカヤさんの思いは確実に多くの人たちの行動につながっています。