香港 保釈の周庭氏「日本の皆さんからも応援いただいた」

香港で国家安全維持法に違反した疑いで逮捕され12日、保釈された民主活動家の周庭氏は「日本の皆さんからも応援をいただいた」として、感謝する一方、この法律は「政治的な弾圧のためのものだ」と述べ、香港政府の対応を批判しました。
10日、香港国家安全維持法に違反した疑いで逮捕された民主活動家の周庭氏は、日本時間の12日未明、保釈されました。

周氏は勾留されていた警察署の前で取材に応じ「日本の皆さんからも応援をいただいたと弁護士から聞きました」と日本語で述べ、感謝の意を示しました。

警察の発表や香港メディアによりますと、周氏は、同じ容疑で逮捕された男性2人とともに外国に対し、中国や香港政府に制裁を求めるSNS上のグループに関係した疑いが持たれているということです。

警察はまた、10日に逮捕し保釈を認めた、中国に批判的な論調で知られる「リンゴ日報」の創業者、黎智英氏らが外国の銀行口座を使ってこのグループに資金を援助した疑いがあるとして、起訴に向けた捜査を続けています。

これに対して周氏は「いったいどういう理由でどんな形で法律に違反するものに参加したとされたのか、聞かされていない」と反論したうえで、「国家安全維持法をまさに政治的な弾圧のために利用したものだ」と述べ、香港政府の対応を批判しています。

周氏 拘留中 欅坂46の曲の歌詞がずっと頭に浮かぶ

周庭氏は日本時間の12日未明、保釈金を納付して保釈されました。

周氏によりますと、保釈金の額は20万香港ドル(日本円でおよそ270万円余)で、パスポートは没収されたということです。

周氏は勾留されていた警察署を出たあと、集まった日本のメディアに対し、日本語で取材に応じました。

この中で周氏は「本当にとても突然で、心の準備ができていないまま逮捕されました。民主化運動に参加して今まで4回逮捕されましたが、正直今回が一番怖く、きつかったです」と話しました。

そのうえで「拘束されている間、たくさんの香港市民、日本や世界の皆さんから応援をいただき、また日本の皆さんが私のためにハッシュタグを作ったことも弁護士から聞きました。本当にありがとうございます」と感謝の思いを語りました。

一方、逮捕容疑については「理由や証拠を全く把握していないし、どういう形で香港国家安全維持法に違反したのか、過去の24時間、全く聞いておらず、わかっていない部分がたくさんあります」とも指摘しました。

そして、香港国家安全維持法を政治的な弾圧をするために利用したのではないかと批判したうえで、「引き続き、香港の民主化運動、民主主義、そして自由のため、戦っていきます」と話していました。

また周氏は、日本のアイドルグループ「欅坂46」のヒット曲で、
同調圧力に負けることなく、自身の意志を貫く強さを歌った、「不協和音」の歌詞が、勾留中、ずっと頭に浮かんでいたとも話していました。

黎智英氏 闘う姿勢を強調

中国に批判的な論調で知られる新聞「リンゴ日報」の創業者で、10日、香港国家安全維持法に違反した疑いで逮捕された黎智英氏は、12日未明に保釈され、午前、新聞社に出社し、社員らに拍手で出迎えられると「支持してくれる市民を失望させないよう、引き続きふんばろう」と呼びかけ、闘う姿勢をつらぬくことを強調しました。

「リンゴ日報」は10日、黎氏の逮捕に合わせて警察が社内を捜索した際、新聞社が運営する基金に関連した資料などが押収され、その中には関係のない取材に関わる資料も含まれていると明らかにしました。

これについて「リンゴ日報」は、報道の自由を脅かすものだと批判したうえで、警察が取材に関連した資料を見られなくするため、裁判所にこうした資料の閲覧を差し止めるよう申し立てを行うということです。

市民の間では、新聞を買って支持しようという呼びかけが広がっており、「リンゴ日報」は11日に続き、12日も通常の8倍近く発行しているということです。

中国共産党機関紙 周氏を激しく非難

中国共産党の機関紙「人民日報」の海外版は、香港の民主活動家の
周庭氏について、「香港の秩序を乱す者たちからは民主化運動の『女神』などと呼ばれていたが、その実態は、日本の反中国的な政治家らにひざまずき、外国にこびる無能で暴力的な人物だということは、香港のインターネット上の一致した見解だ」などと激しく非難するとともに、厳しく罰せられるべきだとしています。

流ちょうな日本語を使い、香港の民主化運動への支持を訴える周氏について、中国の指導部は、日本を巻き込んで反中国的な動きを引き起こそうとしているとして、強く警戒しているものとみられます。

超党派議連 中国共産党や香港当局に抗議の緊急声明

香港で国家安全維持法に違反した疑いで民主活動家らが逮捕されたことを受け、超党派の議員連盟は、思想や言論の自由など基本的人権をじゅうりんする行為は許されないとして、中国共産党や香港当局に抗議する緊急声明を取りまとめました。

国会内で開かれた議員連盟の会合には、自民党の中谷 元防衛大臣や国民民主党の山尾志桜里衆議院議員らが出席しました。

日本で暮らしているという香港市民もマスクなどをつけて参加し、民主活動家の周庭氏らの逮捕を受け、「国家安全維持法は威嚇ではなく人権と自由を奪い取る道具になった」などと訴えました。

そして、会合では「思想や言論の自由など基本的人権をじゅうりんする行為は許されない」として、中国共産党や香港当局に抗議する緊急声明を取りまとめました。

また、日本政府に対して、香港当局からの国家安全維持法違反を理由とした捜査の協力に応じないことや、香港市民がビザなしで日本に滞在できる期間を延長することなどを求めました。

香港 保釈制度と国家安全維持法違反の事例

香港の警察の職務について定めた「香港警隊条例」によりますと、警察が逮捕した容疑者を勾留できるのは原則として48時間までとされていて、それまでに保釈されるケースがほとんどです。

この48時間に起訴される場合と、保釈され、在宅で捜査が続く場合があります。

保釈される際には、保釈金の支払いやパスポートの差し押さえなどの条件が付くことがあり、定期的に警察署に出向いて所在を報告することが求められることがあります。

また、警察のその後の捜査で十分な証拠が集まったと判断されれば、起訴されますが、起訴は数か月後や数年後になるケースもあります。

香港国家安全維持法では、この法律に違反した事件についても原則として香港の当局が捜査し、香港の裁判所で司法手続きがとられ、裁判は公開で行われるとしています。

しかし、香港の当局では取り扱うことが難しいと判断される重大な事案では、香港にある中国の治安機関の出先である国家安全維持公署が直接捜査し、中国の裁判所に起訴することもできるとしています。

香港の警察によりますと、香港国家安全維持法に違反したとしてこれまでに逮捕されたのは、周庭氏や新聞の創業者、黎智英氏など、21人に上ります。

このうち起訴されたのは、スローガンが書かれた旗を掲げてバイクで警察官の列に突っ込んだ疑いで逮捕された1人で、保釈が認められず、勾留が続いています。

そのほかは、いずれも保釈されています。

周庭氏と同様、民主活動家が逮捕されたケースとして、先月29日に国の分裂をあおったなどとして逮捕された、香港の独立を主張する団体「学生動源」の19歳の元代表は、逮捕から2日後に保釈されています。

専門家「中国国内の安定・安全という政策順位が明らかに」

中国政治が専門で、おととしまで2年間、香港の日本総領事館に勤務していた、慶應義塾大学総合政策学部の加茂具樹教授は、今回の逮捕をめぐる背景について、「中国の経済発展に安定した国際関係の維持は極めて重要だが、それ以上に重要なのは国内の安定・安全だという政策の順位が明らかになる出来事だったと感じる。国際的な批判があっても、この問題で譲歩せず、国内には強い指導部だという姿勢を示すメッセージ性がある」と分析しています。

また、周庭氏の今後については、「香港国家安全維持法は、国家の安全が重大な脅威に直面するなどした場合は、どこで裁判を開くか決めることができるとしているので、中国政府の判断になるが、中国大陸で司法手続きが進む可能性も残されている」と指摘しました。

また、これまでも日本に向けて頻繁に情報を発信してきた周氏の逮捕については、「中国の近隣諸国で、自由と民主の価値観の枠で政治運動や活動をする空間が維持されているのは、おそらく日本だ。周氏が日本のメディアの取材に応じたり、学術的な交流をしたりして、香港の民主活動が日本社会に浸透していくのを、中国政府は見ていたのだろう」と述べました。

そして、中国や香港のメディアには周氏と日本との関係を強く批判する記事があることについて、政府の考えかメディアの考えかは慎重に検討する必要があるとしたうえで、「中国政府が周氏が日本語を使って日本と緊密に交流するのに、大きな問題や関心を抱いた可能性もある」という見方を示しました。

周庭氏がフェロー務める北大の教授ら抗議声明

香港で逮捕され保釈された民主活動家の周庭氏がフェローを務めている北海道大学の教授らが、中国や香港政府の対応に抗議する声明文を発表し賛同を求める署名活動を始めました。

香港で国家安全維持法に違反した疑いで逮捕され日本時間の12日未明保釈された民主活動家の周庭氏は去年10月から北海道大学公共政策大学院でフェローを務めています。

その北海道大学の教授や弁護士ら17人が12日夜、周氏ら民主活動家への支援を呼びかけるホームページを立ち上げ、中国や香港政府の対応に抗議する声明文を発表しました。

声明文は、周氏らの逮捕は不当だとしたうえで「ごく普通の人権と自由を守るよう非暴力を貫いて運動し、香港と世界に向けて発信したにすぎない」としています。

そのうえで「保釈はされたが起訴への動きは続いており、自由を求める人たちへの弾圧を即時にやめることを求める」として賛同する署名を呼びかけています。

発起人の1人で北海道大学公共政策大学院の遠藤乾教授は「周さんは香港市民の当然の権利である集会の自由や行動の自由を求めていただけだ。香港で自由が侵害されると日本や韓国など近隣諸国にも悪影響が出かねず日本からも積極的に声を上げなくてはならない」と話しています。