米大統領選まで3か月 焦点の「ラストベルト」地帯で運動本格化

米大統領選まで3か月 焦点の「ラストベルト」地帯で運動本格化
アメリカ大統領選挙まで3か月となり、再選を目指すトランプ大統領は全米の世論調査の支持率で、政権奪還をねらうバイデン前副大統領にリードされています。両陣営はかつて工業が栄えた「ラストベルト」と呼ばれる地帯の労働者層の動向が選挙の行方に大きな影響を与えると見て、この地域での運動を本格化させています。
アメリカ大統領選挙は11月3日の投票日まで3か月となりました。

与党・共和党のトランプ大統領は各種世論調査の支持率で野党・民主党のバイデン前副大統領にリードされていて、アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の2日時点の全米の支持率の平均値はトランプ大統領が42%民主党のバイデン氏が49.4%と、その差は7.4ポイントとなっています。

両陣営は、かつて工業が栄えた東部から中西部に広がる「ラストベルト」と呼ばれる地帯の労働者層の動向が選挙の行方に大きな影響を与えるとして重視していて、ともに多額の資金を投じて選挙広告を集中的に放送するなど運動を本格化させています。

なかでも「ラストベルト」のミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアの3州は90年代以降の大統領選挙では民主党が勝利してきましたが、前回はトランプ大統領が制し、その勝利の大きな要因となりました。

今回は世論調査の平均値でいずれもバイデン氏が5ポイントから8ポイント近く上回っていて、バイデン氏は前回選挙でトランプ大統領支持に回った白人労働者層の取り込みをねらって、製造業の復活を訴えています。

これに対してトランプ陣営は「バイデン氏が大統領の政策を盗んだ」と激しく反発し、両陣営の労働者票をめぐる攻防も激しさを増しています。

この地域の有権者の動向に詳しい専門家は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ラストベルトでのトランプ大統領の支持率は低迷しているものの、依然、根強い支持もあるとして、今後、大統領が巻き返す可能性も十分あると分析しています。

注目の「ラストベルト」

「ラストベルト」は日本語でさびついた工業地帯を意味し、工業の衰退の影響を受けた白人労働者層が、前回4年前の選挙で製造業の復活を掲げたトランプ大統領の支持に回り、選挙結果に大きな影響を与えたとされています。

なかでもミシガン、ウィスコンシンペンシルベニアの3州は、もともと民主党の強い地域で、前回も事前の世論調査では民主党のクリントン氏が優勢でしたが、トランプ氏がこれを逆転し僅差で勝利を収めました。

この3州の選挙人の合計は46人で、もしクリントン氏が勝利していれば結果は異なっていたという分析もあり、この3州がトランプ氏の当選を決めたとも言われています。

それだけに共和・民主ともに今回の大統領選挙では、この3州を中心に選挙のテレビ広告を集中的に放送するなど、積極的な選挙活動を展開しています。

アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと、先月26日までの各種世論調査の平均値では、バイデン氏がミシガン州で7.8ポイント、ペンシルベニア州で6ポイント、ウィスコンシン州で5ポイント、リードしています。

また、ラストベルトの一角にあり前回トランプ大統領が8ポイントの差をつけて勝利したオハイオ州でも、バイデン氏が1.5ポイント、リードし、現時点ではバイデン氏が優勢となっています。

ただ、アメリカでは前回の例からも今後、情勢が変わる可能性はあるという見方も多く、この州の有権者の動向が注目されています。

労働者層の支持獲得をねらった政策

ラストベルトでの勝利に向けて、トランプ、バイデン両陣営が力を入れているのが、労働者層の支持獲得をねらった政策です。

トランプ大統領はアメリカ第1主義を掲げ、国内での雇用の増加をねらって、鉄鋼などの輸入品への関税上乗せや環境規制の緩和などを実施してきました。

また、NAFTA=北米自由貿易協定がアメリカの製造業の空洞化をもたらしたとして見直しを実施し、その実績をアピールしています。

こうした中、中西部のイリノイ州で操業を止めていた製鉄所が稼働を再開したり、ミシガン州では自動車メーカーが30年ぶりに組み立て工場を建設したりといった動きがみられました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で経済の様相は一変し、最新の6月の失業率はミシガン州で14.8%、ペンシルベニア州で13%と全体平均の11%台よりも悪化しています。

これに対し、バイデン氏は景気の悪化の要因はトランプ大統領の失策にあると指摘し、労働者票の奪還をねらって攻勢を強めています。

先月にはトランプ大統領に対抗して「ビルド・バック・ベター=よりよい再建」を目指すとした新たなスローガンを掲げ、アメリカ製品の購入などに日本円で75兆円を投入して、500万人の雇用を創出する公約を発表しました。

バイデン氏はペンシルベニア州の出身で、もともと労働組合との関係が深く、陣営では前回候補のクリントン氏より労働票を集めることができると期待しています。

ただ、エネルギー産業に影響を与える環境対策では、太陽光発電や風力発電を増やし、2035年までに発電設備からの排ガスをゼロにするといった野心的な政策を打ち出していて、石油やガスの業界からは批判の声も出ています。

3州でバイデン氏優勢も…

ウィスコンシン州の大学でラストベルトの選挙情勢を研究するトーマス・ホルブルック教授は、トランプ大統領が前回の選挙で勝利したミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアの3州で劣勢になっており、その要因として新型コロナウイルスの影響をあげています。

ホルブルック教授によりますと、これらの3州はいずれも野党・民主党の知事で、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため経済の再開に慎重な立場を取り、再開に積極的なトランプ大統領や共和党と激しく対立してきたということです。

このためホルブルック教授は、この3州では感染拡大がさらに悪化している今、結果として民主党側の姿勢が支持され、バイデン氏の評価につながる一方、トランプ大統領への支持の低下を招いていると分析しています。

具体的には前回の選挙でトランプ大統領が支持を獲得した無党派層に加え、白人の労働者層の一部ではトランプ大統領離れが見られるとしています。

一方で、ホルブルック教授は「白人の労働者層の大半は今もトランプ支持者だ」と強調するとともに、「政治情勢が両極化するなかでバイデン氏が共和党や保守層に支持を広げるのにも限界がある」と話しています。

さらに「もし新型コロナウイルスのワクチンが実用化されたり、有権者が国の針路に期待を抱いたりすれば、トランプ大統領の再選に向けた助けになる」と述べ、ウイルス感染や経済の行方が今後の情勢に影響を与えるとしています。

そのうえで「現時点での3州の情勢はバイデン氏優勢に見えるものの、党大会やバイデン氏の副大統領候補の決定などで流れが変わる可能性もある。2016年の大統領選挙でもこの3州では、もともとクリントン氏が優勢だったので、情勢はとても簡単に変化する」と述べ、トランプ大統領が巻き返す可能性も十分あるとして、今後の動向を慎重に分析する必要があるとしています。

トランプ大統領の支持者たちは…

前回選挙でトランプ大統領が勝利したラストベルトの一角、ミシガン州では、大統領支持にほころびも見える一方、“岩盤”とも言われる熱心な支持者たちは再選に向けた運動を活発化させています。

ミシガン州にあるトランプ大統領を支持する保守系の団体の事務所では、トランプ大統領の等身大のパネルが飾られ、集まったボランティアの人たちが集会の準備などに追われていました。

この日、トランプ大統領への支持を表すプラカードなどを受け取るために事務所を訪れた企業経営者のレオナルド・ワイダさん(68)は「新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ経済をもとの状態に回復させられるのはトランプ大統領しかいない。今回も当選する。神は私たちに味方する」と述べ、トランプ大統領の再選に強い期待を示していました。

また、事務所でボランティアをしている女性は「雇用、雇用、雇用。ミシガン州は自動車産業を中心に苦しい状況にあったが、大統領は規制を取り除いて雇用をもたらしてくれた」と話していました。

また、別のボランティアの女性も「彼のことが好きです。すばらしい仕事をしている。雇用をもたらしてくれた。約束を守ってくれた」と支持を訴えていました。

さらに、別のボランティアの女性は「直面していることを考えれば、大統領は驚くほどよくやってくれたと思う」としたうえで、新型コロナウイルスへのトランプ大統領の対応に批判もあることについて、「アメリカの大統領がなぜウイルスのことで批判されなければならないのか。問題解決のため民間とも協力した取り組みはよくやったと思う」と話していました。

民主党バイデン氏の支持者は…

前回の大統領選挙でトランプ大統領に投票したというミシガン州のガイ・クビーンさん(60)は、25年以上勤めていた製鉄所が新型コロナウイルスの影響もあり事業を縮小するなか、人員整理の対象となりました。

クビーンさんは「労働者層には恩恵がもたらされていない。私の置かれた状況もよくなったとは言えない。給与や福利厚生などに大きな改善は見られなかったしむしろ状況は厳しくなっただけだ」とみずからの状況を説明しました。

そのうえで、トランプ大統領が地域の経済を活性化させ雇用をもたらすと訴えていたことについて「約束は守られていない。自分の周囲の人間の多くが同じように感じている。そのことはこの地域での世論調査にも現れている」と話していました。

また前回、トランプ氏に投票したことについては「それはまさに私たちが自分自身に問いかけていることだ。なぜ彼に投票してしまったのか。まともな答えが出てこない」と後悔の念をにじませました。

そして「私がいた鉄鋼業界は不安定な状況にあった。景気を回復させるというトランプ大統領の約束を信じたようなところもあった」と述べました。

さら、にクビーンさんは「この州は前回、トランプ大統領が勝利したが労働組合が強く、どちらかと言えば民主党優位な州だ。トランプ氏は前回、そこをひっくり返したが今回はそうはならない」として、今回の選挙では自分と同じような白人労働者層でも、民主党のバイデン氏を支持する人が増えるのではないかという見方を示しました。

専門家 高齢層の動向も勝敗の行方に影響

今回の選挙では高齢層の動向も勝敗の行方に影響を与えると分析されています。トランプ大統領は保守層が多いとも言われる白人の高齢層を重要な支持基盤と位置づけていて、前回4年前の選挙の有力紙の出口調査では、65歳以上の高齢層でトランプ氏が民主党のクリントン氏を8ポイント、リードしていました。

これに対し、今回は世論調査で定評のあるキニピアック大学が先月15日に発表した結果で、バイデン氏が65歳以上の高齢層の支持でトランプ大統領を14ポイント、リードしていて、各種世論調査でもバイデン氏が高齢の有権者の支持で優位に立っています。

高齢者の投票行動を研究するペンシルベニア州、キーストーン大学のジェフ・ブラウアー教授は高齢層の動向が選挙の行方に大きな影響を与えるとしたうえで、トランプ大統領はこの層の支持をまとめることができなければ、再選は難しいと分析しています。

ブラウアー教授によりますとトランプ大統領は前回の選挙で南部フロリダ州で高齢層の支持で民主党のクリントン候補を17ポイント、リードするなど、接戦州で高齢の有権者から高い支持を集めていたということで「トランプ氏が2016年の選挙で勝てたのは高齢の有権者のおかげだった。今回の選挙でも高齢層は最も重要であり、ことしの選挙結果を決める」と分析しています。

一方、現時点でトランプ大統領の高齢層の支持率が下がっている理由について「高齢の有権者は他の誰よりもパンデミックの影響を受けており、非常に高い割合で亡くなっている。彼らはこの問題を強く意識している。高齢者はバイデン氏に熱狂しているというよりも、トランプ氏が大統領には向いていないと思い始めた」と述べ、新型コロナウイルスの影響が大きいと指摘しています。

そのうえで「トランプ大統領は前回、勝利した接戦州で高齢者の支持を失いつつあり、再選は難しくなっている」としています。

ブラウアー教授は「トランプ大統領は高齢層が選挙を勝つための鍵になることを理解している。マスクの着用を呼びかけたり、高齢者の医療の重要性を強調したりするなどして、支持を得ようとしている」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大がいつおさまるかや、高齢者の医療面での不安に対処できるかが、今後の情勢に影響を与えるとしています。

高齢層めぐり両陣営が攻防

トランプ大統領は6月、ホワイトハウスで「アメリカの高齢者のための戦い」と題した会議を開き、高齢者の医療費の負担軽減や高齢者をねらった詐欺の摘発強化などを打ち出し、支持のつなぎとめに力を入れています。

これに対しバイデン氏は重視するミシガン、ノースカロライナなど7つの州で、日本円にして15億円余りを投じて、トランプ大統領の新型コロナウイルスへの対応を問題視する広告を放送して批判を強め、高齢層をめぐる両陣営の攻防も激しさを増しています。

こうした中、高齢層のなかにはトランプ大統領への支持を見直す人も出ています。

南部ノースカロライナ州に住む68歳のジェイ・コパンさんは、前回の選挙でトランプ大統領を支持しましたが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大などへの対応を受けて、支持をやめると話しています。

コパンさんはトランプ大統領について「実現した政策のなかには減税や規制緩和、保守派の最高裁判事の任命など、評価するものはいくつもある」と話しました。一方で、トランプ大統領の言動やふるまいから、大統領としての資質に疑問を抱くようになり、新型コロナウイルスの感染拡大と人種差別への抗議活動に対する対応で、決定的に反感を抱くようになったということです。

コパンさんは「トランプ大統領は新型コロナウイルスの危機や、人種問題をめぐる緊張に対しても、全く指導力を発揮していない。政策は支持しても、行動や指導力のなさから選挙で支持することはできない。バイデン氏は国を1つにまとめられると思う」と述べて、今回は民主党のバイデン氏に投票すると話していました。