感染した透析患者の個室治療に必要な装置 病院の4分の1で不足

感染した透析患者の個室治療に必要な装置 病院の4分の1で不足
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人工透析を受けている患者が新型コロナウイルスに感染した場合、とくに重症化しやすいため、透析治療はほかの患者に感染が広がらないよう個室で行うことが求められます。ところが、こうした患者を受け入れた病院の4分の1で、個室での治療に必要な装置が足りず、感染の再拡大に際して、患者を守る対策に課題があることが専門の医師らの調査で分かりました。
重い腎臓病などで人工透析を受けている患者は全国に34万人いますが、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすく、国内で感染した125人のうち、およそ18%にあたる22人が亡くなっています。

人工透析を受けている患者が感染した場合、透析治療を続ける際の課題について、日本透析医会などは先月、全国の医療機関を対象にアンケートを行いました。

治療は、ほかの患者への感染を防ぐために個室で行うことが求められ、多くの場合、持ち運びができる「出張透析装置」と呼ばれる特殊な装置を使いますが、感染した患者を受け入れた319の病院のうち、およそ4分の1の79の施設は、この装置が不足していると答えました。

また、感染の再拡大に備えるために必要な台数を聞いたところ、合わせて少なくとも118人分が足りないことがわかったとしています。

一方で、装置はおよそ500万円と高価なため、新たに購入を決めた施設は25施設にとどまっていて、患者を守る対策に課題があることが明らかになりました。

日本透析医会で対策にあたるワーキンググループの菊地勘委員長は「東京都内では、装置の不足を理由に患者は入院を断られたケースもあった。感染の再拡大に備え、より多くの患者を受けられる体制を作ることが重要だ」と話していて、国に支援を求めたいとしています。

感染した透析患者の死亡率 4倍以上

人工透析を受けている患者は、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいとされ、日本透析医会と日本透析医学会の調査によりますと、感染した125人のうち、少なくとも22人が亡くなったということで、死亡率は感染者全体のおよそ4%より、4倍以上高い17.6%に上っています。

死亡率を年代別に見ると、
▽40代以下では亡くなった人はいませんが、
▽50代では5.6%、
▽60代では11.5%、
▽70代が29.7%、
▽80代以上は26.9%に上りました。

また、
▽重症化し、人工心肺装置「ECMO」を使った治療が必要だったのは3人、
▽人工呼吸装置が必要だったのは19人、
▽酸素投与が必要だったのは49人だということです。

こうした患者の治療を行った、関東労災病院の矢尾淳腎臓内科副部長は、「入院当初は、酸素吸入のみの対応だったが、すぐに呼吸状態が悪化し、翌日には人工呼吸器が必要になった」と話していて、症状が急速に悪化することがあるとしています。

そのうえで、「患者の多くは、高齢で糖尿病などの持病も抱えているため、重症化のリスクが高いうえ、個室で透析治療を続ける環境を作る必要があるので一般の医療機関にとって、受け入れはかなり難しい」と話しています。

苦慮する一般の病院

人工透析を行う施設では大部屋に装置やベッドが、密に配置されていることが多く、患者はこうした環境で1回に4時間から5時間、週に3回程度治療を受ける必要があるため、院内感染のリスクがあるとされています。

実際に、感染が拡大していたことし4月、神戸市の中央市民病院などでは感染していたことを知らないまま人工透析を受けていた患者から別の患者や医療スタッフに感染が広がりました。

このため、人工透析を行う医療機関では、徹底した院内感染対策をとる必要があり、対応に苦慮しています。

東京都内にある総合病院では、ことし4月から5月にかけて、感染が相次ぐなか、都からの要請を受け、人工透析を受けている患者数人を受け入れました。

患者はいずれも、新型コロナウイルスの感染による症状は軽症でしたが、病院には十分な設備がないため、大部屋の透析室で治療を行わざるを得ず、エレベーター1台を感染した人専用にするなど、移動の動線を分けたり、治療を行う時間もほかの患者と重ならないようにしました。

さらに、症状が出ている患者には、大部屋の中に、空気を外に漏らさない陰圧室のようにできる特殊なテントを入れ、その中で人工透析を受けてもらったということです。

そのうえで、マスクや防護服、それに消毒などを徹底した結果、これまでに院内感染は起きていませんが、患者が重症の場合は、せきなどで細かい飛まつが出る可能性が高く感染予防の観点から、個室でないと受け入れが難しいとしています。

この病院で感染対策を担当する医師は、「せきをしたり、たんを吸引したりすると、細かい飛まつが出るので、そういった症状が出ている患者は受けられないという方針で対応してきた。ほかの患者や職員への感染には最も注意した」と話していました。

中核病院でも装置は不足

東京 新宿区にある国立国際医療研究センター病院は、国の感染症治療の中核を担う「特定感染症指定医療機関」で、これまでに重症患者を中心に新型コロナウイルスの患者、およそ200人の治療を行ってきました。

このうち、もともと人工透析を受けていたのは1人で病院では持ち運びができる「出張透析装置」を使って、個室で対応しました。

装置は高さ1メートル余り、重さ80キロほどで、人工透析で必要な水をろ過する機能もありますが、1台およそ500万円と高価で、使う場所で大量に給水や排水する設備が必要なこともあり、2台しかないということです。

入院した患者の中には、腎臓病ではなかったのに新型コロナウイルスへの感染をきっかけに急性腎不全となり、新たに人工透析が必要になったケースもあり、病院では、装置の充実がさらに必要だとしています。

日ノ下文彦腎臓内科診療科長は「いつ、どの患者が重症化するか全く予測がつかないので、装置は備えておく必要がある。しかし、感染症の流行期以外にはあまり使われないこともあり、どの病院も台数に余裕がない。感染の再拡大に備えて、国などが支援してほしい」と話しています。