プロボクシング 5か月ぶり試合再開 無観客で 愛知 新型コロナ

プロボクシング 5か月ぶり試合再開 無観客で 愛知 新型コロナ
新型コロナウイルスの影響ですべての試合が中止となっていたプロボクシングの試合が12日、5か月ぶりに再開し、愛知県の会場では感染防止対策を徹底したうえで、中日本新人王戦の5試合が観客を入れずに行われました。
プロボクシングは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてことし2月27日に行われて以降、すべての試合が中止となっていましたが、JBC=日本ボクシングコミッションは、厳しい感染防止対策を徹底することを条件に試合の再開を認めました。

これを受けて、愛知県刈谷市では12日、5か月ぶりのプロボクシングの試合となる中日本新人王戦の5試合が行われました。

会場には観客を入れず、周囲にいるタイムキーパーや医師などはフェースシールドをつけ、飛まつを防ぐための使い捨ての上着を着たほか、セコンドについたトレーナーもマスクと手袋を着用しました。

さらに、ラウンドとラウンドの間にはリングの消毒が行われ、1試合ごとにレフェリーも上着を着替えるなど感染防止対策が徹底されました。

異例の状況の中で行われましたが、1試合目から互いにダウンを奪い合う激しい打ち合いになるなど、10人の選手は、力を出し尽くして戦い抜いていました。

最初の試合のミニマム級で勝利した松本幸士選手は、「とにかくうれしく、安心しました。新型コロナウイルスの影響で次の試合が本当にできるんだろうかと不安になっていたし、ジムで練習できない時期もあってモチベーションを保てないこともあったけれど、きょう勝てて本当にうれしいです」と話していました。

JBCの安河内剛本部事務局長は、「今後のボクシング界のためにもきょう、失敗できないと思って関係者みんな覚悟を持って試合に臨んだ。何事もなく終わってほっとしている一方で、まだ感染の状況はおさまっていないので、今後はさらに厳しい対策が必要になるかもしれない」と気を緩めていない様子でした。

専門家「身体接触の大きいスポーツ 他競技に大きく影響」

予防医学に詳しい専門家は、今回のプロボクシングの試合再開が成功するかどうかが、ラグビーや大相撲など身体的接触の多いほかのスポーツにも影響してくると指摘しています。

プロボクシングの試合の開催に向けたガイドライン作りに携わった岡山大学の神田秀幸教授は、「ボクシングは、野球やサッカーに比べても身体接触の多いスポーツであり、リングに唾液や血液が飛ぶなど感染のリスクは高い。徐々に興業の再開をしていくのは大事なことだが、厳重な管理をすることが大前提になってくる」と指摘しました。

選手の隔離や抗体検査など、現時点での対策については「現時点で可能な対応は行われていると思う。ただ、抗体検査も1回やったから安全というわけではなく、ある意味、必要最低限の部分なので、ふだんの生活から衛生管理を徹底するなどより慎重に対応していく必要がある」としたうえで、今回の試合再開については「この興業でクラスターが発生してしまえば、対策が不十分だったと露呈するわけで、この取り組みが成功するかどうかが、ラグビーやアメリカンフットボール、それに大相撲といったほかの身体的接触の多いスポーツにも影響してくると思う。ボクシングでも、今後、世界戦などにつなげられるかどうかなど非常に大きな意味を持つことになると思う」と話していました。

選手からは試合再開を待ち望む声

試合ができなかったこの5か月の間、選手たちからは再開を待ち望む声が多く聞かれていました。

愛知県のジムに所属するスーパーフェザー級の小暮経太選手(32)は、去年11月にプロテストに合格しことし3月にデビュー戦となる中日本新人王戦が行われるはずでした。

すでに亡くなっている父や兄がボクシングを好きだったこともあって、デビュー戦に向けての気持ちを高めていましたが、試合は翌月の4月、さらに翌月と何度もずれ込んでいったということです。

試合に向けては、10キロ近い減量をしなければならず、2つの飲食店でのアルバイトを掛け持ちしながら、合間の時間に練習を続けてきましたが、試合が決まらず精神的にも体力的にも疲労が蓄積していったということです。

先月、試合が正式に決まり、小暮選手は本格的にスパーリングなどの調整を始めました。

小暮選手は、「延期が繰り返されていつまで続けないといけないんだろうという戦いをしてきたので、試合が決まったことで前向きになれた。ちゃんと対策をしながら少しずつボクシングが元の形に戻っていってほしい」と話していました。

小暮選手が所属するジムの東信男会長は、中日本ボクシング協会の会長も務めていて試合が決まらないことでこうした新人選手たちがボクシングから離れていくことを懸念していたということです。

東会長は、「選手にまた試合中止とは言いづらい状況が続いていたので、どうしても出してあげたかった。厳重な対策をして試合を実施したい。ただでさえ、ボクシング人口は減っているしハードコンタクトのスポーツは大丈夫かというのが世間の考え方なので、しっかりとした対策をしなければボクシングは生き残っていけないと思う」と話していました。

12日の試合、小暮選手は、堂々とした戦いぶりで1ラウンドテクニカルノックアウト勝ちをおさめ、「リングに立った瞬間、今まで協力してきてくれたすべての人に感謝の思いがわいてきた。対戦相手もこの状況で大変なことが多かったと思うが、リングに立ってくれたことに感謝したい。今後、どこまでできるかわからないがボクシングを続けていきたい」と話していました。

試合出場の選手 抗体検査や隔離など感染防止対策徹底

12日に愛知県内で行われた試合に出場した選手は、新型コロナウイルスに感染したことがあるかどうか調べる「抗体検査」を2回にわたってしたうえで、外部との接触を避けるため11日の前日から試合まで隔離されて試合に臨みました。

試合を統括するJBC=日本ボクシングコミッションは、試合を行うにあたって順守するガイドラインの中で試合のおよそ3週間前と前日の2回、選手への「抗体検査」を義務づけています。

出場した10人の選手たちは先月20日と11日、それぞれ愛知県内の病院で計量や検診を終えたあと、血液を採取されて抗体検査を受けいずれも「陰性」と確認されました。

11日の検査のあとは、そのまま近くのホテルに移動し、それぞれ個室に隔離されて試合までの時間を過ごしました。

食事の時間も選手ごとに決められていて、食堂で1人で夕食を済ませたということです。

スーパーフェザー級に出場する小暮経太選手は11日、「ボクシングだけじゃなく、いろんなイベントが再開していくためには、感染防止のためにこうして最大限、注意することは当然だ。あすは気持ちのぶつかり合うような試合をしたい」と話していました。