旧優生保護法訴訟 賠償求めた原告の男性 敗訴の理由は

旧優生保護法訴訟 賠償求めた原告の男性 敗訴の理由は
およそ2万5000人が不妊手術を受けさせられた旧優生保護法をめぐる問題。手術を強制された東京の男性が国に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は訴えを退けました。裁判所はどのような理由で男性の訴えを認めなかったのでしょうか。

“意思決定の自由を侵害” しかし憲法判断は

全国で起こされた一連の裁判では、去年、仙台地方裁判所で初めての判決が言い渡され、賠償は認められませんでしたが、旧優生保護法は憲法に違反していたという判断が示されました。

全国で2件目となった東京地方裁判所の判決でも、その判断が注目されました。

30日の判決では、原告の男性が強制された不妊手術について、憲法13条で保護された「自分の子を持つかどうかを意思決定する自由」を侵害するものだったと指摘しました。

しかし、手術の根拠となった旧優生保護法がそもそも憲法に違反するものだったかどうかについては明確な判断を示さず、手術が誤りだった以上は国に賠償責任があるという判断を示すにとどまりました。

仙台地裁は「リプロダクティブ・ライツ」とも呼ばれる「子どもを産み育てるかどうかを決める権利」が憲法上保障される基本的な権利だと位置づけ、その権利が侵害されたと認めましたが、東京地裁は「リプロダクティブ・ライツ」という権利の存在についても明確に判断しませんでした。

“除斥期間” というハードル

東京地裁は、国に賠償責任があることは認めましたが、なぜ訴えを退けたのでしょうか。

その理由は、改正前の旧民法にあった「除斥期間」と呼ばれる規定でした。

不法行為があったときから20年が過ぎると、賠償を求められなくなるという規定です。

これまでの裁判を通じて、原告側は、不妊手術を強制された際の人権侵害だけでなく、その後の人生でも、妻との間に子どもを持てなかった苦しみや、手術を受けた事実によってさまざまな差別の被害を受けかねない状況にあるとして、精神的な苦痛はいまも続く「人生被害」で、除斥期間は適用すべきでないと主張していました。

しかし、30日の判決では、国による不法行為があったのは不妊手術を強制された昭和32年の時点だとして、除斥期間はすぎていると判断しました。

原告が訴えた「人生被害」については認めたものの、手術による被害と別のものではなく、除斥期間の起算点を遅らせることはできないという見解を示しました。

さらに、仮に、除斥期間の起算点を遅らせる余地があるとしても、旧優生保護法が改正された平成8年までだとして、原告が裁判を起こしたおととし(平成30年)の時点ではすでに除斥期間がすぎていたという判断を示しました。

手術後の救済策めぐる国や国会の責任も認めず

東京地裁は、手術後の救済策をめぐる国や国会の責任も認めませんでした。

原告側は、国や国会が手術を受けた人たちを事後的に救済する措置を怠っていたと主張しました。

しかし30日の判決では、国の責任については「日本においては『優生思想』そのものは国が作り出したものではなく、その思想の排除は必ずしも容易ではなかった」としたうえで、平成8年に法律を改正したことを踏まえ、国(=厚生労働大臣)には救済措置を取る義務があったとはいえないという判断を示しました。

また、国会の責任についても「法律が改正された平成8年の時点で、不妊手術を受けた人への補償を行う法律を作る必要性や明白性があったとは言えない」として、認めませんでした。

今後の裁判への影響は

旧優生保護法をめぐる裁判は、全国9か所で起こされています。

今回の東京地裁も含めて2件の判決では、いずれも「除斥期間」が高いハードルとなり、賠償を求める訴えは退けられました。

一方で、憲法に詳しい慶応大学法学部の小山剛教授は、NHKの取材に対して、裁判官が異なれば別の判断もあり得るという見方を示しています。

今後の各地の判決でどのような判断が示されるのか、注目されます。