バッタ大量飛来 軍を動員して駆除 農作物被害拡大 パキスタン

バッタ大量飛来 軍を動員して駆除 農作物被害拡大 パキスタン
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パキスタンでは新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、中東やアフリカで大量発生している、バッタの群れがイランなどを通って飛来し、農作物を食い荒らす被害も広がっていて、二重の打撃に見舞われています。政府は非常事態宣言を出し、軍を動員してバッタを駆除するなどの対策を進めています。
パキスタンでは先月から各地でサバクトビバッタの大群が姿を現し、小麦や綿花などの農作物を食い荒らす被害が広がっています。

バッタの大量発生はおよそ30年ぶりで、政府によりますと農作物への被害の総額は、およそ5500億円に上ると推計されています。

このうち、中部パンジャブ州で綿花を栽培する46歳の農家の男性の畑では、先月中旬からバッタの群れが襲来し、植えてから間もない苗を食べ尽くしました。

被害は畑の3分の2以上におよび、その総額は年収の3分の1に当たるおよそ100万円にのぼります。

男性はバッタを駆除するための対策を進めていますが、それを困難にしているのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。

感染対策として続けられている外出制限の影響で、人手が不足していて、バッタに殺虫剤をまいて駆除するための作業員の確保すらできない状態が続いています。

また、国境管理の強化や経済活動の制限で物流が滞り、殺虫剤を手に入れることもままならなくなっていて、バッタの大発生と新型コロナウイルスのダブルパンチに見舞われています。

男性は「バッタの群れはとても大きく対処できなかった。バッタもウイルスも今は我慢するしかなく、農家にとって非常につらい状況が続いています」と話していました。

さらに、被害は綿花の加工や販売にも広がっています。パンジャブ州にある綿花を糸や生地に加工する会社では、月におよそ1500トンの綿花を仕入れていますが、バッタの被害によって、手に入りにくくなっているということです。

このため、急きょアメリカやオーストラリアなど海外からも調達して、急場をしのいでいます。

会社の経営者の男性は「バッタの被害が心配です。綿花の質と量に悪影響が出ており、このままだと工場は閉鎖に追い込まれ雇用が失われるでしょう」と話し、先行きに懸念を強めていました。

パキスタン政府は、ことし1月に非常事態宣言を出し軍を動員して、地上と空から殺虫剤を散布してバッタを駆除しています。

しかし、バッタは1日に最大で150キロも移動し、広範囲に存在するため駆除は容易でなく、政府は国連などと緊密に連携して対応を急いでいます。

パキスタン政府の担当者は「パキスタン各地で1100以上の専門家チームがバッタを調査している。FAO=国連食糧農業機関の支援を得て、バッタ監視システムの構築を目指します」と話していました。

パキスタンでは来月から雨季に入り、さらに大量のバッタが発生する可能性があることから、政府は、被害の拡大に警戒を強めています。

“焼け石に水” 農家の対策には限界

パキスタンではバッタの被害を食い止めようと、農家がさまざまな対策を試みていますが、「焼け石に水」の状況で国内の食料の安定供給に、深刻な影響が出ると懸念されています。

被害が最も大きいとされる南西部バロチスタン州で、農家を営む60歳の男性の畑では、先月からバッタの群れに襲われ、小麦畑の3分の2程度、およそ5ヘクタールが壊滅しました。

収穫直前だったあんずの実なども食べられてしまい、年収の3分の1に当たる日本円でおよそ100万円がバッタによって失われました。

バッタによる被害で農作物の出荷ができず、現金収入が途絶えたため、1日3回の食事を1回だけに減らして、しのいでいます。

男性は、少しでも被害を抑えようと対策に乗り出しています。

バッタが集まりやすい木に樹脂製のシートを巻きつけ、とまりにくくする対策です。木の幹までバッタにかじられてしまうことがあるということで、木が枯れてしまわないよう、厚めのシートで覆っていました。

さらに、畑と畑の間には、飛ぶ力の弱いバッタの幼虫が移動しにくくなるよう仕切りも作りました。

しかし、個々の農家でやれることには限界もあり、バッタは対策をものともせず作物を食べ尽くしているということです。

男性は「被害はばく大で、まるで自分の体が食べられたように感じます。この先どうすればいいのか分かりません」と話していました。

国連 コロナ対策が影響 国際社会は支援を

東アフリカのケニアで大量発生している、サバクトビバッタの対策に取り組んでいる、FAO=国連食糧農業機関のケニア事務所のハミシ・ウィリアムズ副所長はNHKのインタビューで、国境管理の強化や人の移動の制限といった、新型コロナウイルス対策によって、バッタを駆除する活動などが大きな影響を受けていると明らかにしました。

具体的には、およそ8割を輸入に頼っている殺虫剤が、航空便の制限で輸入しにくくなったり、輸送費の高騰で価格が高くなったりして、確保が難しくなっているほか、殺虫剤の扱い方やバッタの追跡などの知識がある専門家が、国外から現地入りしにくくなっているということです。

また、ウィリアムズ副所長は「今は、作付けの時期だが、バッタの発生が重なり、食料不足の脅威も大きくなっている」と述べ、作付けが始まっている主食のトウモロコシなどが、収穫前に被害を受けることになると懸念を示しました。

さらに「バッタはパスポートも持たず、国境を越えて移動している。バッタ対策は、一つの国だけでなく、多国間で行う必要があり、各国で協力して取り組む必要がある」と述べ、国際社会に対し、駆除活動や被害を受けた農家の生活の立て直しなどへの、継続的な支援を呼びかけました。

進まないバッタの駆除対策

広い範囲を移動し続けるサバクトビバッタの駆除に効果的なのが、飛ぶ力の弱い幼虫のうちに地上や空から殺虫剤を散布することです。

しかし、殺虫剤は環境や農作物への影響も懸念されるため、専門家の指導が必要であるほか、バッタの群れの追跡にも専門的な知識が必要で、駆除には専門家や経験豊富なスタッフの存在が不可欠です。

しかしいま、新型コロナウイルスの感染拡大で、各国が国境の管理を強化し、国内の移動も制限するなど対策をとっていることで、肝心の専門家が現地入りすることが難しくなったり、大量に必要な殺虫剤も輸送しにくくなったりするなどの影響がでています。

そこでいま注目されているのが、国連などが主導するスマートフォンのアプリやドローンを活用したより効率的な駆除方法の導入です。

スマートフォンのアプリでは、その地域に暮らす一般の人がバッタの目撃情報を発信することでき、バッタの正確な位置情報をリアルタイムで集めることが可能になるうえ、いま被害が出ていない地域でもバッタの最新情報を常に把握することができ、早めの対策につながると期待されています。

また、ドローンを使って群れを監視したり、殺虫剤を散布したりする取り組みが試験的に行われるなど、最新技術の応用も進められています。

一方で、こうした対策を行うための資金は不足しています。

FAO=国連食糧農業機関は、バッタの駆除などの活動を行うため、300億円余りの資金提供を国際社会に求めています。

しかし、新型コロナウイルスの影響で各国の財政が厳しい状況にあることから、これまでに寄せられた支援は、必要額の半分以下にとどまっていて、対策は思うように進んでいないのが現状です。