新型コロナ 困窮する海外の日本人も 支援から取り残され…

新型コロナ 困窮する海外の日本人も 支援から取り残され…
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新型コロナウイルスの影響は海外で暮らす日本人に暗い影を落としています。中には現地政府から支援も受けられず、日々の暮らしに困窮している人もいることがアンケート調査から明らかになりました。
外務省の調査によりますと、海外で暮らす日本人はおよそ139万人いると推計されていますが、こうした人たちが新型コロナウイルスの影響をどれだけ受けているかなど詳しい状況は分かっていません。

こうした中、海外に住む日本人とその土地を訪れたい人をつないでガイドの仕事を提供する「ロコタビ」が今月上旬、登録する4万4000人余りを対象に新型コロナウイルスに関するアンケート調査を行い、94の国と地域の合わせて2155人から回答が寄せられました。

それによりますと、収入への影響について、5割以上減少したと答えた人は全体の24%にあたる519人、5割から2割減少したと答えた人は11.6%の250人、2割以下と答えた人は13.5%の292人で、収入が減った人は合わせて49.1%と、回答者全体のおよそ半数にのぼることがわかりました。

業種別では、観光業では全体の56%、エンターテインメントでは39%、サービス業では34%の人が、5割以上収入が減ったと答えています。

現地政府からの補償の受給状況については、北米やオセアニアでは全体の半数以上の人たちが何らかの補償を受けていると答えた一方、アジアでは「受給できる見込みがない」と答えた人は全体の69%にのぼり、地域によって支援の格差が生じている実態が明らかになりました。

アンケートには「収入が全くなく、食事代にも困っている」とか、「生活保護を受けることは必至」などと窮状を訴える声も寄せられています。

調査を行った会社は「海外在住の日本人の厳しい状況や、滞在に不安を抱えている人が多いことがわかった。今後、感染がさらに悪化する可能性もある中、支援の必要性を感じている」と話しています。

ナイアガラの滝のガイドは職探し

アンケート結果からは観光業に携わっていた日本人はとりわけ収入に影響が出ていることが調査から明らかになっています。

アメリカとカナダの国境にある観光名所ナイアガラの滝のカナダ側で26年にわたって日本人向けに観光ガイドをしている斎藤真奈さんです。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、カナダ政府は3月中旬に外国人の入国を制限し、地元の州は観光施設も閉鎖したため、日本からの観光客は3月を最後に途絶え、収入はゼロになりました。

ナイアガラの滝周辺では、現在も滝つぼを周遊する観光船は休業し、近くの飲食店の営業も制限されていて辺りは閑散としていました。撮影した斎藤さんは「本来は観光バスが何台も止まり人がいっぱいな場所だがここまで観光客がいないのをみてショックを受けました」と話していました。

現在カナダ政府から日本円で月16万円の「緊急給付金」を受けていますが、いつ打ち切りになるか分からず、この先を見通すことができません。このまま仕事がない状況が続けば、今後、生活が成り立たなくなることから飲食店などでアルバイトができるよう、必要な州の資格を取得したということです。

斎藤さんは「天職だと思って働いてきたが、これでもうガイドの仕事ができなくなるとしたら絶望だ。私たちのようなガイドは日本の客が戻ってこないと仕事にならないので、先行きが見えないのがいちばん不安です」と話しています。

生活困窮 現地政府の支援なく

アジアでは新型コロナウイルスの影響で収入が大きく減って生活に困窮し、周囲からの支援に頼って日々を食いつないでいる日本人もいます。

マレーシアの観光地に住む40代の日本人女性は10年前、外国人観光客向けにマリンスポーツのインストラクターをするマレーシア人男性と結婚しました。現地では新型コロナウイルスの感染拡大で3か月にわたって外出が制限され、今月に入って制限の緩和は始まりましたが、観光客は戻らず、夫の収入は絶たれたままです。

女性は生活費の足しにと2年ほど前から日本の製菓学校で学んだ技術を生かしてケーキを作り、地元の人向けに販売していましたが、観光地の経済は落ち込み、売り上げは7割減少しました。女性によりますと、マレーシア政府による現金の支給対象に外国人は含まれず、夫の分は申請したもののまだ支給されていないということです。

今のケーキの売り上げだけでは3人の子どもを養うことができず、貯金を切り崩して生活してきましたが、5月には食費を工面することもままならなくなり、ミャンマーから逃れているイスラム教徒の少数派ロヒンギャの難民を支援する市民団体に頼み込み米や卵を分けてもらいました。

女性は「うれしかったが、自分の国がない難民の人たちに食料がもらえて、なんで自分には何もないんだろうと思い、情けなくなった」と話していました。

さらに日本の住民基本台帳に記載されていないため、10万円の給付対象とならず、なんとか状況を変えたいと現地の日本総領事館に相談したり、日本の国会議員に窮状を訴えるメールを送ったりしましたが、これまでのところ具体的な支援に結び付きません。

女性は「日本に住んでいないだけの日本人のつもりだったが、支援を求める声が無視され、日本人じゃなかったのかと感じた。不安で悲しくなります」と話しています。

貯金は残り18円 起業直後のコロナ禍で

新型コロナウイルスの感染拡大と事業の立ち上げが重なり、貯金を使い果たして途方に暮れる日本人もいます。

タイ東北部に暮らす置本三郎さんは12年前タイに渡り、日系の肥料販売会社で勤務した経験を生かして、ことし1月、500万円ほどをかけてベトナムに日本の肥料を販売する会社を立ち上げたばかりでした。

しかし、ベトナムでは新型コロナウイルスの感染拡大で農産物の輸出が停滞し、契約が相次いで延期となり、売り上げはゼロとなってしまいました。

会社の立ち上げに貯金をつぎ込んでしまっていたため出費を抑えて生活していましたが、今月14日、貯金は底をつき、口座には5バーツ、日本円で18円ほどが残るだけです。

置本さんは日本の住民基本台帳に記載がないことから、10万円の給付対象ではありません。さらに自営業であることからタイの社会保険に加入しておらず、政府の支援対象から漏れていて、今は妻が友人などから借金をして生活しています。

妻のノイさんは「お金がないので食べられるものは安い米や野菜ばかりです。こんなことは初めてでとてもしんどいです」と話していました。置本さんは「目の前が真っ暗でこの生活をいつまで続けられるかわかりません。一種の棄民だと思います。こういう人もいるんだと理解していただいて助けてほしいです」と話していました。