「オンライン映画祭」開催 ネットで無料上映 新型コロナ

「オンライン映画祭」開催 ネットで無料上映 新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中で映画の製作や上映が滞る中、カンヌや東京など世界の21の映画祭が参加して作品をインターネット上で無料で上映する「オンライン映画祭」が始まりました。
このオンライン映画祭は、俳優のロバート・デニーロさんらが設立したアメリカの映画製作会社と、動画共有サイトの「ユーチューブ」が企画しました。

日本時間の29日夜8時から始まり、世界3大映画祭の1つで、新型コロナウイルスの影響で延期されたカンヌ映画祭や、東京国際映画祭など世界の21の映画祭が参加し、6月8日までの10日間に100を超える作品が上映されます。

映画の多くは新作で、2016年のカンヌ映画祭で「ある視点」部門の審査員賞を受賞した日本の深田晃司監督もおよそ2週間で製作した短編映画を出品しています。

映画祭は専用サイトで無料で見られ、サイトを通じて寄付することもでき、収益はWHO=世界保健機関への支援など新型コロナウイルスの感染対策に役立てられるということです。

映画祭を企画したデニーロさんは開催に先立って行われたオンライン会見で、「これから世界がどうなるか分からないが、皆が1つになるには今はオンラインという方法しかないと思った。どれだけの人が見てくれるか楽しみにしている」と話していました。

オンライン映画祭の専用サイトのアドレスはhttps://www.youtube.com/WeAreOneです。

深田監督「新しい映画に触れる機会に」

今回の映画祭に向けて短編映画を製作した深田晃司監督は、NHKのオンラインでのインタビューに応じ、参加を決めた理由について「こういう時だからこそ、オンライン映画祭という試みはおもしろいと思った。新型コロナウイルスの影響で仕事を失ったり、友人や恋人に会えなくなったりして、生きる価値を見失っている人もいると思うが、価値観が揺らいだときに寄り添えるものが文化や芸術だと思う。今回の映画祭が新しい映画に触れる機会となり、映画を好きになる人が増えてほしい」と話しました。

深田監督は映画をインターネットで配信する取り組みについて、「映画館に足を運ぶ人は間違いなく減ると思うが、テレビが普及したときと同じで映画館がなくなることはないと思う。インターネット配信を見て映画のおもしろさに気付いて映画館に行く人も出てくると思うし、共存共栄するための制度を考えなくてはならない」と述べ、新たな映画産業の在り方を模索していくべきだと指摘しました。

深田監督が今回出品した短編映画「ヤルタ会談オンライン」は、第2次世界大戦の戦後処理などをめぐるヤルタ会談を風刺した演劇作品をもとに、各国の首脳がオンライン会議をしたという設定で、人種差別や国どうしのあつれきなどをブラックユーモアで描いています。

撮影は、実際に監督と3人の俳優がそれぞれ別の場所で、オンライン会議のシステムを使って行われたということで、深田監督は、「リモートワークで映画を作らなくてはならない中で、とても適した題材で、今だからできるアイデアだと思った」と振り返りました。

そのうえで、新型コロナウイルスをめぐっても世界各地で人種や国家間の差別が問題になっていることに触れ、「戦争と同じような世界的な災厄の中で、分断や差別にどう向き合うべきか、考えるきっかけになるのではないか」と話していました。

新型コロナ 映画産業に大きな影響

映画界では新型コロナウイルスの感染拡大によって映画の製作が続けられなくなったり映画館が休業したりするなど、大きな影響が出ています。

映画の公開は延期が相次いでいて、「007」シリーズの新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は4月から11月に延期されたほか、俳優のスカーレット・ヨハンソンさんが主演する「ブラック・ウィドウ」や、ディズニーの人気アニメ映画の実写版「ムーラン」も延期が決まっています。

映画祭も、世界3大映画祭の1つで、5月に予定されていたカンヌ映画祭が延期されたほか、毎年8月にスイスで開かれているロカルノ国際映画祭は中止が決まりました。10月に開催を予定している東京国際映画祭も、状況によっては中止や延期もやむをえないとしています。

興行収入の落ち込みも深刻で、国際市場の分析を行っている調査会社などによりますと、ことし1月から3月までの各国の興行収入は、中国で去年の同じ時期に比べて97.4%減ったのをはじめ、韓国で65.3%、フランスでは47.3%減りました。

また、映画産業で働く人たちで作る国際的な組合によりますと、アメリカのハリウッドでは3月時点でおよそ12万人が仕事を失ったと見られます。

日本では先月、映画関係者と関係団体が政府に損失の補填(ほてん)などを求める署名活動を行い、およそ6万7000人の署名が集まったほか、深田晃司監督らが小規模映画館、いわゆるミニシアターを救うためインターネット上で資金を募るクラウドファンディングを行い、およそ1か月間で3億3000万円余りが集まったということです。

こうした中、映画の新たな楽しみ方を提供する動きも広がっていて、アメリカの「NBCユニバーサル」は、4月から新作映画を自宅でも見られる動画配信サービスを始めました。

今回のオンライン映画祭の企画者の1人、ジェーン・ローゼンタールさんは「オンラインでの上映は映画館の代わりになるわけではないが、これから映画の形は大きく変わっていくかもしれない」と話していました。