アメリカ 新型コロナで高校生の大学選びに変化 17%が進路変更

アメリカ 新型コロナで高校生の大学選びに変化 17%が進路変更
アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、高校生の大学選びに大きな変化が現れています。17%の生徒が進路の変更を余儀なくされたほか、経済的な事情などから私立ではなく、比較的授業料が安い公立の大学を選ぶ生徒が増えています。
アメリカでは、毎年5月1日が「Decision Day=決断の日」と呼ばれ、進学を希望する高校生が大学に申し込みをする期限とされていますが、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの大学が来月1日まで期限を延長して生徒に時間的猶予を与えていて、ちょうど今が進路を決断する重要な時期です。

東部メリーランド州の調査会社が先月下旬に、卒業を控えた高校生1100人あまりを対象に聞き取り調査を行ったところ、新型コロナウイルスの影響で、「進路を変更した」と答えた生徒が17%に上りました。

その内訳を見ますと、少ない単位の履修で学位を取得できるコースに変更すると答えたのが34%、入学のタイミングを秋ではなく、来年の春まで待つと答えたのが17%、1年間、休学すると答えたのが16%で、事態が落ち着くまで様子を見ようと考えている生徒が多いことがわかります。

さらに4年制の大学ではなく、2年制のいわゆるコミュニティー・カレッジに進路を変更すると答えた生徒も16%いました。

また、同じ調査では、第1志望の大学に進学できるか「不安を感じている」と答えた生徒が全体の65%にのぼりました。

その理由を尋ねたところ、「家庭の経済的な事情から進学が難しくなる可能性がある」と答えた生徒が27%を占め、親の失業や株価の下落などに伴う家庭の資産の減少で志望校の変更を余儀なくされないか心配している生徒が多いことが分かります。

次いで、「大学を見学するための宿泊体験ができなかった」が20%で、新型コロナウイルスの流行で大学を自分の目で確かめることができないことも不安の要因となっています。

アメリカで、大学受験情報を提供している大手企業、「プリンストン・レビュー」の責任者はNHKの取材に対し、多くの生徒が、オンライン授業のために高額の授業料を支払うことに抵抗を感じていると指摘しました。

そして、健康を考慮するとともに安心感を得るため、実家に近い大学を選ぶ傾向が強まっているほか、家庭の経済状況の悪化もあって私立ではなく、授業料が比較的安い公立の大学を選ぶ生徒が増えていると明らかにしました。

進路決定で影響受けたアメリカの高校生は

取材に協力してくれた西部カリフォルニア州、サンフランシスコの高校生、ジュリアン・ジョルダンさんも、進路を決めるにあたって新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた1人です。

ジョルダンさんは、勉強だけでなく、環境問題のドキュメンタリーの制作などの課外活動が認められて、西部カリフォルニア州の公立大学と東部ボストンの私立大学の映画関係の学部から合格通知を受け取りました。

アメリカでは、大学に入学する年の冬から春ごろに大学から合格通知を受け、例年は5月1日に設定される「Decision Day=決断の日」までに、大学を訪問し、キャンパスの様子を見たり、教授や学生の話を聞いたりして、進学先を決めることが多いと言われています。

しかし、ジョルダンさんは、感染が拡大する中、およそ4000キロ離れたボストンに飛行機で行くのはリスクがあると考え、大学訪問を諦めました。

また、西海岸の地元の大学でも、例年行われている合格者向けの見学ツアーなどはなく、車でキャンパスの様子を見に行くだけだったといいます。

さらに、ジョルダンさんが最も頭を悩ませたのが、高額の学費の問題です。

第1志望のボストンの私立大学は年間70,000ドル、地元の公立大学は10,000ドルで、その差は6万ドル、日本円で600万円にものぼります。

オンライン授業がいつまで続くのかなど、先が見えないなか、果たして何倍も学費がかかる第1志望を選ぶべきか。

ジョルダンさんは、悩んだ末に地元の公立大学に進学する決断をしました。

ジョルダンさんはNHKの取材に対し、「両方の大学のカリキュラムは同じようなものだったかもしれません。しかし、アメリカではもともと巨額の学生ローンの問題があります。さらに、今の状況で、今後がどうなるかは誰にも予測がつきませんし、大きな借金を抱えないことが何よりも重要だと考えました」と説明しました。

ジョルダンさんの決断について、母親のエリカ・ジョルダンさんは、「感染拡大の中で難しい判断だったと思いますが、巨額の借金に苦しまずに、卒業後は自分の夢を追いかけられるという点で息子はよい選択をしたと考えています」と話していました。

大学受験情報を提供している編集長は

アメリカで大学受験情報を提供している大手企業の「プリンストン・レビュー」で編集長を務めるロバート・フラネックさんは、NHKの取材に対し、「大学進学を決めている卒業前の高校生は、経済的な懸念を抱いていて、2年制大学を進学先に選んだり、安心感を求めて実家に近い大学を選んだりする傾向にある。さらには、事実上1年休学する“ギャップ・イヤー”を取得する生徒も出てくるだろう」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大によって、今後、大学進学にもさまざまな影響が出る可能性があると指摘しました。

そのうえで、親が失業したり、株価が下落したりしたことによる、家庭の資産状況の悪化などを考慮して、生徒は金銭的な負担が大きい私立よりも州立大学など公立の大学を選ぶ傾向が強まると指摘。また、多くの生徒は、このままオンライン授業が続いた場合、高額の学費を支払うことにためらいを感じていると言います。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大は大学受験そのものにも影響が出ており、アメリカの多くの大学で進学する際に求められる基礎学力を調査するためのSATやAPと呼ばれる共通テストは、延期になったり、オンラインでの受験に切り替わったりしていて、生徒の間で、戸惑いが生じているとしています。

フラネックさんは、「今後は多くの大学が対面式の授業とオンライン授業を併用する『ハイブリッド方式』をとることになるだろう。もはや、大学が新型コロナウイルスが広がる前の時代に戻ることはない」と述べ、終息後には、大学の授業の在り方自体が大きく変わるという見方を示しました。