中国 香港の治安維持で法律制定へ 米政府は反対表明

中国 香港の治安維持で法律制定へ 米政府は反対表明
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22日、中国が抗議活動が続く香港の治安を維持するため、直接、法律の制定に乗り出す方針を打ち出したのに対し、アメリカ政府は「高度な自治の終わりの前兆だ」として、強く反対する声明を出し、米中の対立が一層深まるのは避けられない見通しです。
22日開幕した中国の全人代=全国人民代表大会で王晨副委員長は、抗議活動が続く香港について、「外国勢力が香港に干渉して、国家の安全に危害を与えている」などとアメリカを非難したうえで、香港の治安維持のための法律を中国政府主導で制定するとともに、中国の関係機関による香港での取締りを認める方針を打ち出しました。

この方針は、来週28日の全人代の最終日に採決される見通しです。

これに対して、アメリカのポンペイオ国務長官は22日、声明を出し、「香港の高度な自治の終わりの前兆になり、一国二制度に対するアメリカの判断にも影響する」として、採決しないよう強く求めました。

アメリカでは去年、一国二制度に基づく香港の高度な自治が損なわれていると判断した場合、関税面などの優遇措置を停止できるとする条項や、人権抑圧が認められた場合は、中国の当局者への制裁を可能にする条項が盛り込まれた「香港人権法」が成立しました。

米中関係は、新型コロナウイルスへの対応などをめぐって非難の応酬が続いていますが、アメリカは今後、「香港人権法」の適用も視野に入れるとみられ、米中関係の対立が一層深まるのは避けられない見通しです。

専門家 「米中対立さらに混迷」

今回の全人代で、香港の治安維持のための法律を制定する方針が打ち出されたことについて、中国の現代政治が専門の東京大学公共政策大学院の高原明生教授は、「中国政府としては、香港で新型コロナウイルスの感染が収まりつつある中で、去年のような大規模なデモが再び起きないよう、何らかの措置を取る必要に駆られているのではないか。今回も習近平政権による強権発動で、上から抑え込むような形を取ろうとしている」と分析しています。

そのうえで、新型コロナウイルスへの対応などをめぐって対立するアメリカとの関係が、香港問題でさらに悪化する可能性があると指摘したうえで、「アメリカはこの問題を提起するだろうが、中国が譲歩することは考えにくい。アメリカが強硬な姿勢を示すほど、中国でも強硬派が台頭する。中国に圧力をかけ過ぎれば、必ずしもよい効果を生まないと思う」と話しています。

また、今後の米中関係については、「予見できるかぎり、競争局面がしばらく続くと思う。中国国内でもアメリカに対して強気でのぞむか、もう少しソフトな路線でのぞむかという意見の対立があるが、強気な外交を主張する勢力が主流で、摩擦が高まる可能性はかなり大きい。中国の外交的な孤立が深まれば、ソフトな路線に転換する可能性はあるが、中国経済やアメリカ大統領選挙の行方にも左右され、予測しにくい状況だ」と指摘しています。

米中の対立が深まる中、日本の中国との向き合い方について、高原教授は、「日本だけでなく多くの国が、中国と一面では協力し、他方では競争するという、いわば、同じ『船』に乗っている。中国との協力と競争を同時に進めていくという矛盾の中で、生きていく術を身に着けることが重要だ」と話しています。

イギリスなどの外相が共同声明「深い懸念」

香港の治安維持のため、中国が直接、法律の制定に乗り出す方針を打ち出したことをめぐり、イギリスのラーブ外相とオーストラリアのペイン外相、そしてカナダのシャンパーニュ外相は共同で声明を発表し、深い懸念を表明しました。

この中で、3つの国の外相はイギリスが香港を返還する際に、中国との間で確認した法的な拘束力がある共同声明で、香港は高度な自治が認められていると指摘しました。

さらに共同声明には、個人や報道機関、議会、そして集会などの権利と自由が香港の法律によって保障されるという内容も含まれていると強調しました。

そのうえで、「香港の市民や議会、司法が直接関わることなしに、中国が法律を制定することは、一国二制度の原則を明らかに損なうことになる」としています。

また、イギリスのジョンソン首相の報道官は22日、「中国が香港の権利と自由、そして高度な自治を尊重することを期待する。イギリスは共同声明の当事者として、香港の自治を支持し、一国二制度のモデルを尊重している」とコメントしました。