中国 全人代きょう開幕 経済成長率の目標や経済対策が焦点

中国 全人代きょう開幕 経済成長率の目標や経済対策が焦点
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中国で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期されていた全人代=全国人民代表大会が22日、北京で開幕します。感染拡大を受けて景気が落ち込む中、例年発表してきた経済成長率の目標をどのように打ち出すかが焦点となっています。
中国の全人代は、習近平国家主席ら共産党の最高指導部のメンバーや各地の代表など3000人近くが出席して、その年の政策などを決める最も重要な政治日程の1つで、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、およそ2か月半延期され、22日、北京で開幕します。

初日の22日は、李克強首相が政府活動報告を行い、習主席の指揮のもと、感染の抑え込みで大きな成果を得たとアピールするとともに、今後、経済の立て直しに一層軸足を移す姿勢を強調するものとみられます。

中国では感染拡大を受けて、ことし1月から3月までのGDP=国内総生産の伸び率がマイナス6.8%となるなど景気が落ち込む中、例年発表してきた経済成長率の目標をどのように打ち出すかや、経済の立て直しに向けて大規模な財政出動など、具体的にどのような経済対策を示すのかが焦点となっています。

このほか感染拡大への対応などをめぐってアメリカとの対決姿勢を強める中、アメリカに対抗する形で増やし続けてきた国防費をことしの予算にどの程度盛り込むかも注目されます。

一方、21日夜、記者会見した全人代の張業遂報道官は、抗議活動が続く香港の治安維持のための法整備について今回の全人代で審議すると発表しました。

具体的な内容は明らかにしていませんが、香港市民の間では中国政府が直接、法律を制定すれば一国二制度が失われるとして、警戒感が強まっています。

経済対策に注目

ことしの全人代の注目点の1つが、新型コロナウイルスで大きな打撃を受けた経済を下支えするため、どのような具体策を打ち出すか、という点です。

中国政府はこれまで、感染拡大の影響を受けた企業を支援するため、中央銀行である中国人民銀行が、「預金準備率」を引き下げて9500億人民元、日本円で14兆円を超える資金を市場に供給するなど、金融緩和策を相次いで打ち出しているほか、企業が負担する社会保険料の軽減や、減税なども実施しています。

また地方政府が「商品券」を配布したり、新車の買い換えの際に補助金を支給したりするなど、消費刺激策を独自に行うケースもあります。

習近平指導部は、さらに大規模な景気対策を行うため、新型コロナウイルス対策を実施するための特別国債を発行するほか、インフラ投資などにあてる地方政府の債券の発行枠も拡大する方針で、全人代では財政出動の規模や、具体的な対策が示されるものとみられます。

ことしの経済成長率 44年ぶりの低水準か

中国では、新型コロナウイルスの影響で、ことしの経済成長率が44年ぶりの低水準となる可能性も出ています。

中国では、新型コロナウイルスの感染が世界で最も早く拡大し、1月以降、感染の拡大を抑えるため人の移動をはじめ、さまざまな規制を敷いたことで、各地で工場の生産が停止したほか、スーパーなど一部の業種を除いて多くの店舗も休業を余儀なくされるなど、影響は広い範囲に及びました。

この結果、1月から3月までの第1四半期のGDP=国内総生産は、去年の同じ時期に比べてマイナス6.8%と、四半期ごとの統計が公表されている1992年以降、初めてのマイナスとなりました。

その後、中国政府が「国内での感染拡大を基本的に抑え込んだ」として、経済活動の再開を促した結果、4月は主要な経済指標のうち工業生産は4か月ぶりにプラスに回復し、新車の販売台数や携帯電話の出荷台数も去年を上回る水準に回復しました。

ただ、感染が再び拡大しないか警戒が続くなか、市民の消費マインドは元には戻っておらず宝飾品や衣料品の販売はマイナスが続いているほか、飲食業の先月の売り上げが去年を30%以上下回るなど、サービス業は依然として、厳しい状況が続いています。

さらに海外で感染が拡大したことで、輸出の落ち込みが懸念され、先行きは見通せない状態です。

このため、多くの民間のシンクタンクはことし1年の中国の経済成長率について1%から3%程度と予想していて、社会や経済に大きな混乱をもたらした文化大革命の最後の年にあたる1976年以来、44年ぶりの低水準にとどまる可能性も出ています。

中国経済の落ち込みは重要政策にも影響

新型コロナウイルスの影響を受けた中国経済の落ち込みは、習近平指導部が掲げる重要政策にも影響を与えています。

習近平指導部は来年に中国共産党創設100年の節目を迎えるのを前に、ことし2020年までに、ややゆとりのある社会、「小康社会」の全面的な実現を目指し、目標を設定しています。

その柱が、GDPと国民の平均の所得を2010年に比べて2倍に増やすことです。

民間のシンクタンクなどの試算では、目標達成に向けた最後の年となることしは、5.6%程度のGDPの成長が必要だとされています。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で1月から3月までのGDPは、去年の同じ時期と比べてマイナス6.8%となるなど、中国経済は深刻な打撃を受けていて、目標の達成は困難な状況になっています。

習近平指導部は「小康社会」の実現に向けて、貧困の撲滅や、環境問題の改善といった目標も掲げていて、このところは「貧困の撲滅が最も重要な任務だ」と強調しています。

習近平指導部としては、共産党の威信にかけて「小康社会」の実現に向けた目標達成をアピールする必要があるなか、全人代では貧困の撲滅を強調する形で政策の方向性が打ち出されるのではないかという見方が出ています。

専門家「状況は改善しているが正常な状態からはほど遠い」

全人代では、初日に首相が行う政府活動報告のなかで、例年、1年間の経済成長率の目標が示されていて、ことしは、新型コロナウイルスの感染拡大で景気の先行きが見通せないなか、どのような形で、目標や経済政策を打ち出すかが注目されています。

中国財政省の研究所の元所長で華夏新供給経済学研究院の賈康院長は、中国経済の現状について「生産の再開が進んではいるが、完全に回復したわけではない。サプライチェーンが断絶したり、発注が止まったりしているものもある。4月以降、状況は改善しているが、まだ正常な状態からはほど遠い」と述べ、本格的な回復には時間が必要だという見方を示しています。

そのうえで、全人代で示される経済成長の目標については「より、大ざっぱなガイドラインのようなものになるのではないか」と述べ、具体的な数値目標を掲げてきた例年とは、異なる形になる可能性を指摘しています。

また経済政策については「財政赤字の拡大や地方債の発行枠を増やして、インフラなどへの投資を拡大するだけでなく、非常時の対策として新型コロナウイルスに対応するための特別国債が発行される。その規模は大きくなるだろう」と述べ、景気を下支えするため大規模な財政出動が打ち出されるという見通しを示しています。

そして中国経済の先行きについて、ヨーロッパやアメリカでも感染拡大の影響を受けて経済が悪化していることなどを踏まえ「第2四半期(4月~6月)、第3四半期(7月~9月)の貿易はさらに厳しいものとなり、楽観できないことから、先行きを予想しにくい状況だ」と述べています。