台湾 蔡英文総統の2期目スタート コロナ対策の成功を強調

台湾 蔡英文総統の2期目スタート コロナ対策の成功を強調
台湾の蔡英文総統は20日、2期目の任期をスタートさせました。就任演説で蔡総統は、台湾が新型コロナウイルス対策で成功し、信頼できるパートナーだと国際的に位置づけられたと強調し、台湾の国際的な地位向上に向けて、アメリカや日本などと協力関係を強めていく考えを示しました。
台湾の蔡英文総統は、ことし1月の総統選挙で中国への対抗姿勢を示して過去最多となる票を獲得して再選され、20日、2期目の任期をスタートさせました。

蔡総統は総統府で宣誓式に臨んだあと、かつては迎賓館としても使われた台北賓館の屋外の会場で就任演説を行いました。
この中で蔡総統は、台湾が新型コロナウイルス対策で成功したと強調したうえで「民主主義の成功事例として、信頼できるパートナーだと国際的に位置づけられた。次の4年間は国際組織に参加する資格を引き続き求めていくとともに、アメリカや日本などとのパートナー関係を強化する」と述べ、台湾の国際的な地位向上に向けてアメリカや日本などと、協力関係を強めていく考えを示しました。

また、中国との関係では、中国が台湾統一の方法として「一国二制度」がふさわしいとしていることについて触れ、「『一国二制度』をもって台湾を軽んじ、台湾海峡の現状を壊すことは受け入れられない」と述べ、改めて拒否する立場を強調しました。

そのうえで「関係が長く続く道を求め、対立と隔たりの拡大を避けるのは双方の責任だ」と述べ、中国に対等な立場での対話を呼びかけました。

また、経済面では、新型コロナウイルスの影響による世界の政治経済の変化を機会と捉え、台湾が得意とするIT関連産業をさらに強化し、世界のサプライチェーンの核心的な地位を目指す考えを示しました。

最新の世論調査で、蔡政権の新型コロナウイルス対策への支持率は91%となっていますが、経済対策では44%にとどまっていて、世界的な感染拡大で景気が落ち込む中、どのような手だてを打つのかが2期目の課題となっています。

支持率61% コロナ対策で高評価

蔡英文総統はことし1月の選挙で過去最多の票を獲得して、歴史的な圧勝を収めました。

1期目の任期中には、一時、支持率が15%にまで低迷し、再選も危ぶまれていた蔡総統でしたが、中国が台湾統一に向けた圧力を強めるなか、人々の間に危機感が広がり、中国への強い姿勢を示す蔡総統の再選につながりました。

最新の世論調査では、蔡総統の支持率は61%と就任以来、最も高くなっていて、その最大の要因が新型コロナウイルスの感染対策への高い評価です。

台湾当局は、去年末に中国武漢で原因不明の肺炎患者が確認された直後から、武漢からの到着便の検疫を強化し、中国からの渡航を大幅に制限しました。

さらに、市民の不安を払拭(ふっしょく)するため、保健当局のトップが毎日、記者会見を行うなど、情報公開を徹底するとともに、感染者や濃厚接触者の位置情報を把握するなどして、監視を強化しました。

台湾の感染者数は440人で、この1か月余りは海外からの渡航者を除いて、新たな感染は確認されておらず、感染の拡大は抑え込まれています。

一方で、蔡政権が目指してきたWHOの年次総会へのオブザーバー参加については、「1つの中国」の原則を掲げる中国が強く反対するなか、今回も認められませんでした。

蔡総統は19日、「政治的な要因で台湾の参加が拒否されたことは国際社会の利益にそぐわない」と述べ、WHOの対応を批判する一方で、「台湾は圧力をかけられたからといって国際的な課題への関与を諦めない」と述べました。

2期目をスタートさせた蔡総統としては、台湾での感染対策の成果をアピールするとともに、アメリカや日本など、民主主義や自由といった価値観を共有する国々との連携を強化し、国際的な地位の向上につなげたい考えです。

日米から祝賀メッセージ

台湾の蔡英文総統の就任式では、アメリカ政府の高官や日本の国会議員からのビデオメッセージが披露されました。

このうち、日本の台湾との窓口機関「日本台湾交流協会」の大橋光夫会長は「日本と台湾は基本的価値観を共有する極めて重要なパートナー、かつ、心と心の通じ合う真の友人であり、世界に誇れる良好な関係にある」とメッセージを寄せました。

そのうえで「台湾の民主主義の発展や多様性を含む社会の先進性は国際社会で高く評価され、日本のみならず、世界の人々が台湾の更なる飛躍に注目している」と述べて、蔡総統の2期目に期待を示しました。

また、アメリカ国務省で東アジア政策を統括するスティルウェル次官補は「きょうの就任式は活気に満ちた台湾の民主主義にとって新たな節目だ。容赦ない圧力に直面しながら、台湾海峡の安定を維持する蔡総統のコミットメントに拍手を送りたい」と述べました。

そして、新型コロナウイルスをめぐる台湾の感染対策について「台湾の高い透明性と基本的人権を尊重した対応は、各国の模範となった。アメリカも恩恵を受けた国の1つであり、引き続き台湾の声が世界に反映されるよう主張していく」と述べ、台湾のWHOへの参加を今後も支援していく考えを示しました。

台湾の外交部によりますと、アメリカの野党・民主党のバイデン前副大統領や、ペロシ下院議長もツイッターや手紙で2期目のスタートを祝うメッセージを寄せたということです。

中国政府「両岸関係を一方的に破壊」

台湾の蔡英文総統が、2期目の任期をスタートさせる就任演説で、中国の「一国二制度」を拒否する考えを改めて示したことについて、中国政府はコメントを発表し「両岸関係の平和的発展の基礎を一方的に破壊するものだ」と厳しく批判しました。

中国政府で台湾問題を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は20日、コメントを発表し「民進党当局が、『1つの中国』の原則を拒否し、認めないのは、両岸関係の平和的発展の基礎を一方的に破壊するものだ。彼らは、外部勢力との結託を強め、台湾海峡の平和を破壊し、新型コロナウイルスの感染の機会に乗じて台湾独立をたくらんでいる」と厳しく批判しています。

そのうえで「祖国の統一は、中華民族の偉大なる復興の歴史的必然であり、いかなる勢力も阻止できない。台湾独立は流れに逆らうものであり、破滅への道だ」などと指摘し、一国二制度に基づいて平和的な統一をはかるとする中国政府の方針を重ねて強調しました。

蔡総統の演説 専門家の見方は

蔡英文総統の20日の演説について、台湾政治が専門の東京外国語大学大学院の小笠原欣幸教授は「新型コロナウイルスへの対策で社会全体を率いて大きな実績を上げたという充実感が表れていた」と話しています。

また、中国との関係については、4年前の1期目の演説に比べると言及が少なかったと指摘し「この4年間、蔡総統は中国との対話に向けてかなり努力してきたが、習近平指導部はそれを全く評価せず、対話を打ち切って台湾に圧力をかけてきた。こういう状況で台湾から新しい対話の提案をすることは適当ではないという判断があったと思う」と分析しています。

また、蔡総統がアメリカや日本などとの連携を強化する考えを示したことについては「台湾としては中国の強大な影響力を踏まえ、中国に押しつぶされないよう、とにかく生き延びることが喫緊の課題だ。日本や欧米といった民主主義国との連携を深めて、中国からの圧力を何とか跳ね返していこうという考えがあると思う」と指摘しています。

そのうえで、2期目に入った蔡英文政権について「中国との関係がこう着状態にある中でも、極端な事態を招かないようにすることが非常に重要だ。産業構造を強化して、経済を発展させ、台湾の自立を確実なものにしていくことができれば、比較的安定した政権運営ができるのではないか」と話しています。