オンライン授業「導入・検討」大学の9割超 現場の教員に負担も

オンライン授業「導入・検討」大学の9割超 現場の教員に負担も
新型コロナウイルスの感染防止のため、全国の大学の9割以上がオンライン授業を始めたり、導入を検討したりしていますが、十分な準備期間が取れないまま導入に踏み切る大学も多く、現場の教員に大きな負担がかかっています。専門家は「今までと同じ授業をやろうとするのは現実的でない。教員は学生が勉強するのをサポートするという、本来の姿に戻るべきだ」と指摘しています。
文部科学省によりますと今月12日時点で、全国1070の大学などのうち、通常の授業に代わりにオンライン授業などを実施しているところは708校とおよそ66%に上り、検討しているとした326校を合わせると、全体の96%余りがオンライン授業を導入したり、検討したりしています。

一方、準備期間が十分でなかった大学も多く、システムのトラブルなどによる授業への影響が相次いだほか、オンライン授業の工夫や学生への技術的な支援まで迫られる形となった、教員たちへの負担を懸念する声も上がっています。

熊本大学教授システム学研究センターの鈴木克明センター長は、「今までの授業と同じものをやろうとすることは効果的でもなければ、現実的でもない。教員は熱心に教えるのではなく、どういうことを学んでいけばいいのか示し、サポートするという本来の姿に戻るチャンスではないか」としたうえで、今後については「学生がインターネット上の情報を検索したりすることは自主的な学びにもつながるし、教室より自宅でやったほうがいい。オンライン授業による自主的な学びと、教員による対面授業のよさをうまく組み合わせていくことが大事だ」と話していました。

環境整備・習熟に教員疲弊

オンライン授業の開始に伴い、負担が大幅に増えた現場の実態について教員の1人が証言しました。

社会学の非常勤講師、ケイン樹里安さん(31)は、勤務する3つの大学がことし3月、オンライン授業の導入を相次いで決めましたが、使うシステムは大学ごとに異なるため、それぞれに習熟しなければなりません。

学校側からは、学生がパソコンなど必要な機材を持っているかどうか情報の提供がなかったため、およそ870人の学生を対象にみずから調査したと言います。

その結果、パソコンを持っていない学生もいることが分かったため、スマートフォンでも受講できるよう授業の内容を録画し、動画投稿サイト「YouTube」で配信することにしました。

しかし、いざ授業が始まると学生から動画の見方が分からないという問い合わせが、メールやSNSで相次いで寄せられ、その対応に追われるようになりました。

さらに、授業の双方向性を確保するため、授業後、学生全員に課題などを提出させてほしいという大学側の要請を受け、ケインさんのもとには毎週合わせて400人余りの学生から電子メールが届き、それを確認するのに4時間はかかるということです。

ケインさんは「授業外の時間が前にも後にも延びて、労働時間が3倍ほどに増えたように感じる。睡眠時間と論文を書く時間を削るしかない。学生たちがオンライン授業を受けるための技術的なサポートは非常勤講師の仕事ではないはずなので、大学には何らかの支援体制を作ってほしい」と話していました。

教え方模索する教員

オンライン授業ではどのような教え方が効果的か、多くの教員が模索を迫られています。

東海大学芸術学科の富田誠准教授(38)は今月15日、デザインの授業をオンライン会議システム「Zoom」を使って初めて行いました。

授業ではパソコン画面の向こう側にいる48人の学生たちに、周りの物をボールペンでデッサンし、オンライン上の掲示板に提出してもらったあと一つ一つ講評していきました。

大きなトラブルはなく授業は終わりましたが、富田さんは「芸術の学習は、作っているものを他者と共有し互いに刺激し合う関係が重要で、チャットなどで文章にできるものではない。成果だけでなく、過程を共有する時間をいかに作っていくか考えないといけない」と話し、オンライン授業では教え切れない感覚があったと振り返りました。

授業の翌日、富田さんは問題意識を共有しようと大学のほかの教員たちとやはりオンラインで会議を開きました。参加した教員からは「授業をしている実感が持てないし、学生たちにも授業を受けている実感を持たせるのが課題だ」とか、「授業は何となくうまくいっているが、学生の中には課題を提出せず、授業の内容が理解できているのか分からない人もいる」など、オンライン授業ではコミュニケーションが思うように取れないという声が相次ぎ、今後、学生側にも調査するべきだという意見も出ました。

会議のあと、富田さんは「自分と専門の違う先生でも同じ悩みを持っていて、どう乗り越えようとしているかが分かり、参考になった。大学では知識を学ぶだけではなく探求していかなければならず、そのための研究的な視点をオンラインでどのように議論しながら養っていくかがこれからの課題になるのではないか。授業の中身をしっかり作ることが求められるので、教員はその方法を学ぶ必要が出てくるし、大学もバックアップすることが求められると思う」と話していました。

学生には戸惑いも

オンライン授業を受ける学生たちも、教室での授業との違いについて戸惑いを感じているようです。

東海大学でデザイン学を専攻している3年生の西川拓輝さんは、オンライン会議システム「Zoom」を使って今月から始まった授業を、ノートパソコンで受けています。

今月15日に行われたオンライン授業では、学生たちがそれぞれスマートフォンなどで撮影した写真をパソコンの共有ソフトに投稿していきましたが、最初は多くの人が同じ場所に同時に投稿したため複数の写真や文字が重なってしまい、うまく見られませんでした。

また、教員が身近にあるものをペンで描くイラストレーションについて説明している途中で、通信が途絶えて映像が10秒ほど止まってしまう場面もありました。

西川さんは「オンラインに向いている授業と、そうではない授業があると思う。私が受けている芸術系の授業は描き方などについて、その場で質問できないうえ、課題を提出する際も実際に描いた作品ではなく作品の写真を投稿するため、印象が変わってしまうのではないか」と話し、特に実技の指導を伴う授業は課題があると指摘しました。

一方で「ほかの人たちの作品を画面で見られるのは便利だと感じた。オンライン授業に、自分たち学生も慣れていかないといけない」と話していました。