WHO総会 中国 習主席「透明性もって情報提供してきた」

WHO総会 中国 習主席「透明性もって情報提供してきた」
新型コロナウイルスへの対応で国際的な協調が喫緊の課題となる中、年に一度開催されるWHO=世界保健機関の総会が始まりました。ウイルスへの対応をめぐりアメリカと中国が対立する中、総会の冒頭、中国の習近平国家主席は「中国は透明性をもって、責任ある態度で、WHOや関係国に情報を提供してきた」と述べ、初動の対応を非難するアメリカを念頭に反論しました。
WHOの年次総会は、日本時間の18日夜7時すぎから194のすべての加盟国が参加して、オンラインのテレビ会議形式で始まりました。

総会では、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を抑え込むために、治療薬やワクチンの開発などについて、国際的な協調を進めることができるのかに関心が集まっています。

WHOのテドロス事務局長は開会のあいさつで「危機的な状況の中、WHOへの強力な支持に感謝する」と述べたうえで「ウイルスの脅威は、依然として高い状況で、今後、長い道のりがある」と強調し、国際社会の連携を訴えました。

これに先だって世界の一部の国の首脳もテレビ会議を通してスピーチし、このうち中国の習主席は「中国は一貫して、透明性をもって、責任ある態度で、WHOや関係国に情報を提供してきた」と述べ、ウイルスへの対応をめぐり、初動対応などについて非難を強めるアメリカを念頭に反論しました。

また今回の総会では、WHOに加盟していない台湾がオブザーバー参加を目指していました。
しかし総会の議長は、台湾の参加を提案した中南米などの14か国を含む関係各国と非公式に協議を行った結果、ことし後半に再び開く予定の総会まで議論を先送りすることで支持を得られたと発表しました。

このため台湾は19日まで2日間にわたって行われる総会では参加が認められませんでした。

総会は現地時間の19日午後、閉会する予定ですが、今回の総会を通して、新型コロナウイルスへの対応をめぐる米中の対立は一段と鮮明になる可能性があり、ウイルスの封じ込めには欠かせない国際社会の一致した対応をまとめ上げることができるのかどうかは不透明な情勢です。

習主席 WHOを称賛し米をけん制

中国の習主席はさらに、WHOの一連の対応について「テドロス事務局長の指導のもと国際的な感染対策において多大な貢献をしてきた」と称賛したうえで、国際社会に対しWHOへの支持を呼びかけ、「WHOは中国寄りだ」と非難するアメリカをけん制しました。

さらに習主席は、とりわけアフリカをはじめとする途上国を支援する意向を示したうえで、国際的なウイルス対策として今後2年間で20億ドル(2100億円余り)を拠出することを明らかにしました。

そして、中国が開発を進めるワクチンが実用化されれば、世界的に流通させるとともに、途上国にも安く供給する考えもあわせて示し、途上国を中心に国際社会での影響力を強めていくねらいがあるものとみられます。

このほか、各国で真相の究明を求める声が上がっているウイルスの発生源については「各国の科学者が発生源と感染ルートについて研究を行うことを引き続き支持する」と述べるにとどめました。

中国「総会では国際協力強化を強調」

WHOの総会について、中国外務省の趙立堅報道官は、18日の記者会見で「WHOの対応への評価とウイルスの発生源の調査を開始するには、まだ時期が熟していない」と述べて、新型コロナウイルスの感染拡大へのWHOの対応の評価やウイルスの発生源の調査は、時期尚早だという立場を示しました。

そのうえで、「中国は科学と協力の精神で、国際協力の強化と国際的な衛生システムの改善に集中して、建設的な議論を展開したい」と述べて、総会では国際協力の強化を強調する考えを示しました。

WHO元職員らが見る米中対立

アメリカのトランプ大統領がWHOは「中国寄り」だと批判していることについて、テドロス事務局長は真っ向から否定する姿勢を示しています。

トランプ大統領が先月、WHOへの資金拠出の見直しを示唆した直後の会見では「WHOはすべての国と近い関係にあり、人種で差別はしない。ウイルスを政治問題化しないでほしい」と述べました。

一方で、WHOは中国の新型コロナウイルスへの対応を高く評価し続けています。テドロス事務局長は、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した、ことし1月30日の記者会見で「中国は素早い検査、隔離、ウイルス解析を行い、それをWHOや世界と共有してくれた。ことばにならないほど感銘を受けている。透明性を確保し、ほかの国の助けにもなっている」と述べ、中国は透明性を持って迅速に対応しているという認識を示しました。

また、WHOの事務局長補で2月に中国に派遣された調査チームのトップを務めたエイルワード氏は、スイスに帰国したあと行った会見で「中国は本当にうまくやっている。もし私が感染したら中国で治療を受けたい」と述べ、各国のメディアの間で大きな波紋を呼びました。

中国を評価する背景には、2003年に新型肺炎「SARS」が流行した際、中国政府が当初情報を公開せず、WHOへの情報提供や現地調査の受け入れを拒み続け、感染が世界に広がった経験があるとみられています。

当時、WHOの感染症対策部長だったデビッド・ヘイマン氏は今月、NHKのインタビューに応じ、「SARSの際、中国は情報を報告せず、国際社会とも協力しなかった。中国の協力なしで、感染拡大の防止に取り組むのはとても困難だった」と述べ、当時、直面した難しさを振り返りました。

そのうえで、「加盟国から情報を得るために何が必要か、それを決めるのは事務局長の仕事だ。今回、中国は世界と情報を共有している。どうやって都市封鎖を行い、解除するかなど、私たちは中国から多くを学んでいる」と述べ、テドロス事務局長が築く中国との関係性が一定の成果を上げているという見方を示しました。

一方で、15年以上にわたってWHOに勤務し、現在もアドバイザーを務めるイロナ・キックブッシュ氏は、中国に対して慎重な見方を示しています。

キックブッシュ氏はNHKのインタビューに対し、WHOが中国当局から去年12月末に原因不明の肺炎患者の報告を受けたとしていることについて「専門家や医者の中にはそれよりもずっと前に何かが起きていたと指摘する声もある。湖北省武漢で去年11月から12月にかけて何が起きていたのか、私たちはいまだに把握できていない。中国とWHOのやり取りには透明性が欠けていたかもしれず独立した評価が必要だ」と述べて、中国は感染が広がった経緯についてもっと明確にすべきだという考えを示しました。

さらに、WHOをめぐってアメリカと中国が激しい対立を続けていることについて、「中国はSARSが起きた17年前とは比べ物にならないほどの発展を遂げている。今や地政学的なプレーヤーとなり、国連の枠組みの中で、より力をもつという長期的な戦略をもっている。これはWHOにとって極めて新しい事態だ。WHOがこのような地政学的な争いに巻き込まれたことは冷戦中ですらない」と述べて、世界の保健医療の重要な政策を担うWHOが政治的な対立の舞台となっていることに懸念を示しました。