スポーツクラブの休止相次ぐ 経営や選手育成に懸念も

スポーツクラブの休止相次ぐ 経営や選手育成に懸念も
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国高校総体などスポーツの大会が相次いで中止となっています。
子どもたちが通うスポーツクラブも活動を休止して経営的に厳しい状況になっているところがあります。
身近にスポーツを親しむ場として存在してきたクラブがなくなることで、地域からオリンピックにつながる育成の場所が失われる懸念もあります。
東京 江戸川区にあるスイミングクラブ「東京ドルフィンクラブ」は、幼稚園から小学校に通う地域の子どもたちを中心に、およそ2000人の会員を抱えています。

中学生や高校生で本格的に競技に取り組んでいる選手もいて、リオデジャネイロオリンピックに出場した池江璃花子選手もかつて通うなど、トップクラスの選手も育ててきました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、今月8日から休業し、毎月行っている会費の徴収も取りやめました。

それでも25メートルの長さがあり、6つのコースを持つ室内プールには水を張り、水温を一定に保っています。一度、水を抜いてしまうと、再び水をためて水温を上げるのに時間や費用が掛かることや設備がさびるのを防ぐことが理由ですが、維持するのにも大変な費用が掛かります。

支配人の清水桂さんは「固定の維持費は年間でおよそ1000万円になるほか、60人いる従業員の給料を払うことを考えると、休業期間が3か月を超えると経営は厳しいです。スイミングクラブはどこも同じくらいの難しい状況だと思います」と話しました。

こうしたスイミングクラブは屋外のプールが多い学校と違って、室内のプールを備えているため、1年中、練習ができます。

多くのスイミングクラブで、選手たちは幼いころから毎日のようにコーチと顔を合わせ、コーチは長年にわたり、選手の成長を見守ることで、学校の部活動と別に日本のトップ選手育成の役割も担ってきました。池江選手もそうして、このクラブから世界に飛び出していきました。

東京ドルフィンクラブでは今、本格的に競技に取り組む選手たちに自宅でできる練習メニューを伝えていますが、清水さんは「泳ぐ感覚はプールの中でしか養われません」と話しています。

清水さんは「地域のスイミングクラブから世界に出られる選手を頑張って育成したいし、多くの子どもたちもそれを目指しています。そうした場所がなくなってはまずいと思っていますし、子どもたちには再開できる希望を持って、家でできることをやりなさいと伝えています」と話していました。

オンライン活用のスポーツクラブも

試合や全体練習といった活動を休止している子どもたち向けのスポーツクラブの中には、オンラインを活用してさまざまな試みを始めているところがあります。指導者の中にはクラブが子どもたちのコミュニティーとしての役割を持っていることに改めて気付かされている人もいます。

東京 杉並区のサッカークラブ「FCレガウ」は、幼稚園児から中学1年生まで、およそ100人の子どもたちが所属し、コーチも7人います。

しかし、今月上旬から試合や全体練習といった活動を休止し、会費も徴収していません。代表を務める青木玲雄さんはコーチたちへの支払いなど経営面に懸念を示したうえで、子どもたちについて「運動不足に加え、予定されていた大会もなくなりました。この先、どういうモチベーションでどういった練習をやっていけばいいのかを考えています」と現在の状況を心配していました。

こうした中、青木さんが取り組み始めたのがオンラインの活用です。子どもたちに自宅でサッカーに親しんでもらおうと、プロ選手の映像や屋内でできる練習メニューを紹介しています。

このほか、それぞれの練習の様子を動画で撮影してもらってコーチに送り、映像を見たコーチが個別にアドバイスする方法を提案しています。

また、子どもたちが集まれる機会を提供しようと、今月12日、オンラインでミーティングを開きました。40人ほどが参加しましたが、青木さんはその時、サッカーの練習の時には見えなかったクラブの役割に気がついたと言います。

「子どもどうしで大人数でしゃべるということがしばらくなかったので、子どもたちもすごく興奮していて、また違った一面を見ることができました。きのう何をしていたとか、どんなテレビ番組を見ていたとか、ふだん話さないようなことも話していておもしろかったです。コミュニケーションに飢えていたのかなと思いました」。

子どもたちの評判は上々で、その後も週1回の割合でミーティングを開催、参加率は9割近いと言います。

今月22日に取材をさせてもらった小学校高学年のミーティングには、およそ40人が参加しました。ここでも子どもたちがふだんの生活について互いに報告しあったほか、サッカーについてどうすれば上達するか、活発に意見を交わしていました。

参加した男の子の1人は「ミーティングに参加すると懐かしい気持ちになるし、心が晴れます。話が出できることは楽しいです」と話しました。

青木さんは「前回のミーティングでリフティングの話になったら盛り上がって、そこからどんどん子どもたちが積極的に自主練習をするようになっていきました」とミーティングの効果を説明したうえで「みんなが笑顔で楽しいと言ってもらえるのを見ると、またやりたいかなと思います」と、クラブが持っている子どもたちのコミュニティーとしての役割を改めて感じている様子でした。

青木さんは10代でブラジルにサッカー留学をした経験を踏まえ「国が違ってもサッカーを通じて仲よくなったという経験が自分にはあるので、年齢や学校が違っても友人を作ってほしいという思いがあります。今は体を動かせない時期ですが、再開できるときにはサッカーの楽しさがより分かるし、友人とのつき合い方や仲間意識がすごく感じられるのではないかと思います」と練習の再開を心待ちにしていました。

専門家「組織が耐えられるか心配」

子どもたちのスポーツクラブの運営に詳しい順天堂大学の内藤久士教授は、活動休止によるクラブの経営への影響について「スポーツクラブにはさまざまな形態があり一概に言うことは難しいが、プールなど施設の管理や維持にお金がかかる場合、厳しい状況に追い込まれるのではないか。また、正規雇用でなく、時間契約でコーチやインストラクターをしている人たちが最初に影響を受けるので、クラブが活動を再開したときにこうした人たちが戻ってこられるかどうかが懸念される」とコーチなどの雇用面も課題になると指摘しました。

また、スポーツクラブが担ってきた育成面への影響については「子どもはすごく伸びしろがあるので、この何か月か十分なトレーニングができなくてもその後に取り返せると思うが、指導者を抱えたクラブ組織が休止に耐えられるかという点が心配される」と述べました。

一方で、スポーツクラブの活動が再開された後について、内藤教授は「子どもたちがみんなで集まって練習ができるという時には、スポーツをする楽しさとか、ふだんやっていることのありがたさを実感できると思う」と子どもたちのスポーツへの意欲の高まりに期待を示しました。

また、指導者に対して「改めてスポーツの大切さや価値について考えてもらうと、違った視点で子どもたちを指導できるのではないか。これまで大会で勝つことだけが目的だったけれども、子どもたちが集まってみんなで何かをしていることが大切な価値だということに気付いてもらえればいい」と述べ、活動の休止を前向きにとらえて、コミュニティーの場としての意味合いも含めて、今後のスポーツクラブの運営方針を考えるきっかけにしてほしいと話していました。