感染拡大で「手術が受けられない」 がん患者から不安の声

感染拡大で「手術が受けられない」 がん患者から不安の声
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新型コロナウイルスに入院患者や医療スタッフが感染するなどして手術の延期など感染症以外の診療を大きく制限せざるをえない医療機関が出てきています。がんの患者団体には、患者や家族から「治療の先行きが見通せない」といった不安の声が相次いで寄せられています。
各地の大学病院などでは、新型コロナウイルスに感染した患者の治療にスタッフを振り向けたり、医療スタッフに感染者が出たりして、感染症以外の患者の診療を大きく制限せざるをえない医療機関が出てきています。

がんの患者団体でつくる「全国がん患者団体連合会」によりますと、首都圏など都市部を中心にがんの患者や家族から、新型コロナウイルスの院内感染が起きた影響で手術が延期になったとか、手術を終えたあと、がんの再発を防ぐための術後の抗がん剤治療などを受けられないといった声や、治療の先行きが見通せなくなったという不安の声が相次いで寄せられているということです。

全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「がんや命に関わる病気で、ふだんなら受けられる治療が受けられず、助からなくなる可能性があるという今の状況は、ひと事ではないと考えてもらいたいです。そのうえで、新型コロナウイルスの感染拡大と医療崩壊を防ぐために、外出の自粛など身の回りでできることを多くの人たちに実行してもらいたい」と話していました。

患者受け入れも 看護師感染で8割の手術延期

東京 江東区にある「がん研有明病院」は、新型コロナウイルスに医師や看護師、入院中の患者が感染するなどして、手術や感染症以外の診療を大きく制限せざるをえない医療機関から、緊急の手術が必要ながん患者の受け入れを今月から始めました。

がん研有明病院は、がん患者の受診が国内で最も多く、土日にも手術室を使えるよう臨時のシフトを組むなどして手術ができる回数を2割ほど増やしてきました。

しかし本格的に別の病院から患者を受け入れ始めたやさきの19日、勤務する看護師が新型コロナウイルスに感染していることが分かりました。

接触したおよそ110人の医師や看護師などのスタッフが自宅待機となったため、手術に対応できるスタッフが足りなくなり、20日からは急きょ、およそ8割の手術について延期せざるを得なくなったということです。

がん研有明病院の佐野武病院長は「多くの手術を行う予定にしていたが、万が一にも感染を広げないという考え方のもと、手術を縮小するという苦渋の決断をした。対応できるスタッフを集めて可能なかぎり手術を続け、自宅待機のスタッフの健康観察期間が終わって復帰すれば、大型連休の間、すべて手術室を開けて遅れている手術をなんとか行いたい」と話しています。

患者「手術中止で2回告知を受けた気分」

東京都内に住む50代の男性は先月中旬、都内の大学病院で耳の下の唾液をつくる器官「耳下腺がん」と診断されました。

すでに進行した状態で転移のおそれもあったため、今月8日に緊急手術を受ける予定でしたが、手術を1週間後に控えた今月2日、主治医から病院で入院中の患者が新型コロナウイルスに感染しているのが確認され手術ができなくなったという連絡を受けました。

男性は「がんと診断されてから数週間、どんどん大きくなっているように感じていたので、一刻も早く手術で切ってもらいたいと思っていました。手術中止の連絡を受けたときは、がんが見つかったときよりショックが大きく『死ぬんだな』と感じ、2回目のがん告知を受けたようでした」と語りました。

その後、主治医が患者を受け入れていたがん研有明病院と連絡をとって、急を要する手術だということで転院が決まり、男性は今月16日に手術を受けることができました。

男性は「本当に感謝していますが、自分は運がよかったのだと思います。新型コロナウイルスの影響で大学病院などでの手術が次々に中止されていて、同じような境遇の人はたくさんいるはずです。患者は自分自身で対応できないので、感染症以外の重い病気の治療も受けられるような体制を作ってほしいです」と話しています。

日本外科学会 治療の優先順位の目安

日本外科学会は、新型コロナウイルスの対応で医療体制がひっ迫した状況では、数か月以内に手術をしないと命に関わる患者以外は、手術を延期するべきなどとした、治療の優先順位をつける際の目安を取りまとめています。

日本外科学会が今月14日に出した目安によりますと、医療体制がひっ迫している地域や医療機関では命に関わらない、急を要しない病気の患者や、潜在的には命に関わったり重症化したりする危険性はあるものの、すぐには悪化しない病気の患者については、新型コロナウイルスに感染していなくても手術を延期するべきだとしています。

一方で、数日から数か月以内に手術をしなければ命に関わる病気の患者については、感染が確認されているか感染の疑いがある場合でも「感染予防策を行って慎重に手術を実施するべきだ」としています。

そして手術は、必要最小限の範囲の処置にとどめるなど、医療がひっ迫している間は、患者と医療体制への負担を減らすよう工夫するべきだとしています。

学会サイトに情報掲載 主治医と相談する際の参考に

新型コロナウイルスで重症化しやすいとされるがん患者について、どう対応すればよいか、がんの専門学会がウェブサイトに情報をまとめました。

治療は予定どおりに行われるべきだが、早期のがんでは4週間ほどの手術の遅れは許容できるなどとしていて、主治医と相談する際に参考にしてほしいとしています。

日本臨床腫瘍学会は、がん患者の新型コロナウイルスへの対応について情報をまとめ、14日にウェブサイトに掲載しました。

この中では、過去1か月以内に抗がん剤や手術を受けた患者は、感染した場合に重症化するリスクが高いという報告があるとしています。

そのうえで、がんの診断を行うための検査について、せきや発熱などの症状がなければ予定どおり受けるべきだとしながら、感染のリスクが高い地域では2週間から4週間、検査の延期を考えてもよいとしています。

また、予定している手術については、遅れずに行われるべきだとしつつも、早期のがんでは4週間ほどの手術の遅れは許容できることや、抗がん剤治療については効果を下げずに回数を減らす方法も考えられると示しています。

さらに、せきや発熱など感染が疑われる症状が出たら主治医に連絡してほしいとしています。

学会の石岡千加史理事長は「情報が少ない中、多くの患者さんが、治療を継続できるか不安に思っている。主治医と話し合ってもらう際の参考にしてほしい」と話しています。