学校再開は? 難しい自治体の判断 日々変化する感染状況の中で

学校再開は? 難しい自治体の判断 日々変化する感染状況の中で
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一斉休校から1か月です。新学期を迎えるにあたり、多くの地域は小中学校を再開させる見通しですが、感染状況は日々変化しています。特に、感染者が急増している東京、大阪などは、大型連休明けまで休校とするところが多いと見られ対応が分かれています。
政府の要請を受けて、全国の98%を超える小中学校などが全国一斉に臨時休校してから1か月です。

文部科学省は先月24日、政府の専門家会議の提言を受け、新学期からの学校再開は、感染症対策を徹底したうえで、地域の感染状況に応じて判断するよう、全国の教育委員会などに求めました。

専門家会議は、感染状況に応じて、地域を3つに分けましたが、どの区分に相当するかは、各自治体に判断が委ねられています。

NHKが、2日午後5時の時点で、各地の放送局などを通じてまとめたところ、「感染未確認地域」に相当する岩手県や鳥取県、それに島根県、「感染確認地域」にあたるとしている新潟県や福井県、滋賀県などの小中学校については、来週以降、再開するところが多い見通しです。

一方、直近の1週間に、感染者が大幅に増えている「感染拡大警戒地域」のうち、東京は、まだ方針が決まらない自治体もありますが、島しょ部や一部自治体を除いて、大型連休明けまで、小中学校で休校を続けるところが多くなる見通しです。

また、大阪府は、大型連休明けまで休校とするよう府内の市町村に要請することを2日決めました。

しかし、再開予定だった地域でも、福岡市が2週間延期したほか、熊本市は2日、大型連休明けまで休校を延長する方針を示すなど、感染状況が日々変わるなか、自治体は難しい対応に迫られています。

教育現場の実情に詳しい千葉大学教育学部の藤川大祐教授は、「感染の拡大防止が最優先となる中で、休校は避けがたいと思う。しかし、そうした中でも教育現場はやれることを考える必要がある。再開する地域でも、またいつ休校になるかもしれないという心構えで準備をしていく必要があり、そんな中でも学べる環境をこれまで以上に作っていく必要がある」と話しています。

文科省「子どもたちの学ぶ環境確保にバランスのとれた手段を」

地域によって休校と再開の対応が割れている実態について、文部科学省に考えを聞くと、「学校の設置者は、いろいろな意見があるなか、判断を迫られて大変だと思いますが、専門家会議の報告書や文部科学省の指針を見ていただき、保護者や地域の人々にも説明した上で、冷静に判断していただきたい。子どもを守るということは最も大事ですが、小中学校は義務教育なので子どもたちが何か月も学校に行かなくていいのか、子どもたちの学ぶ環境をどうやって保障するかを総合的に考えて、バランスのとれた手段を講じて欲しい」と話しています。

休校長期化でオンライン授業

休校が長期化する中、子どもの学習の機会をどのように確保していくのか、学校では模索が続いています。

熊本市の楠小学校です。現在も臨時休校が続いています。

学校を訪ねると、先生たちが教室内の消毒などを行っていました。さまざまな問題が山積する中、学校がいちばん気にかけていたのは、授業でできなかった学習の遅れをどうするかでした。
5年生の中島咲耶さんです。

両親は共働きのため、休校中、2歳上の姉と2人で自宅で過ごしていますが、どうしても動画をみたりゲームをしたりして、多くの時間を費やしていたといいます。

咲耶さんは「やることがなくなって、暇だなって。いけないなと思うけど、YouTubeとか見ちゃいます」と振り返ります。
こうした中、学校が試したのがタブレット端末を使ったオンライン授業です。

この学校には授業で使用するタブレット端末があり、4年生と5年生に持ち帰ってもらいました。
そこに、専用のアプリを使って、子どもたちとインターネットを使って遠隔で「朝の会」を開いて、健康状態を聞き取ったり英語や国語の授業を行ったりしたということです。

オンライン授業を試した山下若菜教諭は「最初につながったときは、何とかちゃーん、何とかくーんといって、すごく楽しそうにしていました。毎日つながって、子どもたちの様子も知れたので、意味はあったと思います」と話しました。
咲耶さんも、このオンライン授業で、短い時間でも先生や友達とつながったことで、「みんなと一緒に勉強もできたし、授業に参加したみたいな楽しい気持ちになりました」と言いました。

一方で、まだオンライン授業自体は正式なカリキュラムでなく、端末も1人1台ありません。市内でも感染者がでており、学校再開の見通しはたっていません。

それでも山下教諭は「今できることは何なのか、今すべきことは何なのか、考えないといけない。ただ、学校でしかできない経験や学びもあると感じます。バランスが難しいですが、子どもたちに早く学校で学ばせてあげたいです」と前を向いていました。

オンライン教育 先進校では

こうしたタブレット端末などを使った授業に、今回の一斉休校前から取り組んできた学校もあります。

福島県広野町にある県立の中高一貫校「ふたば未来学園」。福島第一原発の事故でふるさとから離れた子どもたちに、もう一度、学びの場を与えようと設立された学校です。

この学校では生徒1人に対し1台のタブレット端末などを貸与し、全国に先駆けてオンライン教育に取り組んでいます。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、先月から休校となっていますが、生徒とは、毎日オンラインでつないで、健康状態や宿題の進捗(しんちょく)を確認するだけでなく、授業も行っていました。

この日も、ホワイトボードの板書をモニターに映して授業が行われ、先生と生徒は、チャット機能を使ってやり取りしていました。

新田健斗教諭は「子どもたちの多様な意見を吸い上げられ、1対1の時間も作りやすく、これまでの学校ではできなかったことも可能になる。本当は教室で目を合わせて授業をしたいが、このような状況の中、今できることを全力でやっていきたい」と話していました。

さらに、学校ではNPOと連携して「オンラインランチ」というユニークな取り組みも行っています。参加は自由ですが、昼食の時間に生徒どうしがオンライン上でつながり、一緒にごはんを食べながら、何気ない会話を楽しみます。外出もできず、学校で友達とも会えない生徒たちにとっては、大事な時間だといいます。

NPOスタッフの川瀬吏恵さんは「コンビニで1人で食べている生徒も多い。友達にも会えない状況で気がめいっている中、すごくプライベートな話もできる場だと思います」と話していました。

専門家「ネット利用 格差への対応が課題」

各地で始まりつつあるオンライン教育について、デジタル教育に詳しい千葉大学教育学部の藤川大祐教授は「休校により、教員が子どもたちと一緒にいられないというのが前提になった中で、どうやって子どもに学ぶ機会を与えるか、おそらく初めて真剣に考える機会になったのではないか。

そうした中、各地でさまざまな工夫がなされ、その成果が少しずつ共有されている意義はとても大きいと思う」と話しました。

一方、オンライン教育を今後、広げるための課題としては、「家庭によってインターネットの利用状況がかなり違っている。非常に慣れている家庭もあれば、インターネットの接続自体が難しい家庭もある。学校で行う指導よりも格差への対応が、より深刻になるので、そこは大きな問題だと思う。再開できても、感染状況によっては、いつ休校になるかもしれないという心構えで、準備をしていく必要がある」と指摘しました。