臨時休校に伴う助成活用されず 厚労省 企業に利用促すよう指示

臨時休校に伴う助成活用されず 厚労省 企業に利用促すよう指示
臨時休校で仕事を休まざるを得なくなった保護者の所得を補償する国の助成制度をめぐり、「利用させてもらえない」という相談が複数、寄せられているとして、厚生労働省は全国の労働局に実態を把握して企業に利用を促すよう指示しました。
政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた臨時休校で仕事を休まざるを得なくなった保護者への支援策として、企業が従業員に年次有給休暇とは別に有給の休暇を取得させた場合、日額8330円を上限に助成する制度を設けています。

しかし全国の労働局に設置している特別相談窓口には「この制度を会社に利用させてもらえない」という相談が保護者から複数、寄せられているということです。

厚生労働省は今後、こうした相談が増加することが想定されるとして先月25日付けで全国の労働局に通知を出し、労働者から相談があった企業の実態を把握したうえで、相談者の了解を得たうえで速やかにその企業に電話や訪問をするなどして制度の利用を促すよう指示しました。

厚生労働省は「企業はできるだけ助成金を活用し、従業員が休みやすい環境を整えてほしい」としています。

サイゼリヤ “国の制度は利用せず独自の制度で対応”

外食チェーン大手の「サイゼリヤ」の千葉県内の店舗でパート従業員として働く30代の女性は先月、国の制度が活用できないか店長に相談したところ、国の制度は利用せず、独自の制度で対応すると説明されたということです。

その際、示された書類には子どもの通う学校の臨時休校に伴う休業補償として一律で日額2000円を支給すると書かれていました。
女性は週に4日から5日、日中の5時間勤務し、1日当たり4600円余りの賃金を得ていますが、長男の通う幼稚園が新型コロナウイルスの感染拡大に伴って休園し、先月中旬から仕事を休まざるを得なくなっています。

会社独自の制度では1日働いた場合の半分にも満たなくなってしまうということで、「店長からは国の制度を利用すると、休む人が増えて仕事やシフトが回らなくなるから利用できないと言われました。パート代は食費や子どもの習い事にあてていたので、生活は非常に苦しくなります。会社には私と同じような立場の人はいっぱいいるので制度が利用できるようにしてほしい」と話していました。

サイゼリヤはNHKの取材に対し「現在、検討をしている段階ですので、コメントは差し控えさせていただいております」としています。

機械メーカー子会社の女性「企業が申請では意味がない」

東海地方にある大手機械メーカーの子会社に勤める30代の女性は、1年生の長女が通う小学校が臨時休校になり、国が設けた新たな助成制度を使って有給休暇を取得できるかどうか、会社に問い合わせたところ「親会社が導入していないので、うちも使う予定はない」と取り合ってもらえず、休みを取る場合は年次有給休暇を使うか、そうでなければ無給の扱いにすると伝えられたということです。

このため女性は長女を近所の友人や、車で3時間かかる義理の両親の家に預けるなどしてなんとか出勤しているということです。

それでも誰にも預けられない日もあったため、休暇を9日間取得しましたが、年次有給休暇を少しでも残しておこうと、このうち3日間は無給の扱いにしたということです。

女性は「業務の関係で在宅勤務もできないので、調整が大変で疲れました。こんな時のために有給休暇をとっておいたわけではないし、補償がないと厳しいと感じています。国がいくら助成金を出すといっても、企業側が申請しなければ利用できないのでは意味がなく、もっと使いやすい制度にしてほしい」と話していました。

労働組合に相談相次ぐ

労働組合には休業補償に関する相談が相次いで寄せられています。

NHKが連合と全労連、全労協に新型コロナウイルスに関連した相談の数とその内容を聞いたところ、先月上旬以降、少なくとも合わせて600件の相談が寄せられ、このうち休業補償に関するものが134件、解雇や雇い止めに関するものが63件などとなっています。

中には「子どもを連れてきて働いてくれ。休めば無給だ」とか、「子どもの世話で1か月休むならほかの人を雇う」などと、会社側が臨時休校に伴う助成制度を利用しようとしないケースもあるということです。

外食チェーン大手の従業員の相談を受けている労働組合は、背景には人手不足に加えて制度上の問題があると指摘します。

助成制度は、企業が休暇を取得した従業員に1日当たりの賃金に相当する額を支払った場合に国が8330円を上限に支給しますが、上限を超えた分は企業の負担となります。

総合サポートユニオンの青木耕太郎共同代表は「賃金が助成制度で支払われる金額の上限を超える従業員にも全額を支払わないと対象にならないため、そうした従業員が制度を利用すればするほど企業にとっては負担が大きく利用しづらい制度になっている。上限額の引き上げや、労働者側から申請できるようにするなど、早急な制度の見直しが必要だ」と話していました。

労働弁護団「制度の見直し検討すべき」

日本労働弁護団の棗一郎弁護士は臨時休校で仕事を休まざるをえなくなった保護者の所得を補償する助成制度を活用しない企業が相次いでいることについて「政府の要請で学校が一斉休校し、休まざるをえない、やむをえない休業なので企業側が制度を活用しないのは間違っている。従業員の生活を保障するため、制度を使いながら休業を認める責務がある」と述べ、制度の趣旨に反していると指摘しました。

そのうえで助成する金額に上限があり、企業側に負担が生じることについて「国が賃金の全額を助成するか、少なくとも8割程度を助成するようにすれば、会社側も制度を使いやすくなるので、国は制度の見直しを検討すべきだ」と話していました。