日銀短観 7年ぶりマイナス 大企業製造業の景気判断悪化

日銀短観 7年ぶりマイナス 大企業製造業の景気判断悪化
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日銀は1日、短観=企業短期経済観測調査を発表し、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大企業の製造業の景気判断を示す指数は、7年ぶりにマイナスに落ち込みました。また、ホテルや飲食店の景気判断が急落して過去最低になり、景気の見方が急速に悪化していることが浮き彫りになりました。
日銀の短観は国内の企業およそ1万社を対象に、3か月ごとに景気の現状や先行きを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

2月下旬から先月末にかけて行われた今回の調査では、大企業の製造業の指数が前回調査の0ポイントからマイナス8ポイントに下がりました。

悪化は5期連続で、指数がマイナスとなるのは2013年3月以来、7年ぶりです。

新型コロナウイルスの感染拡大で世界規模で需要が減り、工場の生産停止が広がる「自動車」がマイナス17となったほか、「鉄鋼」がマイナス15と落ち込みが大きくなっています。

また、大企業の非製造業は前回の20ポイントから8ポイントに下がりました。

中でも落ち込みが際立ったのが、ホテルや旅館、飲食店が入る「宿泊・飲食サービス」で、外国人旅行者の著しい減少やイベントの自粛が響き、プラス11から一気にマイナス59と過去最低に急落しました。

中小企業の景気判断も、製造業・非製造業ともほとんどの業種で悪化しました。

先行きについても、大企業の製造業がマイナス11、非製造業がマイナス1と、さらに悪化すると見込み、感染拡大の影響が経済全体に広がって、企業経営者の景気の見方が急速に悪化していることが浮き彫りとなっています。

ただ、今回の調査では7割の企業が3月上旬までに回答を終えていたため、欧米や国内で感染拡大が日々、深刻化する最近の状況や、株式市場の記録的な値下がりなどは反映されていない可能性があり、専門家などからは、企業の景気判断はさらに厳しくなっているという指摘もでています。

自動車部品メーカーに深刻な影響

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で自動車メーカーが生産を一時停止する動きが世界中に広がり、部品メーカーに深刻な影響が出ています。

東京に本社をおく「昭芝製作所」は、茨城県筑西市の工場でエアバッグの部品などを生産しています。自動車メーカーの生産が減ったためこの3か月間で売り上げが2割ほど落ち込み、工場の生産ラインを部分的に停止させています。

さらに受注が減る事態が見込まれるため、会社は30日、会議を開き、4月は数日間操業を停止し電気代などの固定費の削減を徹底することになりました。2008年のリーマンショックのときは売り上げが3分の1に落ち込み、一時、週2回の操業停止を余儀なくされました。今回、それ以上の事態が起きないか心配しています。

三原寛人社長は、「海外の主要都市に都市封鎖の措置が広がり、人々の経済活動が止まって需要と供給がともに遮断された状態だ。コロナショックでは、リーマンショックのときよりも急激な売り上げの減少が起こりうると考えている」と話します。

さらにいま会社が懸念しているのは、部品の加工などを依頼している規模の小さい取引先の経営状況です。感染拡大が長期化することで、取引先の経営が厳しくなれば、部品の供給網・サプライチェーンが途絶え、生産できなくなるおそれがあります。このため代金の前払いなどで取引先を支援しようと連絡を取り始めたということです。

三原社長は、「需要が100%に戻るのかわからない中で、景気が冷え込めばどれほどの企業が耐え続けられるか、心配している」と話しています。

住宅建築にも影響

影響は、国内の住宅の建築現場にも及んでいます。フローリングやトイレなどの住宅設備の原材料が中国から届かないため生産が遅れ、国内の住宅メーカーなどは、住宅の引き渡しが大幅にずれ込むおそれがあるとして、対応に追われています。

国内の住宅メーカー向けに、フローリングなどの建材を中国から輸入している名古屋市の専門商社では、新型コロナウイルスの感染拡大で中国にある取引先の建材の加工工場の操業が一時、ストップしました。

現在、工場は再開しているものの、建材の輸入が当初の予定より1か月以上、遅れる状態が続いていて、3月の売り上げは去年と比べておよそ30%落ち込みました。興亜通商の鄭興社長は、「いつ感染拡大が終息するかも分からないため、住宅やマンションなどの需要の先行きも、見通せずに困っています」と話していました。

また、愛知県豊川市の住宅メーカーでは2月の中旬から、住宅設備メーカーにトイレやシステムキッチンの注文をしても「中国からの原材料や部品の調達が遅れているため、対応できない」と断られるようになりました。

このメーカーでは、5月中旬以降に、完成予定の住宅については、引き渡しが大幅にずれ込むおそれがあるとして、顧客に連絡を入れるなどの対応に追われています。イトコーの伊藤博昭専務取締役は、「住宅設備のところにまで感染拡大の影響が広がるとは思わなかった。われわれは住宅が完成しないと代金をもらえないので、資金繰りも心配です」と話していました。

タクシー会社では売り上げ半減も

函館市内のタクシー会社の先月の売り上げは去年の同じ時期と比べて半減していることが分かりました。

函館地区ハイヤー協会によりますと、函館市にある20社のタクシー会社の先月1か月間の売り上げは速報値でおよそ2億円と去年の同じ時期に比べ、半減しているということです。

協会によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光客の需要が大幅に減少していることや2月28日から先月19日までの間、北海道が出した緊急事態宣言を受けて、外出を自粛する動きが広まり、タクシーの利用が減少したことが大きいということです。

官房長官「雇用維持と事業継続のため何でもする」

菅官房長官は午前の記者会見で「新型コロナウイルスによって、国内外の経済活動が一時的に縮小を余儀なくされており、日銀短観も、それを反映したものだと考えているが、現在は国内の感染拡大を抑えることが最優先だ」と述べました。

そのうえで、「まずは、今の状況をしのいでもらうことが大事で、雇用の維持と事業の継続のためできることは何でもするという考え方にたって、あらゆる対策を講じており、政府系金融機関の融資や政府による助成金などにより、当面の資金をしっかり支援していきたい。そのうえで、感染が収まったあとにV字回復を実現するため、旅行、飲食、イベントを中心に大規模な需要喚起を実現できるような措置を講じる予定だ」と述べました。