無観客での大相撲 来場所に向け課題も

無観客での大相撲 来場所に向け課題も
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、観客を入れずに行われた異例の大相撲春場所は、力士を含めた関係者に1人も感染者を出さずに終わりました。一方で、どんなに感染防止対策を徹底したとしても見えないウイルスの感染リスクがなくならない危うさは、5月に迫る次の夏場所の開催の在り方に明るい見通しを示せたとは言えません。

力士や行司の所作に注目集まる

観客を入れずに行われた春場所。
これまで勝負の陰に隠れ、注目されることが少なかった大相撲の「神事」としての存在価値を改めて認識させました。
「古来から力士の四股(しこ)は、邪悪なものを土の下に押し込む力があると言われてきました」

初日の相撲協会の八角理事長のあいさつは、大相撲が持つ側面のうち、伝統文化や「神事」としての意義を前面に押し出し、観客を入れずに開催する理由を説明しました。
1500年近いとも言われる長い歴史の中で「神事」「興行」、近代以降は「スポーツ」という3つの側面を、時代に即して微妙にバランスを変えながら成り立ってきた大相撲。
春場所では、これまで勝負の陰に隠れていた力士や行司の一つ一つの所作が持つ意味に注目が集まりました。

静寂の中で行われた横綱土俵入りでは、行司が発する「しー」と言う声。「警蹕」と呼ばれ「静粛に」という意味の声が、はっきりと聞こえたほか、横綱が土俵の砂をする足の音や、四股(しこ)を踏んだ際の音が響き渡り、いつも以上に緊張感を感じさせました。

力士の奮闘

こうした中で行われた場所で、力士たちは力のかぎりの相撲を見せました。
序盤は観客がいないという初めての経験に、「湧き上がってくるものがない」「不思議な感じ」などと戸惑いの声をあげる力士もいましたが、日ごとに適応し7年ぶりとなった千秋楽の横綱どうしの相星決戦で優勝が決まるなど、熱のこもった場所となりました。

感染リスクなくならない危うさも

力士の奮闘の一方で、相撲協会はおよそ700人いる力士に「一人でも感染者が出た場合、その時点で中止」という方針を示していました。
感染症の専門家のアドバイスを踏まえて、マスクの着用と消毒の徹底、公共交通機関を使わず、車かタクシーを使っての移動、不要不急の外出自粛も打ち出し、37度5分以上の発熱が2日続いた場合、原則として休場とするなど、徹底して感染のリスクを下げる対策を実践しました。
それでも見えないウイルスからの感染を防ぎ、千秋楽までの15日間を無事に乗り切れるのか、初日から緊張の連続でした。
相撲協会や報道陣の緊張感が最も高まったのは、中日8日目からの3日間。
高熱で休場した幕内力士が翌日になっても熱が下がらず、新型コロナウイルスの検査を受けることになり、協会幹部の1人は「運を天に任せて祈るしかない」と祈り続けました。
検査の結果は陰性、ほうか織炎による発熱と診断され「場所途中の打ち切り」という最悪の事態は避けられたものの、どんなに対策を取ったとしても感染のリスクがなくならない危うさが浮き彫りとなりました。

興行面では

さらに興行面でも今後に不安を残します。
春場所15日間の入場料収入として見込まれた、およそ10億円を無観客開催で失い、協会幹部は「来場所以降も無観客、あるいは中止が続けば財政事情も厳しくなってくる」と危機感を口にしています。

迫る夏場所 課題は山積

千秋楽、15日間すべての取組を終えたあと、八角理事長は「これからも伝統文化を継承し、100年先も愛される国技大相撲を目指して参ります」と改めて決意を示しました。

多くのスポーツの大会や試合が中止・延期に追い込まれる中、相撲界が果敢に挑んだ無観客の場所は、なんとか無事に終わりました。

ただ次の夏場所までは、およそ50日。

観客を入れた場合の感染リスクを減らす対策、万が一、力士に感染者が出て途中で打ち切りになった場合の成績の扱いなど、検討すべき課題は山積みです。

「スポーツ」「神事」「興行」の3つを兼ね備えた大相撲の通常開催に向けた道のりは決して容易ではありません。