「先が見えない」新型コロナウイルス 日本経済への深刻な影響

「先が見えない」新型コロナウイルス 日本経済への深刻な影響
新型コロナウイルスの感染拡大で国内では消費の落ち込みなど、経済に深刻な影響が出ています。
外国人旅行者の減少に加えて、国内の消費者の間で外出を控える動きが広がっていることなどから、国内の大手デパートの中には先月の売り上げが去年の同じ月より10%以上、落ち込んだところがあります。

また、先月国内で販売された新車の台数も去年の同じ月と比べ10%の大幅な減少となりました。

先月、日本に入国した中国人の数は去年の同じ月のおよそ10分の1まで大きく減少し、今月も減少が見込まれています。

さらにイベントの中止や外出の自粛が続いていることから今月も消費が大きく落ち込むと見られています。

こうした中、中小企業の資金繰りに関する相談が急増していて各地に設けられた相談窓口には5万件に近い相談が寄せられています。

民間の信用調査会社帝国データバンクによりますと、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、先月以降、企業が法的整理を申請したり、事業を停止したりしたケースは8件あるということで経営に行き詰まる企業がさらに増えないか懸念されています。

また、中国からの部品や材料の供給が滞り一部の企業の生産にも影響が出ています。

景気の先行きへの不透明感が増す中、ことしの春闘では賃上げに慎重な経営側の姿勢が目立ち、賃上げの勢いにブレーキがかかる形となっています。

働く人たちの景気の実感も急速に悪化し、先月の景気ウォッチャー調査は、景気の現状を示す指数が大幅に悪化し、消費税率が8%に引き上げられた2014年4月以来の大きな下落幅となりました。

このため民間のエコノミストの間では、1月から3月までのGDP=国内総生産の伸び率が2期連続のマイナスとなるという見方も出ています。

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本だけでなく世界経済全体に深刻な影響を及ぼしています。

各国で人の移動が制限され、企業活動が縮小していることから世界経済が減速するという懸念が高まっています。

IMF=国際通貨基金はことしの世界経済の成長率が、過去10年間で最低となった去年のプラス2.9%をさらに下回るという見通しを示していますが、世界経済の先行きは見通せない状況となっています。

自動車部品メーカーは生産調整

新型コロナウイルスの感染拡大は、愛知県に集積する自動車部品メーカーの生産や売り上げにも影響を及ぼしています。

愛知県一宮市の中小メーカー、志水製作所は、車のスイッチやセンサーなどの金属部品を製造し、大手自動車部品メーカーに納入しています。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、国内の自動車メーカーが一部の工場で生産を停止したり減産したりしている影響で、見込んでいた受注が入ってこない状況になっています。

先月の売り上げは、当初の計画からおよそ1割、4000万円ほど減少し、今月はさらなる減少が見込まれるということです。

例年3月は年度末の繁忙期ですが、工場の生産ラインには取引先からの注文待ちを意味する「かんばん待ち」と書かれたボードが掲げられていて、会社は残業を減らすなどして生産調整を行っています。

志水製作所の志水義幸社長は「感染拡大が長期化すれば廃業や倒産も出て、自動車業界のサプライチェーンが切れてしまうおそれもあり、予断を許さない状況だ。政府や県には資金面での手厚い支援をお願いしたい」と話していました。

国内で代替生産 改めて注目されるBCPの重要性

新型コロナウイルスの感染拡大で国内外で工場の操業停止が相次ぎ、部品の供給網、サプライチェーンへの影響も懸念される中、企業が災害時などに備えて策定するBCP=事業継続計画の重要性が改めて注目されています。

愛知県北名古屋市の自動車部品メーカー・大橋鉄工は、国内のほかベトナムにも工場をもち、車のペダル部品などを生産しています。

先月、ベトナムの工場周辺で新型コロナウイルスの感染者が発生したことから従業員の一部が出勤できず、工場の稼働率がおよそ2割低下したということです。

これを受けて会社は、あらかじめ定めていたBCPに基づいて部品の製造に必要な金型をベトナムの工場から北名古屋市の本社工場におよそ1週間かけ輸送して、今月10日から代替生産を始め、減った生産分を補っています。

来月中旬までの間、通常より生産にあたる従業員の残業を2時間ほど増やして、取引先からの受注に対応するということです。

大橋鉄工の大橋雅史社長は「代替生産を事前に検討しておいたことで、安定した供給を続けることができた。感染拡大が続くことの不安は大きいが、不測の事態を想定し万全の備えをとっていきたい」と話していました。

予約の9割キャンセルの料亭は

新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの企業などで接待や宴会を自粛する動きが広がっていることから、名古屋市の飲食店では予約のキャンセルが相次いでいます。

名古屋市中区の老舗の料亭「河文」は企業の接待や宴会などで使われる人気店で、去年11月に名古屋市で開かれたG20外相会合では夕食会の会場にも選ばれました。

例年3月は、歓送迎会などで稼ぎどきですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、先月から今月にかけて入っていた宴会などの予約は9割以上がキャンセルとなり、売り上げは大きく減少しています。

店は少人数客の利用に加え、仕出し弁当やサンドイッチといったテイクアウト商品の販売などで売り上げをなんとか確保し、営業を続けているということです。

若おかみの香川絢子さんは「キャンセルがこれほど出るのは初めてだ。今は耐え時だと思い、前向きなアイデアを出しながら対応していくしかない」と話していました。

銀行は臨時の融資相談

感染拡大の影響で、売り上げが減少するなど資金繰りに困る中小企業が相次いでいることから、名古屋市の地方銀行は休業日の店舗を臨時に開き、企業から融資の相談に応じています。

名古屋市に本店を置く中京銀行は、休業日だった14日、愛知や三重など60余りの店舗を臨時に開き、新型コロナウイルスの感染拡大で資金繰りなどに悩む中小企業からの相談に応じました。

このうち、名古屋市北区の店舗には介護施設や飲食店を運営する企業の経営者らが訪れ、「利用者や売り上げが減少していることから、運転資金を確保するため臨時の融資をお願いしたい」と相談し、銀行の支店長らが状況を聞きとったうえで、活用できる融資の枠組みを提案していました。

相談に訪れた企業の男性は、「この先も影響が続けば、従業員を削減するなどの決断も迫られる。なんとか少しでもこの状況を解決するため、できることをやっていきたい」と話していました。

中京銀行大曽根支店の瀬林寿志支店長は「リーマンショックや東日本大震災の時と異なり、先が見えない不安が大きく、過去に経験したことのない大変な影響を及ぼす可能性がある。今まで蓄えたノウハウを精いっぱい生かし相談や資金調達のニーズに応えていきたい」と話していました。