米中 貿易交渉の第1段階の合意文書に署名 対立緩和は不透明

米中 貿易交渉の第1段階の合意文書に署名 対立緩和は不透明
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米中両政府は貿易交渉の第1段階の合意文書に署名しました。ただ、アメリカが問題視する中国の産業補助金の見直しは先送りされたほか、中国からの輸入品に上乗せしている関税の引き下げは一部にとどまり、対立が緩和に向かうか不透明です。
トランプ大統領と中国の劉鶴副首相は15日、ホワイトハウスで貿易交渉の第1段階の合意文書に署名しました。

アメリカ政府が発表した合意文書には、中国がアメリカ産の農産品やエネルギーなどの輸入を今後2年間で2000億ドル以上増やすことや、知的財産権の保護に取り組むこと、それに為替操作をしないことなどが盛り込まれています。

しかし、中国側の反発が強かった国有企業への補助金の見直しなどは次の第2段階の交渉に先送りされています。

また、景気の減速が鮮明になっている中国が、アメリカからの輸入を大幅に増やすことができるのか、疑問視する見方もあります。

トランプ大統領は署名式で「第2段階の交渉が合意しなければ関税はそのままだ」と述べ、中国からの輸入品の半分近くにあたる2500億ドル分に上乗せしている25%の関税は当面、維持する方針を示し、中国側が強く求めていた関税の引き下げは一部にとどまりました。

米中両国の間には中国の通信機器大手のファーウェイをめぐる問題など課題が山積みになっていて、対立が緩和に向かうか不透明です。

中国 劉副首相 アメリカからの輸入拡大に意欲

中国で貿易問題を担当する劉鶴副首相はホワイトハウスで行われた署名式で、習近平国家主席からのメッセージを紹介し、この中で「合意は中国とアメリカだけでなく、世界全体に利益をもたらすものだ。協議は平等に進められ、さまざまな問題を適切に処理することができた。今後、両国の協力はさらに推し進められるだろう」として、今回の合意の意義を強調しました。

さらに、劉副首相は、中国企業がこの先2年間で、毎年400億ドル規模のアメリカ産の農産品を輸入する方針を明らかにし、「市場の条件が整えば、それ以上に多くの量を購入するだろう。両国の政府は貿易がさらに拡大するよう、環境整備を進めていく」と述べ、アメリカからの輸入拡大に意欲を示しました。

第1段階の合意内容

アメリカが公表した第1段階の合意文書は90ページにわたり、主に7つの分野が明記されています。

「1 貿易の拡大」
農産品や、工業品、エネルギーなどをあわせた輸入額として、中国が今後2年間で2017年の時点より、2000億ドル以上増やすとしています。

「2 農産品」
この内訳をみてみますと、トランプ大統領がこだわってきた農産品は320億ドル増やすとしています。

「3 知的財産権」
中国が知的財産の分野で企業の機密保護の強化や、海賊版の取締りなどに取り組むとしています。

「4 技術の強制移転」
中国に進出する外国企業に技術を移転するよう強制する問題については、中国がこの行為をやめることを受け入れたとしています。

「5 通貨」
アメリカが問題視してきた中国の人民元安をめぐっては、中国に意図的な通貨の切り下げを行わないよう求め、中国はこれに対応するとしています。

アメリカはこれに基づいて今月、中国に対する為替操作国の認定を解除しました。

「6 金融サービス」
銀行や証券などの中国の金融市場について、外国資本の制限や差別的な規制を取り除くとしています。

「7 相互評価と紛争解決」
今回の合意を守っているかを監視し、問題が起きた場合に解決に向けた協議を行う仕組みをもうけたとしています。

ただ、今回の第1段階の合意では、知的財産の保護などに向けて踏み込んだ対応は言及されておらず、実効性があるか不透明だという指摘も出ています。

また、中国側の反発が強かった国有企業への補助金の見直しなども盛り込まれていません。

このため、アメリカ側が求めている第2段階の交渉で、先送りになった課題で歩み寄れるかが焦点になります。

合意の背景 アメリカ側の思惑は

アメリカ側が当初の戦略を見直して、部分的な合意という形で妥協することになったのは、トランプ大統領が投票まで1年を切った大統領選挙に向けて成果を急ぎたい事情があったとみられます。

今回の合意でトランプ大統領がとりわけ成果としてアピールしているのが、中国がアメリカ産の農産品の輸入を拡大するという内容です。

農家はトランプ大統領の再選に欠かせない支持基盤ですが、中国の報復関税などの打撃を受けていたことから、農家を喜ばせる内容にこだわることで支持をつなぎ止めるねらいがあったとみられます。

また、アメリカは今回の合意を踏まえて、おととし3月に(2018年)中国に対する関税措置を発動して以来、初めて、関税の引き下げに応じます。

農産品を大量に購入させる代わりに、中国からの要求を受け入れた形ですが、これも関税の応酬の悪影響が出ていた自国の製造業など経済界への配慮だという見方があります。

ただ、選挙戦で争う野党・民主党からは中国に対して弱腰だという批判も出ていて、トランプ大統領の思惑どおりの成果につながるか不透明です。

合意の背景 中国側の思惑は

中国側は、アメリカとの貿易交渉をめぐる第1段階の合意に正式に署名したことで、ひとまず安どしたというのが本音だとみられます。

中国は強気な姿勢をとるトランプ政権の交渉姿勢に対して、一貫して「対等でなければならない」などとして、表向きはきぜんとした態度をとってきました。

一方で、中国経済は去年7月から9月までの3か月間のGDP=国内総生産の伸び率が1992年以来最低となるなど、貿易摩擦が激化して以降、景気の減速が顕著になっています。

これは、景気の先行きに不透明感が広がり、企業が設備投資を大幅に抑えていることなどが原因です。

中国としてはアメリカとの貿易交渉が一定の合意に達したことで、企業の景気に対する見方が改善し、景気減速に歯止めがかかるのを期待しています。

一方で、今回の合意では中国による▼アメリカ産の農産品の大幅な輸入拡大や、▼外国企業に対する技術移転の強制の見直し、それに▼金融市場の開放といった分野が盛り込まれました。

中国がすでに対応する姿勢を示してきた分野で、合意できたことも一定の成果だと言えます。

ただ、中国が要求してきた、これまでに上乗せされている関税の撤廃は見送られ、一部の引き下げにとどまりました。

さらに、通信機器大手、ファーウェイをはじめとする中国のハイテク企業に対するアメリカの締めつけも続いており、今回の合意で、景気減速に歯止めをかけるのは難しい状況です。

米中合意 日本経済への影響は

米中が第1段階の合意に至らず、当初の予定どおり追加で関税を引き上げた場合は、当事国の米中だけでなく日本の経済にもマイナスの影響が及ぶと懸念されていました。

民間のシンクタンク大和総研の試算によりますと、米中が追加関税に踏み切った場合実質のGDP=国内総生産が▼アメリカが0.51%、▼中国が0.38%それぞれ押し下げられ、▼日本も中国向けのスマホ用電子部品などの輸出が減るとして、0.22%押し下げられると予測されていました。

今回の第1段階の合意によって、追加関税が見送られるため、各国経済へのマイナスの影響はより小さくなると見られます。

トランプ大統領は第2段階の合意に向けた協議にも意欲を示していますが、つぎの合意はことし11月の大統領選のあとになるという見方もあり、米中の貿易摩擦が世界経済の重荷になる状況は依然として続きそうです。

官房長官「前向きな動きとして評価 影響含め注視」

菅官房長官は、16日午前の記者会見で、「アメリカと中国が第1段階の合意文書の署名に至ったことは前向きな動きとして評価している。合意内容のわが国への影響も含め、高い関心を持って注視していきたい。わが国としては、引き続き米中両国が対話を通じて建設的に問題解決を図ることを期待している」と述べました。

米中摩擦 本格解消に向かうかは楽観できず

アメリカと中国は第1段階の合意文書に正式に署名し、これまで互いの輸入品に上乗せしていた関税の一部を引き下げる見通しですが、これで両国の貿易摩擦が本格的に解消に向かうかどうかは、楽観できない情勢です。

今回の合意では中国が、▼農産品をはじめとするアメリカからの輸入を大幅に拡大するほか、アメリカが問題視していた▼外国企業に対する技術移転の強制や、▼金融市場の開放などについて、中国側が対策を講じることなどが盛り込まれました。

このうち中国による輸入拡大については、先月中旬に米中両国が第1段階の合意を発表して以降、トランプ大統領が繰り返し具体的な輸入額に言及する一方、中国側は記者会見で「市場の原則に基づく」と強調するなど、具体的な規模に触れることを避けてきました。

今回発表された合意文書では中国がアメリカ産の農産品やエネルギーなどの輸入を今後2年間で2000億ドル以上増やすなどとしていますが、大統領選挙を控えて成果を強調したいトランプ大統領が、中国側の輸入拡大のペースに納得しなければ、再び両国の対立が深まるおそれもあります。

また、今後の交渉についても両国の態度は分かれています。

トランプ大統領は先月31日、ツイッターで第2段階の交渉を始めるため後日、中国を訪れる考えを明らかにしました。

しかし、中国側はまずは第1段階の合意を着実に実行するのが重要だとしているほか、今月9日の商務省の会見でも、第2段階の交渉について「伝えられる情報はない」と述べるにとどめ、態度を明らかにしていません。

第2段階の交渉では、第1段階の合意で先送りされた▼中国が強く反発してきた、国有企業への補助金など優遇措置の見直しや、▼通信機器大手のファーウェイなどアメリカによる中国のハイテク企業への締めつけといった問題がテーマになるとみられます。

さらに、「香港人権法」の成立や、アメリカ議会下院が「ウイグル人権法案」を可決したことなどをめぐって、中国はアメリカに対する反発を強めていて、貿易以外の分野でも両国の対立が激しくなっています。

こうした中で習近平指導部が、貿易問題についてアメリカに大きく譲歩すれば、中国国内から「弱腰」という批判を受けかねず、第2段階の交渉について先行きは見通せない状況です。