日本は世界の波から取り残される!?

日本は世界の波から取り残される!?
中国は1000社以上、韓国は300社、フランスは250社。
それに対して、日本は70社。

今月、アメリカ・ラスベガスで開かれた最新のテクノロジー見本市=CESへの出展企業数だ。
多くは創業から間もないスタートアップ。潜在能力の高い投資先を求めるベンチャーキャピタルや提携先を探す大企業が世界中から集まり、いわばスタートアップの「登竜門」になっている。

激化する競争に日本企業は立ち向かうことができるのか。現地で取材した。(経済部記者 伊賀亮人)

スタートアップ育成 各国の激しい競争に

ラスベガスの会議場やホテルを使って年に1度、開かれるCES。世界中から約17万5000人が訪れる一大イベントで、ひときわ活気があるのがスタートアップ企業が集まる会場だ。

2012年以降、CESを通じて15億ドル(1600億円)がスタートアップに投資されたということで、今回は40か国以上からスタートアップ企業1200社余りが参加した。
特別に用意された会場の名前は「エウレカ・パーク」。

古代ギリシャの数学者、アルキメデスが叫んだとされる「エウレカ(Eureka)」は、発見や発明したことを喜ぶときに使われている。会場を訪れた人には起業家の驚きや発見を感じ取ってほしいというわけだ。
入り口近くで目立っていたのがフランスのブース。
AIの企業や、センサーを使った農業の仕組みを提供する企業など250社余り(大企業含む)が陣取る。「フレンチテック」は確固たる存在感を築いていると感じた。

ほかには、韓国、イスラエル。
さらにイタリア、イギリス、スイスといったヨーロッパ勢、タイ、モロッコ、ウクライナといった国々も。

大企業にはない発想で、革新的な技術やアイデアを生み出すスタートアップ企業を育成しないことには、国の経済成長はないという強い危機感がどの国にもある。

国どうしの競争も激しくなっている。
とりわけ目立つのは、中国勢。

CESによると、出展企業、大小合わせて4500社のうち、1000社以上が中国企業で、「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる広東省の深センの名前がついた企業だけでも400社以上が出展している。
詳しくはこちら。

日本企業も頑張っています

日本からも海外進出の足がかりにしようと参加する企業が増えている。

JETROが支援する「Jースタートアップ」というブースには、合わせて29社が出展した。
このうち、胎児の状態をセンサーで計測しそのデータを病院などに送る製品を開発した高松市のメロディ・インターナショナルは今回が初参加。

尾形優子CEOは「来てみて製品の機能だけではなくアピールする力も必要だと感じた」と話していた。
小型のセンサーで排せつのタイミングを予測する製品を開発した東京のトリプル・ダブリュー・ジャパンは3回目の出展。

中西敦士代表は「今後競争によって企業が集約されてくると思うので、どうやってそこに食い込んでいけるか。どういう技術がすばらしいんだということではなくて、誰のなんの苦しみを解決するんだということを“ストーリー”としてひと言で説明できないと注目もしてもらえない」と語った。
JETROのサンフランシスコ事務所を拠点に、日本のスタートアップ支援を担当する樽谷範哉さんは「一定の存在感を示すことができたと思う。ここからさらに実際に海外に進出していけるように支援したい」と話していた。

やっぱり“数は力なり”

「数やどこの国の企業かが大事ではない。製品やサービスの中身だ」という意見はもちろんある。

一方、「数も重要だ」と指摘するのは、シリコンバレーから訪れたピーター・ワイシスク氏。
これまでにアメリカの民泊仲介サイトを運営する企業や遺伝子検査の企業など、各国の160社以上に資金を投じてきたベンチャーキャピタル、ペガサス・テック・ベンチャーズの投資家だ。

ワイシスク氏は「最終的には参加数が多いほうが成功する企業が出てくる可能性も高くなる」と言う。

そのうえでワイシスク氏は「今回のCESで日本企業から突出してすばらしい製品が見受けられなかった。このままでは日本は優位性を失っていくのではないかと感じる」として、スタートアップの成長には技術力以外の面が重要だと主張する。

鍵となるのは

それでは日本のスタートアップにとって成功の鍵は何なのか。

ワイシスク氏は、「日本はこれまでも技術に焦点をあててきたが、スタートアップ企業がグローバルに展開して、規模を大きくして成功するには全く違うスキルが必要だ」と指摘する。
具体的には
▽市場に合った製品を投入できるマーケティング力、
▽技術だけでなく、どういう課題を解決できるのかをひと言で説明するプレゼンテーション能力、
▽リスクを恐れずに積極的に事業を進める力強い起業家精神などだという。

日本企業が長年指摘されてきたことのような気もするが、「技術そのものではなく、その技術をどう市場に持ち込んで実際に使ってもらうのかという視点が欠けている」という指摘は反論が難しい。

CESで、さまざまな技術を視察したワイシスク氏は「今でこそ、まだ日本には技術力があるが、このまま変化をしないと世界から置き去りにされてしまう」と手厳しい。

エウレカ! 時間は残されていない

スタートアップは、企業だけの努力だけでは成功しない。

その国の規制緩和や資金的な支援など政策面での後押しや、投資環境の改善を総合的に進めて、エコシステム(生態系)をつくっていくことが欠かせないとよく指摘される。

その実現にはアメリカや中国と同じ形ではなく、日本型モデルを模索する必要があるだろう。

そのための日本の動きはまだ始まったばかり。新たな技術やアイデアを発見して「エウレカ!」と叫ぶ若者を、次から次へと輩出する環境を作れるのか。

しれつさを増しているスタートアップ間の競争を目の当たりにして、残された時間はそう多くないのではないかと実感した。
経済部記者
伊賀亮人
2006年入局
仙台局 沖縄局 経済部 ネットワーク報道部をへて
19年夏から再び経済部