冷戦終結30年 大国間の新たな争い 世界の分断や軍拡競争の懸念

冷戦終結30年 大国間の新たな争い 世界の分断や軍拡競争の懸念
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アメリカとソビエトの首脳が冷戦の終結を宣言して、3日で30年となります。アメリカは冷戦後、アメリカ主導の国際秩序の構築を図る一方、ロシアと中国は近年、アメリカに対抗する姿勢を鮮明にしていて、大国間の新たな争いが世界の分断や軍拡競争を再び招くおそれが懸念されています。
1989年12月3日、当時のアメリカのブッシュ大統領とソビエトのゴルバチョフ書記長は地中海のマルタで会談し、両国の対立で第2次世界大戦後の世界の分断をもたらした東西冷戦の終結を宣言しました。

アメリカはその後、世界唯一の超大国となり、自由と民主主義という価値観に基づくアメリカ主導の国際秩序の構築を図りましたが、2001年の同時多発テロ、イラク戦争、それにリーマンショックなどを経てその地位が揺らいでいきました。

こうした中、存在感を高めたのが「強いロシアの復活」を掲げたプーチン大統領率いるロシアと世界第2の経済大国となり軍事力を急速に増強する中国です。

アメリカはおととし発表した国家安全保障戦略で、ロシアと中国との新たな大国間競争を最大の脅威と位置づけ、両国への圧力を強めているのに対し、ロシアと中国は近年、連携を強化し、アメリカ主導の国際秩序に対抗する姿勢を鮮明にしています。

この結果、冷戦終結後の核兵器の大幅削減に役割を果たした米ロの核軍縮条約は両国の対立で失効し、核軍縮の枠組みが失われるなか、米ロ、それに中国は核を含めた先端兵器の導入を進めています。

さらに米中ロの開発競争は宇宙やサイバーといった新たな空間にも広がり、拡大する様相を呈しています。

冷戦終結から30年がたつなかで激しさを増す大国間の新たな争いは「新冷戦」とも呼ばれ、世界の分断や軍拡競争を再び招くおそれが懸念されています。

冷戦とその終結

アメリカを中心とする西側の資本主義陣営と、旧ソビエトを中心とする東側の社会主義陣営の対立は、「冷戦」と呼ばれ、第2次世界大戦後から始まります。

旧ソビエトは、戦後、東ヨーロッパ諸国に、社会主義の政権を樹立させ、みずからの影響下に組み込んでいきました。

これに対して、アメリカは、1947年に「マーシャル・プラン」を発表し西ヨーロッパの経済復興を急ぎました。

さらにアメリカと旧ソビエトはそれぞれ軍事同盟を結成し、対立を深めていきます。

1949年、アメリカを中心とする西側諸国がNATO=北大西洋条約機構を結成すると、1955年には旧ソビエトを中心としたワルシャワ条約機構が誕生します。

こうした中、冷戦の最前線となったのが、戦勝国に分割統治されていたドイツです。

欧米が支援する西ドイツと旧ソビエト側の東ドイツの2つの国家に分断され、首都だったベルリンも東西に分かれました。

1961年には、東ドイツが西ベルリンを取り囲むように「ベルリンの壁」を建設し、冷戦の象徴となりました。

米ソ両国は、核兵器を次々に開発し、軍拡競争が激しさを増していきます。1962年には社会主義陣営に加わったキューバに、旧ソビエトがミサイル基地を建設しようとしたことから、アメリカとの対立が激化した「キューバ危機」が起こり、世界は、核戦争の危機に直面しました。

世界各地では、朝鮮戦争やベトナム戦争をはじめ、米ソの代理戦争が起こり、民間人も巻き込んで大勢の犠牲者が出ました。

長期間にわたる両陣営の対立は双方に大きな経済的負担を強いることになります。特に旧ソビエトでは産業構造の転換が遅れて経済が停滞し、西側との格差が拡大していきました。

1985年に就任したゴルバチョフ書記長は「ペレストロイカ」と呼ばれる改革を推し進めました。

アメリカとの関係改善にも取り組み、1987年に米ソ両国は、核軍縮に乗り出して、INF=中距離核ミサイルの全廃条約を締結しました。

1989年には、東ヨーロッパ諸国で広がった民主化運動を受けて、11月9日にベルリンの壁が崩壊し、12月3日には地中海のマルタで会談したブッシュ大統領とゴルバチョフ書記長が冷戦の終結を宣言しました。

アメリカとロシアの関係 冷戦後「最悪」

アメリカとロシアは冷戦終結後の30年間で核兵器の削減を進める一方、近年は外交・安全保障の分野で対立を深め、両国関係は冷戦後、最悪と言われるほど冷え込んでいます。

冷戦終結後、世界唯一の超大国となったアメリカはNATOを中心に影響力の拡大をはかります。

この結果、バルト3国など旧ソビエトの国々が次々にNATOに加盟したほか、アメリカは東欧諸国との関係を深めミサイル防衛システムの配備を進めます。

これに対し、冷戦終結から2年後の1991年に崩壊したソビエトから移行したロシアは、2000年のプーチン大統領の就任以降、「強いロシアの復活」を掲げ、アメリカへの対抗姿勢を強めていきます。

ロシアは外交・安全保障の面で強硬姿勢をとり、2008年にNATO加盟を目指していた今のジョージアに軍事侵攻し、2014年にはウクライナのクリミアを併合します。

さらにロシアが2016年のアメリカ大統領選挙に介入した疑いが明らかになり、米ロ両国の対立は決定的となりました。

トランプ大統領はロシアとの関係の再構築を掲げましたが、国内で強まるロシアへの懸念から大統領選挙への介入などに対して相次いで制裁を発動したほか、核軍縮の柱の一つだったINFの全廃条約の破棄を通告して条約を失効させ、両国の関係は冷戦後、最悪と言われるほど冷え込んだまま、改善の兆しは見えていません。

両国の核軍縮の枠組み 危機に

アメリカとロシアの関係は、冷戦終結以降の30年で、今が最悪の状態と言われるまでに冷え込み、世界の安全保障環境を急速に悪化させています。

なかでも懸念されているのが、地球上にあるおよそ1万4000発の核弾頭の9割以上を保有する両国の核軍縮の枠組みが危機にひんしていることです。

アメリカのトランプ大統領は、ロシアの核ミサイル開発を理由に核軍縮の柱の一つだったINFの全廃条約の破棄を通告し、条約はことし8月失効しました。

さらに、アメリカとロシアの間に残る最後の核軍縮条約で、戦略核弾頭の削減を定めた「新START」も再来年2月に期限が切れるにもかかわらず、アメリカが中国も条約に参加するよう主張したことなどから、延長に向けた交渉は停滞し、失効するおそれが高まっています。

対立を深めるアメリカとロシアは出力をおさえた小型の核弾頭や超音速兵器などより近代的な新型の核兵器の開発に着手して互いをけん制しあい、局地的な攻撃で核兵器を使用するのではないかという懸念も強まっています。

核兵器の拡散を防ぎ、核軍縮を進めることを定めたNPT=核拡散防止条約に加盟する191の国と地域は、来年5年に1度の再検討会議を開き、今後の核軍縮の方向性を議論します。

しかしアメリカとロシア、それに中国という3つの軍事大国が、国をあげて核兵器の開発を急ぐ現状は、新たな軍拡競争の始まりとも言われており、核軍縮の先行きには暗雲が立ちこめています。

創設から70年 NATOの現状と課題

NATOは冷戦の終結から30年、そしてことしで創設から70年という節目を迎えています。

NATOでは5年前にロシアがウクライナのクリミア半島を併合したのをきっかけに、ロシアの脅威が強まり、改めて連携が問われました。

このため有事の際に部隊を迅速に展開させる即応態勢を構築し、アメリカとドイツに新たな司令部を作ることを決めています。

また、中国が軍事技術を急速に近代化させ、活動範囲も広げていることに警戒を強めています。さらに、将来的に人工衛星などがねらわれ、社会生活に影響が出かねないとして宇宙を活動領域とすることも決めています。

一方で、各国の首脳間では足並みがそろわない状況が目立っています。アメリカのトランプ大統領は「アメリカの負担ばかりが大きい」として防衛費を引き上げるよう各国に強く迫ってきました。

また、フランスのマクロン大統領はことし10月、トランプ大統領がシリア北部から部隊の撤退を指示した際や、トルコがクルド人勢力に対して軍事作戦を展開した際に、NATOとの事前の調整がなかったことについて批判し、「NATOは脳死状態に陥っている」と発言して危機感を示しています。

これに対してトルコのエルドアン大統領はイスタンブールで行った演説で「脳死でないかどうか、あなたこそ調べたほうがいい」と強く反発しました。冷戦時代、旧ソビエトに対抗するためにアメリカ主導で創設された軍事同盟・NATOですが、ここにきて存在意義と同盟の結束を示せるかが大きな課題となっています。

存在感高める中国

『新冷戦』で新たに存在感を高めているのが中国です。30年前の東西冷戦の終結で、アメリカが世界唯一の超大国となった当時(1989年)、中国の国防費は245億人民元でしたが、その後、ほぼ毎年、前の年を10%以上上回るペースで国防費を増加させ、2017年には1兆人民元の大台を突破しました。

ここ数年の伸び率は中国政府発表では1桁台となっているものの、ことしの国防費の予算は去年より7.5%多い1兆1900億人民元近く、日本円でおよそ18兆円に上り、アメリカに次いで世界第2位の額となっています。

近年、中国は民間の技術力を軍事力に反映させるため、「軍民融合」を国家戦略に掲げ、新兵器の開発にも力を入れています。

ことしの軍事パレードでは、アメリカ全土をカバーし複数の目標を同時に攻撃できる「多弾頭型」の新型のICBM=大陸間弾道ミサイル「東風41」や、飛行速度が音速の5倍以上の速さで飛行する「極超音速兵器」などを公開。既存のミサイル防衛網では迎撃できない可能性もあり、アメリカ軍にとって大きな脅威となっています。

さらに『新冷戦』を特徴づけている、サイバーや宇宙、次世代の通信規格「5G」に代表される先端技術など「新たな領域」での競争で、中国は力をつけています。

中国政府は2030年までに世界の宇宙開発をリードする「宇宙強国」の仲間入りを果たすという目標を掲げ、ことし1月には世界で初めて無人の月面探査機を月の裏側に着陸させることに成功しました。

さらに中国は国内で、ことし10月から5Gのサービスを開始。5Gは、近い将来、市民生活の基盤となる通信インフラで、中国の通信機器大手ファーウェイがこの分野で主導権を握ろうと各国にアプローチしていますが、アメリカ政府は、安全保障上のリスクだとして締めつけを強化していて、「新冷戦」を象徴する対立となっています。

“終末時計”過去最短の2分に

冷戦終結を受けて、地球最後の日までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」は、いったんは「17分」となって、冷戦後の和平に期待が高まったものの、その後、イラク戦争や核の拡散などで状況は悪化し、現在は「2分」と過去最短で混迷深まる国際情勢を表しています。

アメリカの科学雑誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は、地球最後の日までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」の時刻を発表しています。

それによりますと、30年前の冷戦終結宣言を受けて1990年は残り時間が6分から10分へとそしてその翌年の1991年には17分まで戻され、冷戦後の和平に期待が高まりました。

当時、アメリカの科学雑誌は「40年続いた核兵器の軍拡競争に終止符が打たれ、軍縮が進んでいる。世界はよい方向へと根本的に変わっている」と評価し、冷戦の終結を大きく歓迎しました。

しかし、その後、インドやパキスタンの核実験、北朝鮮やイランの核開発など、核の拡散の問題が深刻化したほか、同時多発テロやイラク戦争それにシリアの内戦などが相次いだ結果、終末時計の残り時間は縮まる傾向が続きました。

さらに、去年とことしの2年間は、トランプ政権がINFの全廃条約を破棄するなど核軍縮に消極的で、新たな脅威となっている地球温暖化への対策も遅れていることなどから残り時間は「2分」となっています。

残り2分は、冷戦期にアメリカと旧ソビエトによる核実験競争が過熱していた1953年と並んで過去最短で、冷戦後の和平の期待から一転して混迷深まる国際情勢を表しています。

ゴルバチョフ氏 核兵器廃絶に向け協力再開を

30年前に冷戦の終結を宣言した旧ソビエトのゴルバチョフ元書記長は、宣言の場となった地中海のマルタの新聞のインタビューに応じ、「新冷戦」とも言われる今の世界情勢に懸念を示したうえで、トランプ大統領やプーチン大統領にかつてのマルタの精神で核兵器の廃絶に向けて協力を再開させるべきだと訴えました。

冷戦の終結をアメリカのブッシュ大統領と宣言した旧ソビエトのゴルバチョフ元書記長は、宣言から30年となるのを機に当時、会談を開いた地中海のマルタの新聞のインタビューに応じ、2日その内容が掲載されました。

このなかでゴルバチョフ氏は「冷戦の終わりは私たちの共通の成果だった。対立に終止符を打とうとしたリーダーたちが勇気と責任を持って行動したと考えている」と述べ、対立を乗り越えようとした当時の指導者たちの心境を語りました。

そのうえで「現在、世界で起きている多くのことを心配している」と述べ、「新冷戦」とも言われる新たな対立に懸念を示しました。

そして「マルタの精神で協力を再開させるべきだと世界のリーダーたちに促したい。わたしたち一人一人が平和を維持し、核兵器のない世界に向かうため何ができるか考えるべきだ。『新冷戦』に向けて坂を下ってはならない」と述べて、トランプ大統領やプーチン大統領など世界の指導者たちに、核兵器の廃絶に向けて協力を再開させるべきだと訴えました。

専門家「かつての冷戦よりもっと冷たい戦争が始まっている」

ロシア外交に詳しいモスクワ国際関係大学のウラジーミル・コージン教授は「アメリカとの関係は停滞というより深刻な崩壊状態にある。かつての冷戦よりもっと冷たい戦争が始まっている」と指摘し、米ロ関係は極めて悪化しているという認識を示しました。

そのうえで「アメリカはロシアを2級国家の地位におとしめたいと考えている。ロシアにプーチン政権を倒せるような野党勢力を築き上げたいとも思っている。つまりアメリカが関係悪化を招いている」と述べ、関係の改善に向けてはアメリカ側がロシアへの敵視政策を改めて対等な立場で話し合う環境を作るべきだと指摘しました。

また今後の米ロ関係に関しては「現在は関係改善のチャンスはない。ただもし来年、トランプ大統領が再選されればどうなるか見てみたい」と述べ、来年の大統領選挙の結果を受けたアメリカの政治情勢の行方に大きく影響されるという見方を示しました。

「新冷戦」とも呼ばれる現在

冷戦終結から30年がたち「新冷戦」とも呼ばれる現在の世界情勢について、安全保障政策に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は「新冷戦はアメリカと中国が世界の覇権を巡って争う時代だ。冷戦時代はアメリカが旧ソビエトに対し『封じ込め政策』をとって経済的な交流をせずに自滅するのを待つ構図だったが、現在の中国はアジアやヨーロッパにも幅広いつながりを持っているためかつてのような封じ込めができない。そのなかで米中がせめぎ合うことになる」と分析しています。

そのうえで「軍事面では中国の中距離ミサイルにアメリカや同盟国が対抗するため、軍拡競争になることが予想される。争いは通常兵器や核兵器以外でもサイバーや宇宙空間のほか、最先端技術にまで及んでいて、新冷戦時代はより計算が難しい世界が待っている」と指摘しました。

さらに「日本は中国と切っても切れない隣国関係の中で、アメリカがこれまで支えてきた人権や民主主義といった秩序を守るよう中国に働きかけることが求められる。アジアやアフリカの国々にも働きかけて、米中が対抗しながらも戦争にならないようにしていくことが日本の生き残りのために必要だ」と話していました。