ツキノワグマに襲われる被害 昨年度の2.5倍 市街地にも出没

ツキノワグマに襲われる被害 昨年度の2.5倍 市街地にも出没
ことし4月以降、全国でツキノワグマに襲われてけがをするなどの被害に遭った人は、昨年度の2.5倍に当たる125人で、この10年で2番目に多くなっていることが分かりました。市街地の中心部など例年では見られない地域での出没も相次いでいて、専門家は「クマが冬眠に入る前の今月いっぱいは警戒が必要だ」としています。
NHKがツキノワグマが生息する全国32の都府県に取材したところ、ことし4月以降7日までにクマに襲われてけがをするなどの被害に遭った人は、21都県の125人で、このうち1人が死亡しました。

これは50人だった昨年度1年間の2.5倍に当たり、この10年で最も多かった平成22年度の147人に次ぐ多さとなっていて、今月に入ってからも各地で被害が相次いでいます。

都府県別に見ますと、新潟が17人と最も多く、次いで岩手が16人、秋田と岐阜が13人、富山が9人、福島が8人、福井と長野が7人などとなっています。

また、取材した都府県のうち75%に当たる24の府県は「クマの出没が増えている」と回答したほか、半数を超える17の都府県は「市街地の中心部など、平年なら出没がみられない地区で出没している」としています。

ツキノワグマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹教授は「ことしは、地域差はあるものの、全国的にクマの餌となる植物が凶作で、『大量出没』の年になっている。12月に入ればほとんどのクマが冬眠に入るが、今月いっぱいは集落にある柿の実などを求めて出没が続く見込みで、警戒と対策が必要だ」としています。

市街地に異常出没

福井県勝山市では先月以降、市の中心部にクマが出没し、5人がクマに襲われてけがをしています。

先月22日には、市役所近くにある市の教育会館の玄関付近で、こいに餌を与えていた70代の警備員の男性が突然、背後からクマに襲われたほか、先月28日には3日間にわたって、住宅地の木の上に居座っていたクマ2頭が駆除されるなど、山沿いの地区だけでなく、市の中心部でもクマの出没と被害が相次ぐ事態になっています。

市は「対策警戒連絡室」を設置し、市街地にクマが潜伏しているおそれがあるとして、24時間態勢でクマの出没や被害の通報を受け付け、パトロールを強化するなど対策に当たっています。

また市内の公共施設では、クマの侵入を防ぐため、自動ドアを手動に切り替え、自動では開かないようにするなど、便利さより安全を優先した対策も取られています。

勝山市熊対策警戒連絡室の水上実喜夫室長は「市街地の空き地ややぶの中に、相当数、把握できない数のクマが潜んでいて、被害を起こしている。ことしのクマの出没は異常な状態になっているので、早朝や夕方に街を歩く際には十分気をつけていただきたい」と話しています。

“柿を収穫したいが高齢者はできない”

クマの出没や被害が増えている原因として、多くの都府県が「ブナやミズナラなど、クマの餌となる植物の不作・凶作」を挙げ、「クマは集落などにある柿の木の実を食べに来ている」と答えています。

このため、クマの出没が相次ぐ自治体では、集落にある柿などを早急に収穫するよう住民に呼びかけています。

一方で、高齢化や人口減少を背景に、自分の力だけで対策を取るのが難しい人も少なくないのが実情です。

福井県勝山市の81歳の女性の自宅の敷地にある柿の木には、まだ実がなったままです。

この地区でもクマの出没が相次いでいますが、自分たちだけでは柿を取ることができないと言います。

女性は「柿を取らないといけないと思っていますが、もう年なので、高い所は怖くて登れません」と話していました。

こんな対策も

広島県の山あいにある安芸太田町の田吹地区ではクマをおびきよせないための対策を、地域の外の人たちの力を借りて続けています。

地区では、地元の人たちが広島市内のNPOと協力して、19年前から、クマが食べ頃の柿を狙って集落に来る前に柿を収穫しています。

ことしは先月下旬に行われ、地元の人たちのほか、およそ60キロ離れた広島市内からも30人ほどが参加しました。

収穫する柿の多くは、まだ緑色が残る渋柿ですが、クマの餌にならないよう、あえて早めに収穫します。
渋柿はそのままでは食べられませんが、参加者は「干し柿」などにすれば甘く熟してから食べられることを地元の人に教えてもらい、収穫した柿を次々に購入していました。

広島市内から参加した男性は「こちらも楽しみで来れるし、地元の方も“助けになる”と言ってもらえるのでとても楽しいです」と話していました。

この地区では、クマの出没件数も大幅に減ったということで、地元の猟友会の男性は「効果は絶大だと思います。餌になる柿をとにかく取り除けばクマは出て来ない。クマとのすみ分けにもつながるのではと思っています」と話していました。

一方、山梨県の富士吉田市では(ふじよしだ)市が設置した協議会から委託を受けた社団法人が、空き地や道路脇などに放置された柿の木や持ち主が自分では収穫できない柿の木を伐採する活動を行っています。

木そのものを伐採することで、食べない実を収穫する手間もなくなり、抜本的な対策につながるとしていて、県や市が予算を組んで毎年取り組みを進めているということです。

専門家「出没続く可能性も」

NGOの「日本クマネットワーク」の代表を務め、ツキノワグマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹教授は、人が暮らす場所の近くに柿などの餌があると、今後もクマが出没し続ける可能性があると指摘しています。

大井教授は「クマは、餌がなければ冬眠に入るが、柿の実など何らかの餌が集落に放置されていると、餌を探し回って冬眠に入る時期が遅くなるかもしれない。そうした際に人と至近距離で出会う機会が増え、びっくりして攻撃的な行動を取る可能性が高くなる。11月いっぱいは確実に出没の可能性があり、多くのクマが冬眠する12月になっても、まだ行動するクマがいる可能性もあるので注意が必要だ」と話しています。