天才少年には“年収3000万円”! ~ファーウェイの逆襲

天才少年には“年収3000万円”! ~ファーウェイの逆襲
『“天才少年”を年収3000万円で新規採用』
中国の通信機器大手「ファーウェイ」の話です。貿易摩擦など米中の対立を背景に、アメリカからの締め付けを受けるファーウェイ。弱っているのではないかと思いきや、逆に研究開発を強化して対抗しようとしています。アメリカが名指しで警戒感を示す、注目の中国企業の開発現場を訪ねました。(広州支局記者 馬場健夫/政経・国際番組部ディレクター 青木康祐)

“危急存亡の瀬戸際”

「我が社は危急存亡の瀬戸際にある。歴史の中で最も危機的な時期を乗り越え、新たな軍隊を生み出し、世界制覇するのだ」
ファーウェイの創業者、任正非CEOは、ことし8月、従業員向けのメールで強い危機感を示しました。

背景にあるのが、アメリカの圧力です。アメリカ政府は5月、安全保障上の懸念があるとして、自国企業が政府の許可なく、ファーウェイと取り引きするのを禁止するなど、締め付けを強めています。

この影響でスマートフォンの海外販売が落ち込み、今年の売り上げは、想定より1兆円減少する見通しです。

『研究開発費はトヨタの1.5倍』

逆境のファーウェイが対抗策として取り組むのが「研究開発の強化」です。

国際特許を出願した件数が去年、世界1位のファーウェイ。研究開発費は、去年1年間で1兆6000億円相当と、トヨタ自動車の1.5倍に上ります。

今回、その研究開発の現場に、特別にカメラが入りました。案内されたのは、ファーウェイが最も力を入れる次世代の通信規格「5G」に関連する広東省と上海の研究施設。
SF映画に出てくるような近未来的な部屋にあったのは、5Gの通信機器が発する電磁波を測定する設備です。測定の効率をこれまでの20倍に高める画期的な装置で、製品の開発期間の大幅な短縮が見込めるといいます。
5Gの普及のスピードを加速させるための開発も行われていました。5Gの通信に不可欠な基地局に使われる素材について、重さを以前の4分の1に軽量化する開発が進められていました。

部品の重さは、女性が片手で持ち運べるほど軽くしていて、設置にかかる手間とコストを削減できるといいます。

無線通信製品の市場責任者の彭紅華氏は、私たちに自信たっぷりに話しました。
「我が社の5G技術は、競合他社より1、2年先を進んでいる。もし他社を選べば、5Gの整備がそれだけ遅れるということだ」

8万人の高学歴研究者たち

印象的だったのは、施設を案内してくれた研究者たち。いずれも20~30代の若い技術者で、イギリスや香港などの有名大学で博士号を取得していました。ファーウェイでは技術開発に成功すると、技術の名前に、開発者の名前の英語の頭文字がつけられるということです。
女性の技術者は、「いつかは自分の名前が付いた技術を開発したい」と意気込みを話していました。
さらに、東京大学にも留学経験があり、日本語も堪能な男性の技術者は、「ファーウェイの研究環境は最高で、世界的な製品を開発することが目標です」と語っていました。

ファーウェイには、こうした研究者が8万人いるといいます。18万人いる全従業員の半数近くに上り、海外留学からの帰国組が重要な役割を担います。

全世界から“天才少年”を

さらに、いま力を入れているのは、博士号を取得した“天才少年”、つまり超優秀な若者の募集です。ことしは、全世界から20~30人、来年は200人~300人を募集する方針を明らかにしています。

中国メディアが伝えたファーウェイの社内文書では、新規採用された8人の“天才少年”の詳細が記されています。いずれも博士号を取得した若者で、年収は最高で3000万円相当(201万人民元)と、破格の待遇です。
(任CEO)「天才少年、卒業したばかりの博士たちを中心に、ハイレベル人材を数千人採用する。アメリカとの取り引き禁止であいた穴を、彼らが埋めていくのだ」

5G技術やAIの世界展開を

アメリカが排除を呼びかける中でも、研究開発を強化するファーウェイの動きには、各国が注目しています。
ことし6月、上海で開かれたアジア最大規模のモバイル関連の展示会では、5Gの技術を目当てに、ファーウェイのブースに、各国の政府や企業関係者が集まりました。

ファーウェイは、5Gの売り込みを着実に進めていて、9月時点で韓国、スイス、サウジアラビアなど30か国の会社と契約したとしています。

ある日本企業の担当者は「ファーウェイは他社より2割は安い。技術力の高さと価格の安さは、魅力だ」と話していました。
ファーウェイは、「AI=人工知能」でも世界展開を目指しています。9月に上海で開かれた発表会で、アピールしていたのが「平安城市(セーフシティー)」という監視システムです。無数の監視カメラと顔認証技術で、不審者をすぐに見つけ出せるといいます。

訪れたアフリカや中東の関係者からは、「アメリカのファーウェイ排除の呼びかけは、我々のビジネスに影響を与えない。いいものを使うだけだ」といった声が相次ぎました。

どう向き合う? 日本企業

アメリカが排除を呼びかける一方、新興国や途上国にはファーウェイ製品の利用の動きが広がっています。ヨーロッパの先進国にも5Gで採用の動きがあり、一枚岩ではありません。
日本の企業はどう向き合っているのでしょうか。多くの企業は、ファーウェイ製品の利用に慎重になってきています。政府の方針を受け、日本の通信大手3社も、5G整備にファーウェイを採用していません。

こうした中でも、協力を進める東京のベンチャー企業「テレイグジスタンス」を訪ねました。会社では、遠隔地のロボットと人との間で、動きや感覚をシンクロさせる技術を開発しています。

大量のデータの転送には5Gが不可欠で、中国展開も見すえて協力に乗り出していました。富岡仁CEOは、狙いをこう語ります。
「5Gの技術を含めて、価格競争力が魅力です。政治の状況は考えなければなりませんが、我々はベンチャー企業なので、冷静に、したたかに、やり取りを続けたい」

5G整備に遅れが出ないためには

取材を始めた際、アメリカの圧力でファーウェイはかなり弱っているのではないか、と思っていました。しかし、任CEO始め、技術者たちの発言はあくまでも強気。展示会場も外国からの来場者で熱気がありました。

一方で、アメリカ政府とファーウェイの、製品の安全性を巡る主張の対立は、解決の糸口が見えない状況が続いています。

5Gをめぐり、ファーウェイの技術を採用する動きが広がるなか、日本が、安全性を確保しながら、5Gの整備に遅れが出ないようにするには、どうすればよいのか。

アメリカの締め付けに対抗するため、研究開発を加速させているファーウェイの動きを目にし、日本企業が難しい判断を迫られていることを改めて痛感しました。
広州支局記者
馬場健夫
平成19年入局
秋田放送局、名古屋放送局、国際部を経て広州支局
政経・国際番組部ディレクター
青木康祐
平成21年入局
徳島放送局を経て、政経・国際番組部