日本人が都心でマンションが買えなくなる?

日本人が都心でマンションが買えなくなる?
「都心のマンションにはもう手が出せない…」
「オリンピック後もマンション価格は下がらないのでは…」

こんな嘆きの声が多く聞かれるようになりました。実際、公表されたばかりのことしの地価調査でも都内はすべての地点で地価が上昇。これで7年連続です。こうした状況になった要因の1つとしてよく言われるのが、オリンピックを前にした中国人などによる「爆買い」です。しかし、実際にどのくらい買われているのでしょうか? データがなく、本当のところはわかりません。販売元などに尋ねても「個人情報なので教えられない」の一点張り。そこで、今回もまた、自力で調べてみることにしました。(社会部記者 藤本智充)

外国人 タワマンの所有実態は!?

中国人など外国人に人気があるとされているのが、地上20階以上のタワーマンション(以下タワマン)です。そこで、過去5年ほどの間に竣工した東京都内のタワマン、85棟をピックアップ。部屋の登記簿をとり、いったいどのくらいの外国人が所有しているのか、調べてみました。その結果は…。

外国の個人や法人が所有する部屋の数は少なくとも1434、オーナーの数は1816に上っていました(去年4~5月時点 NHK調べ)。外国資本が所有する部屋数が多い上位10棟のうち、4棟が中央区、3棟が新宿区、2棟が港区、1棟が豊島区と都心に集中。ちなみに中央区は晴海や勝どきなどの湾岸エリアに集中していました。
さらにオーナーは、台湾が最も多く664、香港を含む中国が590、シンガポールが367などとなっています。そしてイギリス領バージン諸島などのいわゆる「タックスヘイブン」の法人も42部屋を所有していました。中には1人で6部屋を所有する強者も。

一方、所有者の数が最も多かったのは、新宿区西新宿にあるタワマンです。1部屋の最高価格は3億5000万円ですが、外国人・法人の所有が202部屋と、なんと4部屋に1部屋の割合でした。「爆買い」の勢いは想像以上のものでした…。

“2億、3億円でも全然買います”

外国人の所有者が増えた背景には円安に加え、東日本大震災の影響で不動産が売れなくなり、ディベロッパーが海外に販路を求めるようになったことがあるといいます。

また、香港や台湾などで不動産価格が高騰し、日本の不動産が相対的に割安になったことも影響したようです。

ただ、外国人の投資家を顧客に持つ複数の不動産会社によると、こうした爆買いは3、4年ほど前までがピークだったといいます。

当時の売れ行きについて、ある不動産関係者は「『東京の中心部でこんなに安く買えるのか』と、物件を見ずに買う外国人が相次いでいた。特に台湾の富裕層は『2億でも3億でも全然買います』という感じだった」と振り返ります。

こうした中で投資マネーが入り込み、都心の不動産価格が上昇。気が付けば、私たち庶民にはとても手の届かない状況になっていたというわけです。

「リアル富裕層」が台頭?

しかし、最近はいわゆる「爆買い」とは異なる傾向になってきたと、別の不動産関係者が話してくれました。

都心の不動産価格が上昇したことで投資の利回りが低下。海外の投資家から見ても割高感が広がり、転売益だけを目当てに、物件の下見すらせず買うというような動きはなくなったといいます。中国本土で海外送金できる額が制限されたことも影響しているとのこと。
その一方で、目立ってきたのが「リアル富裕層」の動きです。単純な投資目的ではなく、「セカンドハウス」、つまり別荘としての購入が増えてきたというのです。
「2016年までは顧客の8割が投資目的でしたが、今は半分程度。代わってセカンドハウスとしての購入が半分くらいまで増えました」
こう話すのは、台湾に本社がある不動産会社の担当者です。セカンドハウスとひと言でいっても、いろいろな用途があるようです。
「1つは自らが出張や旅行で来日した時に使うケース。1つは留学している子どもを住まわせるケース。そしてもう1つは、友人や親戚が日本を訪れる際、『自慢目的』で泊まらせるケースです。台湾は富裕層のネットワークが強いので、そういうことが話題になるのでしょう。今や、日本で億を超える物件を買う富裕層は、投資用ではなく、自分用か自慢用が多いのです」
自慢目的で不動産を買うー。私がこれまで取材してきた、北海道のニセコエリアでも同じ話を聞きました。それがアジアの富裕層の特有の文化というものなのかもしれません。

一方、こうした状況が都内の不動産価格をさらに押し上げる要因になっていると、地元相手の不動産業者はため息交じりに話します。
「タワマンに住む人たちは、部屋を売りには出すものの、売れなくても困らないので強気の価格設定をする傾向にあります。そんな価格で売れるわけがないと思っていると、外国人が買ってしまう。そしてそれが新たな相場になるという、ある意味、悪循環が起きているんです」

謎のワード「セイフヘイブン」とは?

さらに取材を進める中でよく聞くのが、「タックスヘイブン」ならぬ「セイフヘイブン(Safe Haven)」ということばです。

このことばを教えてくれたのは、外資系の大手不動産会社の担当者。「セイフヘイブン」とは、「安全な避難場所」という意味だそうです。不動産といったいどういう関係があるのでしょうか?
この担当者によると、政情不安がある東南アジアなどの「超富裕層」が、蓄えた多額の資産の没収などを免れようと、資産を海外に移す動きを活発化させているといいます。その「安全な避難場所」として日本、とりわけ東京の不動産が注目されているというのです。
「フィリピンやインドネシアなどでは、超富裕層がリスクヘッジのため、国内にある資産を先進国の不動産にかえる動きが進んでいます。経済が安定し、不動産の価値が下がらない東京は彼らにとって非常に適した場所なのです。六本木や表参道などでは、こうした超富裕層をねらった坪単価1000万円クラスの超高級マンションが登場し、好調な売れ行きを見せています」
いわば「貯金箱」代わりにマンションを買う、ということでしょうか。私たち庶民の理解をはるかに超える世界がそこにはありました…。

日本人が東京都心に住めなくなる?

一方、こうした動きに警鐘を鳴らす専門家もいます。
「タワーマンションなどで暮らす住民たちに影響が出かねない」と話すのは、大手ディベロッパーでの勤務経験もある、不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんです。
牧野さんは、大規模修繕に備えて住民から毎月集めている「修繕積立金」を外国人オーナーが払わなくなるおそれがあると指摘します。自らは住まず、いずれ売り抜けることを決めている外国人は、将来に備えた費用負担を嫌がる傾向があるというのです。
「マンションはこれまで、ほとんどが実需に基づいてきた。しかし、外国人オーナーが多い物件では、初期段階から目的が違うオーナーどうしが共存するという難しさを抱えている。意見や目的が違う人たちが権利を主張し合えば、うまくいかないのは当然だ。実際、修繕積立金を滞納する外国人オーナーも出てきており、このままではマンションで暮らす地元の住民が想定を超える多額の費用負担を強いられることになりかねない」
もう1つ心配なのは、私たち日本人の多くが東京都心に住めなくなる日がいつか来るのではないかということです。取材を進めると、海外では東京を上回る事態になっている都市があることがわかりました。カナダのバンクーバーや、オーストラリアのメルボルンなどです。

これらの都市では、不動産価格が高騰する中、世界の富裕層が高級マンションなどを次々と購入し、賃貸すらせず値上がりを待つケースが相次いでいるといいます。このため、結果として住宅の供給が減って家賃が高騰し、都市で暮らしていた人たちが郊外に追いやられるケースがでているというのです。

人口減少社会を迎えた日本では、東京都心でも地価はいずれ下落するという見方もあります。しかし、今回の取材で、世界の富裕層がさまざまな動機で東京の不動産を買い求めている実態がわかり、その勢いは当面続くのではないかと感じました。

将来、東京の不動産はどうなってしまうのか。今後も取材を続け、課題を探っていきたいと思います。