シベリア抑留者の遺骨「取り違え」 14年前から再三指摘も放置

シベリア抑留者の遺骨「取り違え」 14年前から再三指摘も放置
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厚生労働省がシベリア抑留者の遺骨を取り違えていた疑いがある問題で新たな事実です。NHKが取材を進めたところ遺骨をDNA鑑定した複数の専門家が、これまで明らかになっているシベリアの2か所だけではなく、ほかの7か所の埋葬地で収集した遺骨についても「日本人ではない」などと厚生労働省に指摘していたことが分かりました。取り違えの疑いは少なくとも14年前から非公開の会議で再三、指摘されていましたが、厚生労働省はこうした内容を長年にわたって公表せず事実上、放置していました。
シベリア抑留者の遺骨をめぐっては、厚生労働省の派遣団が2か所の埋葬地で日本人のものとして収集した遺骨について、おととしと去年、DNA鑑定した専門家が「日本人ではない」などと厚生労働省に指摘していたにもかかわらず、公表していなかったことがNHKの取材で明らかになっています。

NHKがさらに取材を進めたところ、こうした取り違えの疑いはすでに明らかになっている2か所だけではなく、シベリアのほかの7か所の埋葬地でも指摘されていたことが新たに分かりました。

さらに、取り違えの疑いは少なくとも14年前の平成17年5月からことし3月にかけて開かれた非公開の会議で、複数の専門家が15回にわたって再三、指摘していました。

厚生労働省は取り違えの疑いが最初に明らかになったことし7月、「内部検討の段階でロシア側と協議してから公表するつもりだった」などと説明していましたが、厚生労働省は14年前から取り違えの疑いを把握しながら、長年にわたって公表せず事実上、放置していました。

NHKが入手した議事録によりますと、12年前の平成19年に開かれた会議では、ハバロフスク地方で収集した125人分の遺骨について複数の専門家が「女性がこれだけ入っているでしょう。本当、この墓地自体を疑いますよね」などと指摘し、厚生労働省の幹部は「うれしくない発見です。DNA鑑定しなければ、かつてはそのまま千鳥ヶ淵に納骨していたわけですからね。では今まではどうだったのだろうという議論に逆になってしまいますが」などと発言しています。

また、7年前の平成24年に開かれた会議では、ハバロフスク地方で収集した128人分の遺骨について専門家が「ほとんど日本人はいないのではないか」、「ロシア人の方のものを持ってきておいていいのかということがある。遺骨の数が多いので気になる」などと指摘し、厚生労働省の担当者が「ほぼロシア人が埋葬されている地域ということで、遺族がDNA鑑定を希望する場合申請があった段階で断ることを今後検討する」などと発言していました。

NHKの取材に対し厚生労働省は「検証作業を行っている段階であり、現時点ではコメントできない」としています。

厚労省 これまでの対応は

厚生労働省が「公表するつもりだった」と説明していた遺骨の取り違え問題。しかし、取り違えの疑いは14年前から再三、指摘されていたことが明らかになり不都合な事実を事実上、放置していた実態が浮かび上がっています。

遺骨を取り違えていた疑いをNHKが最初に報道したことし7月29日、厚生労働省は公表していなかった理由について「省内で対応を検討している段階で、ロシア側と協議してから公表するつもりだったが、スピード感が足りなかった」などと釈明し、その翌日、菅官房長官も「厚生労働省によると、遺骨の出身地の特定は遺骨収集の相手国と協議のうえで決定されるべきもので、DNA鑑定の結果の報告があった時点では公表せず、結果を踏まえて相手国と協議したうえで公表するということだった」と説明しました。

先月5日にはシベリアの別の埋葬地で収集した70人分の日本人の遺骨を取り違えていた疑いを1年半以上前に把握しながら、公表していなかったことも明らかになりましたが、根本前厚生労働大臣は「内部検討の段階だったため公表していなかった。放置していた訳ではない」などと説明し、近く検証結果を公表するとしています。

しかし、NHKが取材を進めたところ、遺骨を取り違えた疑いは14年前の平成17年から複数の専門家が再三、指摘していたことが明らかになりました。

先月23日に開かれたシベリアなどに抑留されて亡くなった人たちを追悼する式典では、元抑留者の代表が「襟を正すなどというレベルの話ではなく抜本的に事業の進め方を再検討しロシア側と協議を重ねるべきだ」などと、厚生労働省の対応を批判していました。

こうした中、厚生労働省は遺骨の科学的な鑑定を強化するため、来年度予算案の概算要求を今年度より6億円ほど増額したほか、10日、新たな部署となる「鑑定調整室」を設置し、遺骨の身元を特定するDNA鑑定の体制を強化するとしています。

専門家「ずさんで悪意ある怠慢」

厚生労働省の元官僚で中央省庁の問題に詳しい神戸学院大学の中野雅至教授は、「再三にわたって問題を指摘されているにもかかわらず放置していたというのは、ずさんで悪意ある怠慢だ。戦後、長い期間がたち、遺骨収集が重要な事業だという意識や仕事への熱意が厚生労働省の組織全体で薄れてきていると言われてもしかたがない。政策の背後にある戦没者の遺族の顔が見えなくなり、都合の悪いことの先延ばしばかりが頭に浮かんで、波風立てずにバレなければいいだろうと考えていたのではないか」と指摘しています。

そのうえで「厚労省の職員の中から『このまま放置したらまずい』という声が上がらなかったとしたら悲しいことだ。これほどの矛盾があるのに放置していたということは、戦争で亡くなった方に対する思い入れもないし、何の信念もないと言われてもしかたがない」と話しています。

加藤厚労相「感性を高めて対処する」

戦没者の遺骨を取り違えていた疑いが相次いで明らかになっていることについて加藤厚生労働大臣は12日の会見で「日本人のものとして収集した遺骨の中に間違ったものが入っていたとするならば、どのようにして対応しないといけないのか感性を高めて対処するべきだと思っている」と述べました。

そのうえで、現在進められている検証作業については、「ロシアとの関係もあり1か月をめどに整理をすると報告を受けている。遺骨の収集はどのようなものなのか、遺骨に対して皆さんがどういう思いをもっているのか最初の原点をしっかり認識して対応しなければならない」と述べました。