諫早湾干拓事業 司法判断のねじれにあす最高裁判決

諫早湾干拓事業 司法判断のねじれにあす最高裁判決
長崎県諫早湾の干拓事業をめぐり、排水門の開門を命じた確定判決を無効とするよう国が求めている裁判について、最高裁判所は13日、判決を言い渡します。開門すべきかどうかについて相反する判決が出され司法判断のねじれが続くなか、最高裁がどのような判断を示すのか、注目されます。
諫早湾の干拓事業では、平成9年に国が堤防を閉めきったあと、漁業者が起こした裁判で開門を命じる判決が確定した一方、農業者が起こした別の裁判では開門を禁止する決定や判決が出されました。

司法の判断が相反するなか、国は開門を命じた確定判決の効力をなくすよう求める裁判を起こし、去年7月、2審の福岡高等裁判所は国の訴えを認め、確定判決を事実上、無効とする判決を出し、漁業者側が上告していました。

最高裁判所第2小法廷はことし7月、双方の意見を聞く弁論を開き、漁業者側は確定判決に従って開門するよう求めた一方、国は2審の判断を維持して確定判決を無効とするよう求めました。

判決は、13日午後3時に言い渡される予定で、開門すべきかどうかについて相反する判決が出され司法判断のねじれが続くなか、最高裁がどのような判断を示すのか、注目されます。

諫早湾の干拓事業とは

諫早湾は九州の有明海の西側にあります。現在、干拓地にはおよそ670ヘクタールの農地があり、長崎県によりますと、35の農業法人などがたまねぎやレタスなど、30を超える品目を生産しています。

干拓事業の構想が持ち上がったのは戦後すぐの昭和27年。しかし、その事業の目的は米作りや畑作、工業用地など、変遷を重ねます。

昭和60年に防災や農業を目的とした現在の事業が動き出し、平成9年、全長7キロの潮受け堤防によって諫早湾の3分の1にあたる3550ヘクタールが閉めきられました。

しかし、その後、特産の二枚貝「タイラギ」が不漁となったほか、養殖のりが色落ちし、不作となった年がありました。

このため、国は1か月ほど排水門を開ける調査を行いましたが、原因の特定には至らないまま、中長期の開門調査は行わず、事業を進めることを決めます。

納得できない漁業者らは、国を相手に裁判を起こし、争われてきました。

司法判断のねじれ

開門の是非をめぐって、司法の判断がねじれた状況になったのは、開門を求める漁業者と、開門に反対する農業者が、それぞれ国相手に裁判を起こし、いずれも勝訴したためです。

平成9年に堤防が閉めきられる直前から事業に反対する市民や漁業者が国を相手に事業の差し止めなどを求めていくつもの裁判を起こしました。

このうち、漁業者らが開門を求めた裁判で、平成22年に福岡高裁は、1審に続いて、堤防を閉めきったことと漁業被害との因果関係を認め、3年以内に開門するよう国に命じました。

この判決は当時の民主党政権が上告せずに確定し、国に開門の義務が生じました。

これに対し、今度は開門に反対する農業者らが国を相手に開門を禁止するよう仮処分を申し立てました。

平成25年、長崎地裁は「開門すれば干拓地の農業に被害が出る」などと農業者側の訴えを認め、国に開門を禁止する決定を出しました。

これにより、国は「開門しなければならない」という義務と「開門してはならない」という義務の相反する2つの義務を負うことになりました。

開門を求める漁業者と、開門に反対する農業者のそれぞれが、いずれも国相手に勝訴したためです。

国は、相反する義務を負ったことで、3年以内に義務づけられていた開門を先送りにします。

開門してもしなくても、どちらかの義務に違反して制裁金が課せられる状況になり、国は開門の義務に従わず、制裁金を支払いました。

こうした状況を打開するため、国が開門を命じられた平成22年の確定判決を事実上、無効にするよう求めたのが今回の裁判です。

そのうえで国は平成29年、開門しない方針を明確にしました。

国は開門しないことを前提に、漁場の回復を目指す100億円規模の基金案を示しましたが、和解協議は決裂しました。

去年7月、福岡高裁は「漁業者が開門を求める前提となる漁業権はすでに消滅している」として、確定判決を事実上、無効にする判決を出し、漁業者側が上告しています。

今回の判決 注目は…

今回の判決では、開門の是非をめぐる争いが長引く中、最高裁が司法としての統一的な判断を示すのかや、どこまで踏み込んだ意見を述べるのかが注目されます。

まず、最高裁が漁業者側の上告を退け、国が勝訴した場合です。
国が求めたとおり、開門を命じた確定判決が事実上、無効になります。一連の裁判で開門を命じた唯一の判決の効力がなくなり、司法の判断は開門を認めない判断で統一されることになります。国には「開門しなければならない」という義務がなくなり、「開門してはならない」という義務だけとなります。

一方、最高裁が2審を取り消し、漁業者側が勝訴した場合、開門を命じた確定判決の効力が残ることになります。この場合、開門の是非について相反する司法の判断が存在する状況は変わらないことになります。しかし、今回の判決を出す最高裁の第2小法廷は、ことし6月、漁業者が開門を求めた別の裁判で上告を退ける決定をし、
開門を認めませんでした。

2審の福岡高等裁判所で審理をやり直すよう命じる可能性もあります。この場合も、開門の是非について相反する司法の判断が存在する状況は変わりません。しかし、開門の是非について最高裁がどこまで踏み込んだ意見を述べるのか、注目されます。

専門家「ねじれの原因は…」

民法が専門で、一連の問題に詳しい横浜国立大学大学院の宮澤俊昭教授は、裁判が混迷している理由について「裁判はそれぞれの権利が侵害されているかどうかだけを判断する制度だ。しかし、諫早湾の問題では、それぞれの利益や権利を調整して、地域が合意したうえで先に進むことが求められている。裁判所は地域をどうしたらいいのかという点に踏み込んで判断することができず、ここにねじれの原因の1つがあると思う」と話しています。

また最高裁の判決について「いずれの判決が出たとしても、結局、政治が動いて利害を調整しないと、紛争は残り続けることになる。こうした紛争状態を解決するのは政治の役割で、最高裁判所にはこの点について何かしら言及してもらいたい」と話しています。