日本の輸出管理厳格化 韓国がWTO提訴手続き開始

日本の輸出管理厳格化 韓国がWTO提訴手続き開始
韓国政府は、日本が韓国向けの半導体の原材料など3品目の輸出管理を厳しくしたのは、国際的な貿易のルールに違反するとして、11日、WTO=世界貿易機関に提訴する手続きに入りました。
韓国産業通商資源省のユ・ミョンヒ(兪明希)通商交渉本部長は11日午前、ソウルで記者会見し、日本政府がことし7月、韓国向けの半導体の原材料など3品目の輸出管理を厳しくしたのは、国際的な貿易のルールに違反するとして、WTOに提訴する手続きに入ると発表し、日本政府に対し提訴の前提となる2国間の協議を始めるよう要請しました。

理由について、ユ本部長は「日本の措置は、太平洋戦争中の『徴用』をめぐる韓国の裁判と関連した政治的な動機に基づくもので、韓国をねらった差別的な措置だ」と述べ、WTOの差別禁止の義務や、貿易規定を公正かつ合理的に運用する義務などに違反していると主張しました。

日本政府は、韓国向けの輸出管理を厳しくした理由について、韓国に輸出されていた半導体などの原材料が、軍事転用できるものにもかかわらず貿易管理に不適切な事案が見つかるなど、安全保障上の懸念があったためだとして、WTO違反にはあたらないと反論しています。

韓国政府は、2国間の協議で60日以内に双方の主張が折り合わない場合、貿易上の紛争の解決にあたるWTOの「小委員会」に提訴できることになります。

ただ、ユ本部長は、「2国間協議を通じて、日本の立場を聞き、ともに建設的な解決策を模索したい」とも述べ、2国間協議で事態の打開を図りたいという思惑もにじませました。

日本政府 WTO違反にはあたらないと強く反論

韓国政府が、日本政府が半導体の原材料など3品目の輸出管理を厳格化したのは、WTO=世界貿易機関のルールに違反しているとして、日本をWTOに提訴する手続きに入ると発表したことに対して、日本政府は安全保障上の輸出管理の見直しであり、WTO違反にはあたらないと強く反論しています。

日本政府は、韓国向けの輸出管理を厳しくした理由として、韓国に輸出されていた半導体などの原材料が、軍事転用できるものにもかかわらず貿易管理に不適切な事案が見つかるなど、安全保障上の懸念があったためだとしています。

これは、日本国内の輸出管理の運用の見直しであって、WTOで禁止されている禁輸などの貿易の制限にはあたらないと主張しています。

また、安全保障上の懸念が払拭(ふっしょく)されれば輸出の許可は出す方針で、軍事転用のおそれがないことが確認された一部の原材料について順次、輸出許可を出しています。

こうしたことから、日本政府は一連の措置はWTO協定に違反しないと強く反論していて、韓国政府がWTO違反だとする根拠について今後の2国間協議の場などで詳しい説明を求めることにしています。

経産相「日本の措置 WTOに整合」

世耕経済産業大臣は記者団に対し、日本の措置はWTOのルールと整合的だとしたうえで、韓国の主張を精査して対応していく考えを示しました。

この中で世耕大臣は、韓国政府からWTOへの提訴の前提となる2国間協議の要請を受けたことを明らかにしました。そのうえで「今後、具体的な対応方針について、協議要請の内容を精査の上、WTO協定に定められた手続きを踏まえて適切に対応したい。今回の措置は、WTOに整合的であることは明確だ」と述べて日本の措置は国際的な貿易のルールに違反しないという認識を改めて示しました。

これとは別に、WTOの2審にあたる上級委員会は日本時間のきょう午前0時、韓国政府が半導体の工場などで使われる日本製の空気圧バルブに高い関税をかけていることについて、韓国の措置はWTO協定違反だとして、是正を求める最終判断を示しました。これについて世耕大臣は「韓国は日本のことを訴える前に是正措置をとってもらいたい」と述べてWTOの判断に従い関税をかける措置をやめるよう求めました。

官房長官「協議の要請なされれば適切に対応」

菅官房長官は、臨時閣議のあとの記者会見で、「協議の要請がなされた場合は、内容を精査のうえ、WTO協定に定められた手続きを踏まえ、適切に対応していきたい」と述べました。

WTOでの過去の日韓対立

日本と韓国の間では、貿易をめぐる問題がこれまで今回を除いて合わせて6回、WTOの紛争解決の手続きに持ち込まれています。

このうち、韓国が日本に対し提訴の手続きをとったのは2回です。韓国製の半導体に日本が高い関税をかけた措置については、上級委員会で日本に是正を求める判断が示されました。

また、日本ののりの輸入量をめぐる争いは両国による協議で解決され、韓国が訴えを取り下げました。

一方、日本は韓国に対しこれまで4回、提訴の手続きをとっています。このうち2件は協議や審理の途中にあり、ほかの2件ではWTOの判断が示されました。韓国が日本製の空気圧バルブに高い関税をかけていることについては、10日、韓国に是正を求める最終判断が示され、日本の主張が認められた形で事実上、日本の勝訴が確定しました。

一方、韓国が原発事故を理由に福島などからの水産物を輸入禁止にした措置については、日本が撤廃を求めて提訴しましたが、ことし4月、日本の主張を退ける最終判断が示されました。

WTOの紛争解決の手続きは…

韓国が日本をWTOに提訴する手続きは今後、どのように進むのでしょうか。

WTOの紛争解決の手続きでは、加盟国の間で貿易をめぐる紛争が発生した場合、第1段階として、当事国による2国間の協議が行われることになっています。このため韓国はまず日本に対し2国間の協議を要請します。要請から60日以内に解決できない場合は、WTOの裁判所にあたる紛争解決機関に審理を委ねることができます。提訴した場合、審理は2審制で、まず、1審にあたる「紛争処理小委員会=パネル」が舞台となります。ここで日本と韓国がそれぞれの立場を主張し、判決にあたる報告が出されます。

日本と韓国は「パネル」の判断に異議がある場合、2審にあたる「上級委員会」に申し立てることができます。ここでもそれぞれの主張が検討され、報告が出されます。日本と韓国は「上級委員会」で示された判断に従い必要な措置をとることが求められます。

WTOによりますと、1995年の設立から現在までに紛争解決の手続きの第1段階にあたる2国間協議が要請されたケースは、今回の件以外に合わせて588件に上っています。協議の要請からパネルや上級委員会の判断が示されるまでには2年程度かかるケースが多くなっています。

WTO=世界貿易機関とは

WTO=世界貿易機関は、自由で開かれた貿易体制の基盤となる国際機関で、スイスのジュネーブに本部を置き、日本や韓国を含む164の国と地域が加盟しています。

保護主義的な貿易政策が第2次世界大戦につながったという反省から、自由貿易を推進しようと戦後発足したガット体制の流れを引き継ぎ、1995年に設立されました。

WTOには主に3つの役割があります。国際的な貿易のルール作り、そのルールが守られているかどうかの監視、そして加盟国の間で貿易紛争が起きた場合の解決です。

最高の意思決定機関は2年に1度開かれる閣僚会議ですが、加盟国すべての大使らが出席する常設の「一般理事会」が、閣僚会議を除くと実質的な最高機関で、一般理事会のもとに分野別の理事会や委員会、紛争解決にあたる機関などが設けられています。ただ、WTOは設立から20年余りがたち、いま起きている問題に十分、対応できていないという指摘が各国から相次いでいます。

特にアメリカは、中国による国内産業の過剰な保護を見過ごしているなどとして、WTOは公平性に欠けていると訴えており、中国との貿易摩擦の背景にもなっています。

このため、WTOの改革をどう進めるかが大きな課題になっていて、ことし6月に開かれたG20大阪サミットでも首脳宣言に必要な改革を支持することが盛り込まれています。