“起きたら犯罪者扱い” いったいなぜ

“起きたら犯罪者扱い” いったいなぜ
「起きたら犯罪者扱いされててびっくりですが完全に事実と異なります」
茨城県の高速道路で起きたあおり運転の事件で、あおり運転をしていた男と一緒にいた女と間違われ、ネット上で実名をさらされた女性がSNSに書き込んだことばです。
でも、今回と全く同じ事が、おととしにも起きていました。(ネットワーク報道部 記者 井手上洋子 目見田健/北九州放送局 記者 櫻澤健太)

“ガラケー女”は私?

女性が異変に気付いたのは、17日の朝。

友人から「ネット上で犯人扱いされているよ」という連絡がありました。

よく理解できないまま自身のフェイスブックやインスタグラムを見てみると、自分を非難することばの数々が書き込まれていました。
こうした書き込みで事態が飲み込めてきました。
今月10日、茨城県守谷市の常磐自動車道で、あおり運転をしたうえ男性を殴ってけがをさせたとして大阪市の会社役員の男(43)と、この男をかくまっていた疑いであおり運転の車に同乗していた交際相手の女(51)が逮捕された事件。
2人が逮捕される前に被害者が暴行を受ける姿やその様子を携帯電話で撮影する女の動画が広まる中、全く関係のない自分がその女だとして、ネット上に名前や写真、それに代表を務める会社名がさらされていたのです。

そこで書いたのが冒頭のコメント。
さらに会社の電話に知らない番号から次々と着信もあり、業務にも支障を来すようになりました。

女性は知り合いから、インターネットに関連した事件に詳しい弁護士を紹介してもらいました。

いつ声明をだすか

相談を受けたのは、小沢一仁弁護士。

インターネットの掲示板に書き込まれたひぼう中傷の削除や、発信者の特定など数多くの依頼を手がけてきた小沢弁護士がまず考えたのは、誤った情報を訂正する声明文を出すタイミングです。
「過熱しているところに正論を言ってもネット上では流されてしまう。でもそのうち『女性は違うのではないか』という冷静な声が増える。その潮目が変わる時を待って正しい情報を出すのが効果的」と小沢弁護士。
ネット上の反応を見ながら最も効果的なタイミングを探ることにしました。

なぜ間違われたのか?

それにしてもなぜ、見知らぬ女に間違われたのでしょうか?

小沢弁護士は、女性が間違われた直接的な原因をこう分析しています。
▽面識のない容疑者の男が、女性のインスタグラムのアカウントをフォロー

▽逮捕された女が身につけていた帽子やサングラス、洋服が、女性がSNSで公開していた自身の写真の中で身についていたものと似ていた

声明文を出すなら今だ

そうこうしているうちにネットの書き込みに変化が現れてきました。

女性が「事実と異なります」とSNSに投稿したことを受け、それまでの書き込みを疑い始める人が出てきたのです。

「声明文を出すなら今だ」

小沢弁護士は声明文を出すタイミングだと判断しました。
そして、まもなく18日に変わろうとする夜中に声明文を女性が代表を務める会社のホームページにアップしました。

そこには事実無根であるとともに「記事を投稿することのみならずこれを引用して広める行為も名誉権を侵害する行為にあたる可能性がある。法的措置を取ることを検討しています」と明記されています。

このあと、うその書き込みや引用した記事は徐々に削除されていきました。
「極めて薄弱な根拠で社会的関心の高い刑事事件の被疑者としてネットで公表し、無関係な人が極めて大きい不利益を被ってしまう現在の風潮は非常に危険だ。最初に発信した人は悪いがそれに追随し、安易に広めていった人たちも違法にあたるので重く受け止めてほしい」(小沢弁護士)

おととしにも…

「私と同じような被害者が出ないようにマスコミの取材などを通じて訴えてきたつもりですが、また、このような事が起きてしまったことはショックです」
こう話すのは、同じようなあおり運転による事件で、ネット上にうそを書かれる被害を受けた男性です。

おととし6月、神奈川県の東名高速道路でワゴン車がトラックに追突され、一家4人が死傷した事故。
直前まで「あおり運転」を行い事故を引き起こしたなどとして、福岡県中間市の石橋和歩被告(27)が危険運転致死傷などの罪で起訴されています。

この事故をめぐっては、
▽「あおり運転」をした男の名字が「石橋」だったことや
▽会社の所在地が中間市から近い北九州市八幡西区だったことなどから、
石橋秀文社長が経営する石橋建設工業が「男の勤務先だ」などとインターネット上にうその書き込みが行われました。
石橋建設工業の石橋社長によりますとうその書き込みのあと、多い日で1日に100件以上の嫌がらせ電話が相次ぎ、休業を余儀なくされたほか、自身や家族もひぼう中傷を受けました。

被害者救済の難しさ

この事件のその後を取材すると、こうしたケースでの被害者救済の難しさを感じざるをえません。

石橋社長は去年3月、名誉毀損の疑いで刑事告訴し、その後、警察は書き込みに関わったとして11人を書類送検しました。

11人は警察の調べに対しいずれも容疑を認めていましたが、検察は「別の投稿をコピーして、再び投稿したにすぎない」などとして、11人全員を不起訴にしました。

石橋社長は「不起訴になったからといって許すことはできない」などとしてことし3月、書類送検された11人のうち、示談が成立するなどした3人を除く8人を相手取って、880万円の賠償を求める訴えを起こしました。

そして、ことし6月に開かれた裁判では、8人は書き込みをしたことは認めましたが、このうち5人は、名誉毀損と因果関係がないなどとして、訴えを退けるよう求めました。

一方3人は、社長の訴えを認めて和解の意向を示し、これまでに2人と和解が成立しています。
「匿名だからといって好き勝手に書き込むことは許せないですし、事実かどうかを確認するなど責任を持って発信してもらいたい」(石橋社長)

10年前と変わらない ただ…

最後に、この人に聞きました。
ある殺人事件から10年ほどたった頃に、犯人グループの1人だと全くのうそをネット上に流された経験がある、お笑いタレントのスマイリーキクチさんです。

スマイリーさんは今回のケースについて「勝手に犯人の関係者だと決めつけネット上に個人情報を書き込み、職場に抗議をする人物は、その攻撃性と無責任さにおいてあおり運転の男と大差ないように思う」と厳しく指摘。

そして「いちばん最初に情報を出す人は拡散されていく喜びを感じているのではないか。ある種の承認欲求だと思う。そして多くの人が『怒りを共有したい』と考えている中、それが10回リツイートされればもはやデマでも真実に化けてしまう」とネットの怖さを語ります。

ネット上で繰り返されるうその書き込みと拡散。

スマイリーキクチさんは、ツイッターでこう警告しています。