カシミール問題 インドとパキスタンの対立深刻化

カシミール問題 インドとパキスタンの対立深刻化
インド政府がパキスタンとの間で領有権を争うカシミール地方の州に70年にわたって認めてきた自治権を突如撤廃してから12日で1週間です。インドはあくまで国内問題だと正当性を主張しているのに対し、パキスタンは貿易の停止に踏み切るなど激しく反発していて、核を保有する国どうしの対立が深刻化しています。
インド政府は、パキスタンと領有権を争う北部カシミール地方のインド側の州、ジャム・カシミール州に1949年以来、自治権を認めてきましたが、今月5日、これを突如撤廃すると発表し、その後、議会が撤廃に必要な憲法改正案を可決しました。

ジャム・カシミール州はヒンドゥー教徒が多数を占めるインドのほかの州とは違ってイスラム教徒が大多数を占めていて、モディ首相率いる与党 インド人民党はことしの総選挙で州の自治権の撤廃を公約の1つに掲げ、圧勝していました。

今回の措置についてモディ首相は、あくまで国内問題だとしたうえで「自治権によって開発が遅れてきたカシミールの人たちに恩恵をもたらすものだ」と正当性を主張しています。

これに対し、パキスタンはこれまでにインド駐在の大使の召還や当面の貿易の停止、さらには国連への問題提起など次々に対抗策を打ち出し、激しく反発しています。

インド政府は当面、ジャム・カシミール州を中央政府が直接統治する「直轄地」とする方針で、核保有国のインドとパキスタンの対立が一層深刻化しています。

「カシミール地方」とは

カシミール地方は、インド北部とパキスタン北東部に広がる山岳地帯で、伝統的な毛織物カシミヤの産地としても知られています。

この地域では、長年にわたってインド、パキスタン、それに中国の3か国が領有権をめぐって争ってきました。

1947年にヒンドゥー教徒が主体のインドとイスラム教徒が主体のパキスタンがイギリスから独立した際、カシミール地方の指導者がヒンドゥー教徒だったことからインドへの帰属を表明しました。

しかし、住民のほとんどはイスラム教徒だったため、パキスタンがカシミール地方の領有権を主張し、対立するインドとの間で戦争となりました。

1949年に停戦ラインを挟んでカシミール地方はインド側とパキスタン側に分断され、以来70年にわたって両国がそれぞれの地域を実効支配するとともに、相手の支配地域を含めた領有権を主張しています。

今回、自治権が撤廃されたインド側の地域では、パキスタンの過激派組織やインドの実効支配に反対する地元のグループなどがインド軍や治安部隊をねらって襲撃を繰り返すなど不安定な情勢が続いています。

また、カシミール地方の東部では1962年にインドと中国がヒマラヤ山脈沿いの国境線などをめぐって武力衝突し、現在は中国が実効支配しています。

インドとパキスタン 3度戦火

インドとパキスタンは1947年にイギリスから独立して以降、70年余りにわたり、カシミール地方の領有権をめぐって3度も戦火を交えるなど対立を続けてきました。

1998年にインドが核実験に踏み切ると、これに対抗してパキスタンも核実験を行い、核保有国どうしの対立は国際情勢の大きな不安定要素になってきました。

また、2001年にはインドの首都ニューデリーの議会が武装グループに襲撃されたほか、2008年には西部の商業都市ムンバイで160人以上が死亡する同時テロ事件が起き、インド政府はいずれもパキスタンの過激派組織による犯行と断定し、パキスタン政府がテロを支援していると厳しく批判しました。

さらにことし2月には、パキスタンの過激派組織による自爆攻撃でインドの治安部隊40人が死亡したことをきっかけにインド軍がパキスタン側に越境して空爆。これに反発したパキスタン軍はインド軍の戦闘機を撃墜するなど双方の報復合戦に発展しました。

自治権撤廃 インドのねらいは

カシミール地方でインドが実効支配するジャム・カシミール州は、ヒンドゥー教徒が主体のインドでは唯一、住民の大半をイスラム教徒が占めています。

イギリスからの独立の際、ヒンドゥー教徒だったこの地域の指導者がインドへの帰属を表明したことにパキスタンへの帰属を求める多くの住民たちが反発し、反乱や暴動が相次ぎました。

このためインド政府は1949年以降、この地域に特別な自治を認めることを憲法に定めて国の一部であることを既成事実化していきました。

具体的には、外交や防衛、通信などの分野を除いて、中央政府の法律の適用には州の承認が必要となるほか、行政や司法の独立、州外の人の土地取得の制限など、幅広い自治が存在していました。

しかし、ヒンドゥー教徒寄りの政策を打ち出しているモディ政権は、この自治権に対して一貫して批判的な立場をとってきました。

ことし5月にかけて行われた総選挙では、モディ首相率いるインド人民党がジャム・カシミール州の自治権の撤廃を公約の1つに掲げて圧勝。強固な支持基盤を後ろ盾に、モディ政権は悲願だった自治権の撤廃に踏み切ったものとみられます。

モディ首相が自治権の撤廃を強行した背景には、この地域で相次ぐテロへの対策強化に加え、中央政府の直轄地として経済開発を進めることで、国民の支持を維持しながら経済成長を加速させる起爆剤にしたい思惑があります。

モディ首相は今月8日の演説のなかで「自治権によってテロや分離主義が生み出された。この決定で地域の安定と経済発展が進む、新たな時代を迎えた」と述べ、今回の措置の正当性を強調しました。

パキスタン強硬姿勢の背景

インド政府がカシミール地方の州の自治権を撤廃したことを受けて、パキスタンのカーン首相は即座に強く反発しました。

インド側への対抗措置として、カーン首相は7日、インドに駐在する大使の召還や当面の貿易関係の停止、それに国連に問題提起することなどを明らかにし、インド側を強くけん制しました。

カーン首相がこうした対抗措置に即座に踏み切った背景には、国内世論への配慮があります。

パキスタンは2001年の同時多発テロ事件以降、テロとの戦いが長く続いた結果、国内経済が疲弊。さらに、関係を深める中国との巨大経済圏構想「一帯一路」による開発事業で財政状況も悪化し、経済の立て直しが急務となっています。

カーン政権としては、隣国インドとの関係改善をはかり、低迷する経済の再建を進めたいところですが、国内のイスラム過激派など保守層からの強硬な意見も無視できないのが現状です。

このため、カーン首相はインドに対して強い態度で臨まなければならないというジレンマを抱えており、今後も国内世論を慎重に見極めながら対応を迫られることになります。

中国 王毅外相 カシミール問題でインド対応を批判

中国の王毅外相は12日、インドのジャイシャンカル外相と北京で会談しました。

中国外務省によりますと、会談で王外相はインドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方の州に認めてきた自治権を撤廃したことに関連して「インドによる現状の変更は、地域の緊張を生み出している。中国は、地域情勢を複雑にする一方的な行動に反対する」と述べ、インド側の対応を批判しました。

さらに王外相は、中国がインドとの間で領土問題を抱えていることを踏まえ、「インドの対応は、中国の主権や権益に対する挑戦でもあり、中国として重大な懸念を表明する」と非難しました。

カシミール情勢をめぐって、王外相は今月9日には、急きょ中国を訪れた友好国・パキスタンのクレシ外相と会談し「中国はパキスタンがみずからの正当な権益を守ることを断固として支持する」と述べ、インドをけん制していました。