作新学院 劇的勝利の陰に「みずから“呼吸”する野球」

夏の甲子園を制した3年前以来の勝利を挙げた作新学院(栃木)。延長戦での劇的勝利の陰には、伝統校復活を成し遂げた監督が「みずから”呼吸する”」と、選手たちに独特のことばで伝えた、こだわりの野球がありました。

1つ勝つ難しさを痛感

初戦の筑陽学園戦。作新学院は2点リードの9回2アウトから同点とされる重苦しい雰囲気を振り払い、延長10回、2点を勝ち越して競り勝ちました。

夏の甲子園での3年ぶりの勝利に、小針崇宏監督は「甲子園で1つ勝つことがどれだけ難しいか、改めて肌で感じた」と胸をなで下ろしました。

“みずから呼吸”する野球

36歳の小針監督は2006年に作新学院の監督に就任。ここから春夏合わせて12回、チームを甲子園に導いています。3年前には今井達也投手(現・西武)を擁して54年ぶりの全国制覇を果たすなど、伝統校を見事に復活させました。

その小針監督が目指すのは「選手が自分たちで“呼吸”する野球」。監督の指示を待つのではなく、試合展開を見て選手が自分で考えて動けるようになってほしいという思いを独特のことばで伝えています。

ふだんの練習でも、選手たちには、常に準備を怠らずプレーに反応・判断し、実行に移すことが大事だと繰り返し指導してきました。

選手が“呼吸”して躍動

筑陽学園戦では、小針監督の指導を選手が体現した場面がありました。9回2アウトから追いつかれた直後。延長戦に突入し重苦しい雰囲気が漂いましたが、小針監督はベンチ前で円陣を組み「この回、攻めてすぐに勝ち越そう」と選手たちに伝えました。

そして10回の攻撃。先頭の福田真夢選手はヒットで出塁し、次のバッターの初球で、いきなり盗塁を成功させて、勝ち越しのチャンスを作ったのです。アウトになれば、相手を勢いづかせてしまうかもしれない場面。盗塁は、小針監督からのサインではなく、福田選手みずからの判断でした。俊足の福田選手は、小針監督から「行けると思ったら、自分の判断で走れ!」と言われています。

福田選手は事前に相手投手の映像を確認し、試合中もベンチから投球モーションをつぶさに観察していたと振り返りました。福田選手は「キャッチャーの肩は強いが、ピッチャーからのけん制は多くない。だから思い切ってスタートできた」と胸を張りました。

まさに、小針監督が伝えてきた「自分で“呼吸”する野球」を甲子園で見せた瞬間でした。

挑戦者の野球

福田選手の盗塁で作ったノーアウト二塁のチャンスから、今度は小針監督が仕掛けました。バッターが追い込まれてから出したサインは「ヒットエンドラン」。ランナー二塁からのヒットエンドランは、バッターが空振りすれば、一瞬にしてチャンスが潰れる可能性もある大胆な作戦です。

結果、バッターは空振り三振となりましたが、二塁ランナーの福田選手は抜群のタイミングでスタートを切り、形は三塁への盗塁が成功。1アウト三塁となったことで相手の内野手は前進守備を取らざるをえなくなり、3番・中島義明選手が前に出てきていたセカンドの脇をしぶとくゴロで抜いて、勝ち越し点をもぎ取りました。

「選手に勝たせてもらった。作新らしい野球をしてくれた。次の試合も思い切って攻めていきたい」と小針監督。

選手たちが「みずから呼吸して」グラウンドを駆け回り、初戦で目指す野球を見事に実践した作新学院は、3年ぶりの全国制覇を目指します。