大雨検証 “全域に避難指示” 「危険度に応じ発表」の指摘も

大雨検証 “全域に避難指示” 「危険度に応じ発表」の指摘も
先週、記録的な大雨が降った鹿児島県では合わせて9つの自治体が市や町の「全域」に避難指示を出しました。NHKが理由を尋ねたところ、7つの自治体が「全域にリスクがあったため」と答えましたが、専門家は「一定の理解はできるものの、危険度の違いに応じてメリハリをつけた発表も必要ではないか」と指摘しています。
先週の記録的な大雨で、鹿児島県内では鹿児島市や霧島市など9つの自治体がそれぞれの市や町の「全域」に避難指示を出し、対象者は103万人余りに上りました。

内閣府のガイドラインでは「危機感が伝わりやすいよう、できるだけ地域を絞って情報を発表することが望ましい」としていて、NHKは、それぞれの自治体に全域に出した理由を尋ねました。

その結果、鹿児島市など7つの自治体は、記録的な大雨で土砂災害や川の氾濫といった複数の災害のリスクが高まり、「地区ごとに判断した結果、リスクが全域にあった」と答えました。

また、いちき串木野市は「全域ということばで警戒感を伝えたかった」と答えました。

一方、ことし新たに導入された大雨の警戒レベルで避難指示と避難勧告が同じレベル4とされ、「高齢者だけでなく対象地域では『全員』避難」と位置づけられたことについて、鹿児島市は「全員」というキーワードが「全員、避難場所に行く」と受け取られかねず、状況によって取るべき行動が変わるという本来の意味合いが十分伝わっていないと指摘しました。

また、霧島市は同じレベル4の中に避難指示と勧告が位置づけられ、重みが伝えにくかったと指摘していて、情報の意味を正確に伝えることの難しさも浮き彫りになりました。

専門家「メリハリをつけた発表が必要」

災害情報に詳しい静岡大学の牛山素行教授は「自治体側が、強い警告を発したいという気持ちから全域に避難指示を出すという選択はわからなくもないが、どこにも安全な場所は無いと受け取られ、住民はどこに逃げればいいのか戸惑ってしまう。一般的に市や町の全域に土砂災害や洪水の危険性があるとは考えにくく、危険度の違いに応じて、メリハリをつけた発表が必要ではないか」と指摘しています。

また、情報の受け手側の住民が注意すべき点として、「身近な場所でどのような災害が起きうるか、普段からハザードマップなどで理解しておくとともに、場所や状況に応じて避難を判断することが必要だ」としたうえで、避難という言葉の意味について「安全を確保する行動全般が避難であり、必ずしも避難場所に行くことだけが避難ではないと理解する必要がある」としています。

具体的には「危険が予測される場所では、早めに安全な場所に避難することが原則だが、風雨が激しいときはむやみに移動せず、建物の2階以上への避難や、近くの頑丈な建物への移動が有効なこともある。避難勧告や指示が出た時にどのような行動をとることが適切なのか、ふだんから考えておくことが重要だ」と話しています。

今回の記録的な大雨 検証を始めた町内会も

鹿児島市によりますと、市が避難指示を発表したのは「8・6水害」などの災害が相次いだ1993年以来で、全域に発表したのは、初めてのことだとしています。

これだけの危機感を住民はどう受け止めたか、町内会の中には検証を始めたところもあります。

今月3日の大雨で崖崩れが起き、倉庫が全壊するなどの被害が出た鹿児島市田上地区の町内会長の1人宮元利典さんは避難指示を受けて役員に電話し、住民に避難を呼びかけました。

周囲を山に囲まれ、広い範囲が土砂災害警戒区域に指定されていることなどから住民がどう行動したのか聞き取りを進めています。

今回初めて避難した住民の1人東條ヨシ子さん(79)は、夫の勝美さんの足が不自由だったことなどもあり、これまで避難をしてきませんでした。

今回、テレビを見て心配になった子どもたちから電話で促され、避難を決めました。

東條さんは「自分たちは安心だと思っていいましたが、子どもたちが言ってくれたので避難を決断しました」と話していました。

宮元さんは、今回の大雨で、町内およそ140世帯のうち、4分の1程度の世帯が避難したとみています。

避難を決断した理由で多かったのは、身近な家族や町内会からの呼びかけでした。

その一方、市が全域に出した避難指示については「鹿児島市も広く、どこが危ないかが伝わらない」などという声が多く、避難の直接的なきっかけになったという人は今のところいませんでした。

町内会では住民1人1人が避難を決断できるよう地域の具体的な危険性を調べ、実践的な訓練を行いたいと考えています。

宮元さんは「自分が避難するべきなのかどうかや避難方法、場所があいまいな人が多く、地域のリスクを十分認識していない人もいた。市や専門家の協力を得ながら、進めていきたい」と話しています。

崖崩れ相次ぐも 発表されなかった新設の「災害発生情報」

ことし、5段階の大雨警戒レベルが導入されたことに伴い、最も危険度が高い「レベル5」に位置づけられる「災害発生情報」が新たに設けられました。

先週、鹿児島県では土砂災害や川の氾濫が起きましたが、「災害発生情報」はどの自治体も出しませんでした。

NHKが自治体に理由を尋ねたところ、崖崩れが相次いだ鹿児島市や洪水が起きた南さつま市などは「警戒レベル5に相当する被害が起きなかったから」としています。

また、川が氾濫したいちき串木野市は「状況把握が忙しく出す余裕が無かった」と答えました。

一方、霧島市は「災害発生の意味が不明瞭で国にも検討を求めたい」と話しています。

内閣府によりますと、「災害発生情報」は切迫性を伝えるため、市町村が災害の発生を把握した場合に可能な範囲で発表するとされています。

一方で、対象とする災害の規模や発表方法など詳しいことは決まっていないほか、さまざまな対応に追われる自治体が、速やかにこの情報を発表することは難しいという指摘もあります。