永遠の命!? 広がる“クローンペット”

永遠の命!? 広がる“クローンペット”
家族同然のかけがえのない存在ともいわれるペット。
そのペットと同じ遺伝情報を持つクローンが、およそ600万円でつくれるとすれば、どうしますか?
ペット市場が急成長している中国では、犬のクローンをつくるビジネスが広がりつつあります。手軽にクローンをつくれてしまうビジネスについて、取材しました。
(上海支局長 石井一利)

タレント犬の後継に…

クローンでつくられた犬がいると聞き、上海中心部にあるペットショップを訪れました。

そこにいたのは、中国の売れっ子タレント犬「果汁」(かじゅう)。
小さいとき、迷子になっているところを保護され、体の毛の一部がオレンジ色に似ていたことから名付けられました。
「果汁」はこれまでに8本の映画などに出演し、出演料は1日およそ30万円。
中国では、トップクラスです。

ただ、気がかりなのが年齢。
推定9歳で人間でいえば50代に相当します。最近は、体力的に長時間の撮影は、厳しくなってきたといいます。

そこで「果汁」を所有するプロダクションは、後継者として全く同じ遺伝情報を持ったクローンを作り出すことにしました。

その結果は…
去年生まれた「果汁」のクローン犬です。「小果汁」とも呼ばれています。
現在、生後9か月、見た目はそっくりです。

専属のトレーナーのもと、「果汁」とともに演技の訓練を受けていて、タレントデビューを目指しています。クローンだからなのか、「小果汁」は訓練の飲み込みが早いと言います。

取材に行った際も、カメラの前で、トレーナーの指示に従って、拳銃で撃たれて倒れる演技などを見せてくれました。

2匹を訓練するトレーナーは「いずれは小果汁を、もとの果汁の代わりに出演させます。果汁の子犬の役で共演させるのもいいですね」と話していました。

クローン犬をつくる北京のベンチャー企業

「果汁」のクローンをつくった会社は、北京郊外のベンチャー企業が集まる地域にありました。

研究施設も併設すると聞き、巨大な敷地のなかに会社があるのかと想像していたのですが、会社があるのは、8階建ての建物の1フロアの一画。意外にこぢんまりした印象です。

2012年に設立されたベンチャー企業「SINOGENE」は、去年、独自の技術を生かしてクローン犬をつくるビジネスをはじめました。
会社が入るフロアの1室に、クローン犬を妊娠し“代理母”となった犬が飼育されている場所があります。

取材した際、7匹の妊娠した犬がケージのなかで飼育されていました。
飼育されている“代理母”の犬は、ほとんどがビーグル犬。性格がおとなしいことなどから選ばれたということです。

ただ、おなかに宿しているのは、顧客から依頼されるなどした、さまざまな犬種の胎児だということで、施設の職員によって体調管理などが徹底されているということでした。
別の部屋には、クローン犬の細胞を培養する場所もありました。
クローン犬は、もとになる犬の体細胞から核を取り出し、それを事前に核を取り除いておいた別の犬の卵子に移植します。

その細胞を培養し、代理母となる犬の体内に入れ、育てるのです。
クローン犬をつくる場合の費用は1匹あたり日本円でおよそ600万円
それでも中国全土から問い合わせが相次いでいるそうです。

この会社の趙建平 副社長に話を聞きました。
「ことしは100から200の受注を目指し、2、3年後には300から500件まで受注を増やしたい。中国のペット業界は急成長しているので、クローンペットも存在を知ってもらえれば需要はある」

中国のペット市場

クローンビジネスが広がる背景にあるのが、中国で起きている爆発的なペットブームです。

市場規模は、去年、日本円で2兆7000億円を突破。
ことし4月、上海で開かれた国際的なドッグショーには、自慢の愛犬を連れた多くの人たちが来場しました。
所得があがっている中国では、成功の証として、中国原産の犬や、海外から輸入された犬など、高額で取り引きされる犬を購入し、飼育する人も少なくありません。

会場を訪れていた愛犬家にクローンペットについて聞いてみました。
「クローンについては、機会があれば考えるかもしれません。支持しますよ。お金の問題でなく、愛情の問題ですからね」
「高い金額は受け入れられます。犬を買ったときに多くのお金を払っていますから、クローンのお金くらい大丈夫です」
所得の高い中国の愛犬家の間では、愛犬のクローンや、高額な費用について、抵抗はなさそうな印象でした。

クローン犬を求める人は…

これから愛犬のクローンをつくろうとしている人を取材することもできました。

内陸部、重慶に住む肖兵さん親子です。無料でクローンをつくることができるという企業のキャンペーンに応募し、当選しました。

愛犬の「カントウ」は10歳を超え、耳が遠くなるなど、衰えが目立つようになってきたといいます。

肖兵さんの娘に話を聞きました。
「この犬がいなくなったらと思ったら、とても悲しくなってしまう。元と同じでなくても、クローン犬が来れば姿が似ているので、心が癒やされると思います」と話していました。

手元に届くまで10か月

クローンをつくるために「カントウ」の体細胞を採取する様子も取材できました。

訪れたのは、自宅から車で20分ほど離れた場所にある動物病院。
北京のベンチャー企業と提携しています。
肖兵さん親子が訪れると、すぐに手術室へ。

「カントウ」の後ろ脚の付け根の部分から、数ミリほどの大きさの皮膚が一部、取られました。
作業時間は、わずか数分。細胞は、宅配便で北京の会社に送られました。
そして10か月後には愛犬のクローンが手元に届くということです。

肖兵さん親子は、たくさん写真を撮ることを楽しみにしています。

“手間”が省ける…

中国では、このほか、南西部の雲南省で“警察犬”のクローンがつくられ、訓練が進められていると話題になっています。

つくられたのは、地元で優秀な警察犬のクローン。
去年12月に誕生し、現在、警察犬としての訓練が進められているということです。
多くの中から素質のある犬を選抜する手間が省けるとして、優秀な警察犬のクローンをつくることになったということです。

クローン犬 顧客タイプは

北京でクローンをつくるベンチャー企業によりますと、問い合わせをしてくる顧客は、大きく3つに分かれるといいます。
1:家族同然のペットを失いたくないという愛犬家
2:警察犬や麻薬犬などの後継をクローンでつくろうという政府などの公的機関
3:犬の繁殖などを行う業者

販売目的の業者も…

中国では、富裕層をターゲットにして、日本円で1000万円を超えるような高価な犬を海外から輸入するなどして販売する業者もあるといいます。

そうした業者の中には、高額で取り引きされる犬をクローンで増やし、販売しようというのではないかとみられています。

たとえば、1000万円以上で販売しようという犬でも、600万円かけてクローンをつくれば、2匹に増えるという計算をする繁殖業者などもいるのではないか、というのです。

倫理上の問題 専門家は

現在、クローンのペットをつくる企業は、中国のほか、韓国やアメリカにもあるといいます。

取材した北京の会社では、今後、犬だけでなく、猫や馬といった動物のクローンをつくるビジネスも始めたいと準備していて、クローンペットのビジネスはさらに広がろうとしています。

現在、“クローン人間”を誕生させることは、中国でも、日本などと同じように禁止されていますが、ペットのクローンについては明確な規制がありません。

ただ専門家は、規制がないからといってクローン技術をつかってペットを増やすことにはいくつかの問題があると指摘します。

生命倫理に詳しい北海道大学の石井哲也教授です。
「クローンを作る際、メスから卵子を採取する必要があるが、そのためにはホルモン剤の投与など、かなりの負担をかけることになる。また流産、死産も多い。さらに先天異常をもって生まれることもあり、その場合、多くは安楽死させられてしまうとみられている。つまりクローンは、動物に犠牲と負担を強いる繁殖法だという問題がある」
そして飼い主については…。
「『大切な命ある存在のペット』でなく、『遺伝情報一式』というところに心が移ってしまい、仮に子犬が死んでも、またクローンつくればいい、という話になりかねない。1匹1匹の大切な命に向き合わなくなるのではないかという懸念がある」
取材した北京の会社は、今後ペット大国の日本でも、クローンペットの需要は高いとして、日本からも注文を受けたいと話しています。

技術が急速に発展するなか、私たち自身が、ペットとは、命とは何かということを真剣に考える必要が出てきていると感じます。
上海支局長
石井一利