嫌われた報告書~“老後に2000万円”読んでみた

嫌われた報告書~“老後に2000万円”読んでみた
「どんな夢物語なのよ?」とネットの声。「正式な報告書としては受け取らない」とは大臣の声。“老後に2000万円が必要”とした報告書がほうぼうから批判を浴びています。一方、「報告書は自分の金のことを考えるいい機会だと思うぞ」という声もネットに。“いったいどんな報告なんだろう”、ページをめくってみました。読んでみました。
(ネットワーク報道部記者 松井晋太郎・郡義之)

令和元年6月3日

「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」

報告書の表紙に書かれていた正式名称です。

6月3日に出されるやいなや、まずネットで意見が飛び交います。

“老後の30年に2000万円を取り崩す必要がある”

この部分がクローズアップされたのです。
「リタイアまでに2000万円貯めろとかどんな夢物語なのよ?」
「2000万円なんか無理だな、200円もらって喜んでるのに」
一方、
「報告書は自分の金のことを考えるいい機会だと思うぞ」
「(批判は)そうとう曲解しているものと感じます。若いうちに投資や運用を学べというニュアンスです」
など、報告書に理解を示す意見もあがっていました。

若い人たちからのツイートも多く、将来を考えてか、関心が広がっているようにみえます。どんな報告書なんでしょうか。

現状整理のパートに、、

報告書は付属文書も含めて51ページ。名簿のページを見るとワーキンググループには21人のメンバーがいました。
さまざまな大学の教授、投資関連会社の取締役、マスコミの関係者などでオブザーバーとして消費者庁や厚生労働省、全国銀行協会なども加わっています。

そして去年9月から議論を重ね、高齢社会の資産作りについて、「現状を整理」し、「基本的な視点や考え方」をまとめ、「考えられる対応」を示していました。“2000万円”はこのうち「現状整理」のパートに登場します。

データは国の家計調査

「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は5万円となっている」
「30年で約2000万円の取り崩しが必要となる」
このデータ、元になっているのは2017年の総務省の「家計調査」でした。60代以上の支出は現役期と比べて、2割から3割程度減少しているが、収入も年金給付に移行するなどで減少している。

そこで計算してみると毎月の収入でまかなえない分は平均で月およそ5万円という計算になっています…というものでした。

“計算上では老後は資産を取り崩すような形になる”という調査はめずらしいものではなく、他の機関でも年金だけでは今の生活水準を維持できないという調査結果をまとめています。

課題を改めて提示

また「現状整理」のパートでは
▽平均寿命が延びて現在60歳の人の4人に1人が95歳まで生きるという試算があること
▽結婚後、夫婦と子供、親と同居し、持ち家を持ち、老後の親の世話は子供がみるというようなモデル世帯は空洞化してきていること
などをあげています。

つまり老後が長くなりお金がより必要なこと、経済的にも子どもが親をみるというスタイルは崩れてきたという内容でした。

これもとりたてて新しい報告というより、これまで言われてきた高齢社会への課題を改めて提示していたように感じました。

資産寿命

「基本的な視点や考え方」のパートに入ると、なにやら見慣れない言葉が出てきました。それが「資産寿命」という四文字。
資産寿命とは老後の生活を営むにあたって、築いてきた預貯金などの資産が尽きるまでの期間のこと。長く生きるためにはよりお金が必要となるため資産寿命を延ばすことが必要としています。

そのために
▽資産を「見える化」すること
▽各々の状況に応じて支出の再点検すること
▽高齢社会では認知・判断能力の低下は誰でも起こりえるので事前の備えが重要
といった考え方を提示しています。

提言は長期の資産運用

そして考えられる対応で提言しているのが「長期の資産形成・管理」です。

「現役期であれば、長期・積立・分散投資など少額でも資産形成の行動を」

「リタイヤ期前後であれば、長い人生を見据えた中長期的な資産運用の継続と計画的な取り崩しを」

また「高齢期では判断能力の低下などに備えて取引関係の簡素化などの準備を」など、自分で判断できにくくなることを想定した準備が必要とまとめています。

そして以下の文書がこの報告書の考え方をもっとも表しているように感じました。

資産運用には向き不向きもあるとしたうえで、
「老後の収入の重要な柱であり続ける公的年金については少子高齢化という社会構造上、その給付水準は今後調整されていく見込みである…」
「人生100年時代というかつてない高齢社会においてはこれまでの考え方から一歩、踏み出して、資産運用の可能性を国民一人一人が考えていくことが重要ではないだろうか」

若い世代が関心

読むと報告書は特別に新しい視点を示したものではないことがわかりました。

ただそれでもネット上に若い世代からの意見も多くあがっていて、関心の高さがうかがえました。

報告書に掲載されていた大手保険会社の調査でも「老後の不安」でもっとも多かったのは20代から50代では「お金」。将来に対する経済的な不安が多くの意見が集まった背景にあるようにみえます。

報告書は将来に備え早くから運用に関心を持って欲しいと訴えるものでした。しかし日々の生活さえ大変だと声をあげている世帯も少なくない中、2000万円の蓄えや、まして運用など考えられないというような意見も多くあがり、将来の不安への根深さも感じました。

そしてどうやって何を糧に長くなった老後を過ごしていくのか、意見の多さは多くの人がその展望が見えない現状を映し出しているようにも感じました。