外遊は、遊びではない

外遊は、遊びではない
外で遊ぶと書いて「外遊」。
政治家が外国訪問する際に、よく使われることばだ。
10連休となったことしの大型連休も、国会議員の海外出張が相次いだ。
議員たちは、海外で何をしているのか。
アメリカと中国を訪れた議員たちに同行した番記者、そこで見たのは…。
(政治部記者 根本幸太郎、関口裕也、谷井実穂子)

みんなが行かない所に

自民党の加藤勝信総務会長は、4月29日から5日間の日程で、アメリカを訪問した。
行き先は、南部ケンタッキー州と中西部イリノイ州。
閣僚らの訪問が少ない地域をあえて選んだ目的は、地方都市との関係強化だ。
安倍政権は、日米関係をより強固なものにするため、草の根交流に力を入れている。
地方とは言え、イリノイ州の名目GDPは、サウジアラビアを上回り、ケンタッキー州はニュージーランドに匹敵する。
加藤氏は、「ワシントンだけで、政治が動いているわけではない。日本としてのネットワークづくりに貢献したい」と述べ、意義を強調した。

政治家どうしで関係強化

会談したイリノイ州知事は、「加藤氏を歓迎できたことをうれしく思う」とツイート。
ケンタッキー州知事は、加藤氏を、州議会議事堂や、ふだんは非公開の知事執務室に案内。
さらにその夜、知事は加藤氏の宿泊先をサプライズ訪問。
2人は握手を交わし、関係を強化していくことを確認した。
地元の総領事館の職員は、「選挙で選ばれた政治家どうしのほうが、やはり馬が合う。外交の舞台は何かが起きてから動き出すのでは遅く、ふだんから、顔と顔を突き合わせてできる信頼関係が何よりも大事だ」と解説する。

貿易交渉を側面支援

加藤氏の訪米には、日米の貿易交渉を側面支援する狙いもあった。

トランプ大統領は、日本から来る自動車が、アメリカの多額の貿易赤字の原因の1つになっているとして不満を示し、貿易交渉では自動車の扱いも焦点となっている。

このため加藤氏は、およそ9000人の雇用を創出しているケンタッキー州のトヨタ自動車の工場を視察した。
工場で働く従業員の負担を軽減するためのアシストスーツを試着。加藤氏は、「長時間、作業しても、体にかかる負担が少ないので、日本の農作業でも活用できる」と感心していた。
そして知事との会談で、「工場は世界最大規模だ」とアピールした。
ケンタッキー州知事は、トランプ政権の幹部とパイプがあるとの情報を得ていたからだ。知事は、ペンス副大統領がインディアナ州知事だった頃からの旧知の仲。トランプ大統領とも、直接、電話でやり取りする間柄だという。

加藤氏はその後の講演でも、「日本企業がアメリカ経済に大きく貢献している」と訴え続けた。

成果はいかに

今回の訪米にかかった費用は、主に自民党が負担。
自由時間は、ケンタッキー州でフライドチキンを食べた15分と、ショッピングモールでお土産を買った15分だけで、分刻みのスケジュールだった。
加藤氏は、議員外交の必要性について、帰国後、次のように語った。
「今回、地元の州知事と意見交換できたのは、大変、得難い経験だったと思っている。政府の外交だと、公式的な立場などがあるが、われわれの場合、もう少し踏み込んだ形で、『公式的にはこうだが、個人的にはこう思う』とか、そういう意見交換もできる」
「政治家どうし、つながるものがあるんですね。アメリカだけでなく、ほかの地域を含め、政府の間でいろいろなことがあっても、次の時代に乗り越えて行くために、共通の基盤の中で、忌憚(きたん)のない意見交換を重ねていくことはすごく大事だ」

進次郎、外交の舞台へ

自民党の小泉進次郎氏は、同僚の若手議員とともに、5月1日から6日間の日程で、アメリカの首都ワシントンを訪問した。

連日、早朝から上院議員や政府関係者、シンクタンクの専門家らと会談。参加議員全員が英語を話せるため、通訳は雇わずに今後の日米同盟のありかたなどについて意見交換した。

かかった費用は、明らかになっていないが、議員事務所などが負担。

小泉氏はこれまで、積極的に外交の舞台に立つことは控えてきた。まずは国内の課題に集中したいという思いがあったからだという。しかし衆議院議員になって、まもなく10年。震災復興や地方創生、農業、社会保障などの課題に取り組み、一定のキャリアを積んだとして、外交に打って出ることにしたのだ。
アメリカは小泉氏にとって、政治家になる前に過ごした思い入れの強い国でもあった。
国内では高い知名度と発信力で注目を集める小泉氏。外交でも存在感を示したいという思いがあったようだ。

古巣での講演

ハイライトは、かつて小泉氏が研究員として在籍していたシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所での講演だった。
「日本の新進気鋭の政治リーダーによる新たな展望」と題された講演会に、およそ200人が集まった。

「好むと好まざると、日本は変わらなければならない。国際社会に対する関与を深め、より重要な役割を果たすべきだ」
小泉氏は、日米同盟を基軸に、アメリカなどとの協力強化を目指す方針を示した。
父親である小泉純一郎元総理大臣が、ブッシュ元大統領と日米関係を強化したことや、エルビス・プレスリーが好きだったことなどを紹介しながら、じょう舌に語った。

また小泉氏は、日本の少子高齢化社会の現状を説明し、社会保障や雇用制度などの改革に取り組む考えも示した。
「日本はニューフロンティアに足を踏み入れんとしている。人口減少と人生100年という時代に、日本が将来にわたって発展できるよう、22世紀を見据え、変革し続ける」

得たものは

小泉氏は、講演の準備を入念に行ったが、講演中には珍しく緊張もしたという。

講演の終盤、次のように、変革への意欲を強調した。
「ケネディ元大統領のように、私は日本国民の力を引き出し、日本の未来に必要なすべての改革を実行し、そのために、全力を尽くす覚悟だ」

小泉氏は、総理大臣を目指す決意表明ではないと否定するが、講演のテーマは、外交から内政まで幅広く、さながら政権構想を聞いているようだった。

講演を終えた小泉氏に、CSISのかつての上司は、「シンジロー、ホームランを打ったな」と声をかけた。
今回のワシントン訪問で何を得たのか、小泉氏は次のように振り返った。
「英語で30分を超えるスピーチは、日頃多くの場で話をする私にとっても緊張の時間だったが、準備を含め自分に負荷をかけることで、鍛える機会になった。日本に対して前向きな見方をしてくれる人が増えるよう、発信の機会を増やさないといけない」

小泉氏の政治家人生の中で、今回の講演は、節目の1つになるかもしれない。

7分の重み

一方、自民党の二階俊博幹事長は4月24日から6日間の日程で中国を訪問した。

訪中団は、議員8人と副大臣1人、それに経済団体の幹部など、合わせておよそ30人。
かかった費用は、明らかになっていないが、議員と党職員の分は主に党から出されたという。
目的は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際フォーラムに出席するためだが、二階氏は、この機会を生かし、習近平国家主席との会談を実現させた。
二階氏は、習主席に安倍総理大臣の親書を手渡し、G20大阪サミットにあわせて日本を訪問するという確約を取り付けた。

その会談、15分間の予定だったが、22分に延びた。
たった7分の延長だが、関係者は「会うことすら難しい習主席との会談が実現し、時間が延びたのは、二階氏だからこそで、厚遇されている表れだ」と話す。
そもそも中国要人との会談日程はなかなか決まらないというのが日本の政界では常識になっているが、今回は日本をたつ前に会談がすでにセットされていただけでなく、その時間帯まで固まっていた。
他党の議員からも「通常ではありえないことだ」と驚きの声が出た。

カツオ外交

要人との会談ばかりではない。

今回は、高知、滋賀、山梨の県知事も同行。それぞれ地元の特産品などをPRするイベントを開催。
日本大使公邸を会場として使い、中国のメディアや旅行会社、飲食業界などおよそ130人が集まった。
SNSで影響力を持つ「インフルエンサー」と呼ばれる人たちも招待。
日本の特産品を食べる様子をスマートフォンで中継する様子が見られた。

以前ロシアを訪れた際、マグロの解体ショーを企画した二階氏は、今回、高知県のカツオを生かした。
束にしたわらに火をつけて表面をあぶる「かつおのたたき」を披露され、激しく燃え上がる炎とかつおの味は現地の人たちの心をつかんだようだ。
しかし、二階氏は最後に関係者にくぎを刺すことも忘れなかった。
「『日中友好』て言うて、熱心に叫ぶ人が多いことは事実ですけど、そんなこと叫んでるだけではしょうがないんですよ。現地の皆さんに、日本の食品を食べてもらって、あるいは見てもらって、理解してもらうという努力が、日本側に足りないのではないか。あとは関係者の努力を待つのみです」

首脳級の待遇

大使館関係者は、「二階幹事長は首脳級の待遇だ」と話す。
まずは警護。二階氏には、日本では常に1人のSPがついているが、上海を訪れた際は、中国側が複数の警護官を用意。写真で、左側に写っている2人がそうだ。
二階氏が移動する車にも同乗する徹底ぶりだった。

さらに、上海で二階氏が移動した際の車列は10台以上。写真前方に見える白い車に二階氏が乗っている。
一方、北京で、政府要人と会う際は、日本国旗を掲げた黒塗りの車が用意されていた。
中国と独自の人脈を持つ二階氏。
同行した記者団に対し、訪中の成果を次のように振り返った。
「友好の目的を果たすことができた。満足する旅だった」

同行記者、という存在

ここで同行記者の姿も少し紹介したい。
外国訪問には、複数の社の記者が同行することが多く、小型バスやワゴン車で一緒に移動する。
会談やイベントを次々取材するため、基本的に記事は移動中の車内で書く。
車酔いをしやすい人にとってはつらいものだ。

厳しいセキュリティーチェックにさらされることもしばしばある。
今回、同行記者団が宿泊したホテルには、二階氏をはじめ各国要人が宿泊していたため、出入りのたびに、荷物検査を受け、金属探知機を通った。
パスを持っていないと、会場にすら入ることができないことも多い。
今回、二階氏が出席した一帯一路のフォーラムには、こうしたパスが必要だった。

友好議連 “とにかく顔を合わせる”

別の国会議員の一行も、5月4日から3日間の日程で、大型連休中に北京を訪れていた。
超党派の「日中友好議員連盟」だ。
与野党の国会議員およそ250人が所属し、数ある議員連盟の中でも最大規模。
伝統ある議員連盟で、ほぼ毎年、大型連休に訪中している。
今回は、会長を務める自民党の林芳正前文部科学大臣や、立憲民主党の会派に所属する岡田克也元外務大臣、公明党の北側一雄副代表ら、与野党の国会議員14人が参加した。
費用は、2泊3日で議員1人当たり40万円余り。それぞれの事務所などが支払っている。
大型連休で値上がりした航空券の費用が大半を占め、宿泊代は中国側が負担したそうだ。
決して安くない費用を議員みずから負担して、中国を訪れる意義は何なのか。訪問に先立って、林氏に聞いてみると、意外にもこんな答えが返ってきた。
「これという目的があるんじゃなくて、とにかく毎年、みんなで中国に行って顔を合わせることが大事なんですよ」

日中関係を下支え

実際に同行してみると、発言の意味が分かってきた。
議員連盟は、中国共産党の最高指導部の1人と会談。
共産党の序列4位で国政の助言機関である政治協商会議の汪洋主席だ。
汪氏は会談の冒頭、「両国の関係が非常に困難な時期も、絶えることなく代表団を派遣し、友好関係を推し進めるために努力されたことを心より称賛したい」と評価した。
尖閣諸島をめぐる関係などで日中関係が冷え込んだ時期も、中国訪問を継続することで、関係改善を促してきた議員連盟。日中関係のさらなる発展につなげたい考えだ。

北朝鮮情勢めぐるやり取りも

非公開で行われた次期駐日大使の孔鉉佑外務次官との会談では、北朝鮮問題に多くの時間が割かれたという。
孔氏は、北朝鮮による飛しょう体の発射について、「北朝鮮は焦燥感に駆られているのではないか」として、発射はアメリカに対する揺さぶりだという見方を示した。
また中国としても、安倍総理大臣が意欲を示す日朝首脳会談の実現に向けて協力する考えを伝えたという。

会談後、議員の1人は、「かなり突っ込んだ話ができた。同席した外務省の職員がすぐに総理大臣官邸に報告するんじゃないか」と興奮した様子だった。

与野党議員が「部屋飲み」

訪問中、議員団の自由時間はほとんどなかった。
見ていたかぎり、到着後、要人との夕食会に参加するまでのおよそ2時間だけ。その間も、多くの議員が、地元の支援者へのお土産選びなどに奔走していた。

一方、中国滞在中は、ふだん、国会で激しい論戦を交わす与野党の議員たちも、終始、和気あいあいとした雰囲気だった。夕食会後には、林氏のホテルの部屋に議員たちが集まり、いわゆる「部屋飲み」をして、さまざまな「裏話」に花を咲かせたようだ。

議員たちにとっては、党派を超えて交流し、英気を養う効果もあったのかもしれない。

先につながる外遊を

各議員、「外遊」と言っても、もちろん遊んでいたわけではない。それぞれに目的と成果もある。
議員外交には、政府に代わって機動的に動くことや、将来を見据えて人脈作りを行うことなどが求められているように感じた。

そのためには継続も大事だ。先につながる中身の濃い「外遊」を期待したい。