日イラン外相会談 イランに核合意履行など自制求める

中東のイラン情勢が緊迫する中、イランのザリーフ外相が急きょ来日して河野外務大臣と会談し、河野大臣は、情勢がこれ以上、エスカレートしないよう、イランに核合意の履行など自制を求めました。
イラン情勢をめぐって、アメリカは原子力空母と爆撃機の部隊を中東地域に派遣するなどけん制を強める一方、イランは対抗措置として、核合意の一部の義務に従わないことを表明するなど、緊張が高まっています。

こうした中、イランのザリーフ外相が15日夜、急きょ来日し、16日午前8時からおよそ1時間、河野外務大臣と会談しました。

この中で、河野大臣は「われわれは中東の状況に深刻な懸念を持っており、日本も緊張の緩和に向けて努力を惜しまない。中東の安定にはイランが引き続き核合意を履行することが必要で、これ以上緊張関係が高まらないよう、自制を求めたい」と述べました。

これに対し、ザリーフ外相は「アメリカが緊張を高めていることは受け入れられない。アメリカへの対抗措置は、核合意の範囲を超えるものではなく、合意の中でみずからの権利を行使するものだ。緊張の高まりを防ぐため、日本と一緒に取り組みたい」と説明し、対抗措置への理解を求めました。

そして両外相は、最新の情勢や核合意をめぐって意見を交わし、両国の伝統的な友好関係を基礎に引き続き協力していくことを確認しました。

イラン外相「緊張高めるようなことしない」

イランのザリーフ外相は、河野外務大臣との会談のあと、記者団に対して「現在の中東地域の緊張した状況について議論するよい機会だった」としたうえで、「この地域における緊張は誰の利益にもならないし、イランから緊張を高めるようなことはしないが、われわれの安全が脅かされれば自衛し対応する。さらなる緊張の高まりをどう防ぐのか、国際社会が核合意の枠組みをどう守っていくのか、意見を交わした」と述べました。

また、ザリーフ外相は、「イランにとって日本は主要な経済パートナーだ。日本企業がイランとのビジネスを維持することで、日本には前向きな役割を果たしてほしい」と述べ、アメリカによる経済制裁が強化される中でも、日本との経済関係が維持されることに期待を示しました。

首相「引き続き情勢を注視」

安倍総理大臣は、衆議院本会議で、「日本のエネルギー供給の生命線ともいうべきホルムズ海峡の周辺でこのような事態が進行していることを懸念している。中東の平和と安定はグローバル経済、世界情勢にとって重要で、エネルギーを依存する日本にとって死活的に重要な地域であり、引き続き情勢を注視していく」と述べました。

一方、安倍総理大臣は、情勢が悪化して、ホルムズ海峡が封鎖される事態になった場合に、安全保障関連法に基づいて自衛隊を派遣するのか、問われたのに対し、「現時点でホルムズ海峡の情勢に対応して自衛隊を出動させることは考えていない」と述べました。

情勢緊張 最近の経緯

アメリカがイラン核合意からの一方的な離脱を発表したのは去年5月のことです。

これ以降、トランプ政権はイランへの圧力を強めていました。急速に緊張が高まったのは今月に入ってからです。

2日、アメリカは日本など8つの国と地域に対して、イラン産原油の輸入を一時的に認めてきた措置を打ち切り、イランに対する制裁を強化しました。

続いて5日には原子力空母と爆撃機の部隊を中東地域に派遣すると明らかにしたほか、迎撃ミサイルの部隊の展開も決めました。その理由として「イランがアメリカ軍を攻撃するための準備を進めているとの兆候が強まった」と主張していますが、イラン側はこれを否定しています。

一方、トランプ政権が核合意から離脱して1年となった8日、イランのロウハニ大統領はトランプ政権への対抗措置として濃縮ウランなどの国外への搬出を取りやめることなどを表明しました。

さらに核合意に参加したヨーロッパ各国などとの交渉が60日以内に進展しなければ、高濃度の濃縮ウランの製造など本格的な核開発を再開させると発表しました。

これに対してアメリカのトランプ大統領は、イランに対して鉄鋼やアルミニウムなどの分野で新たな制裁を科すと明らかにしました。

そして13日、今度はイランと対立し、アメリカと同盟関係にあるサウジアラビアが、「タンカーがUAE=アラブ首長国連邦沖で妨害行為を受けて損傷した」と発表しました。

サウジアラビアは特定の国を名指ししませんでしたが、複数のアメリカメディアは政府の初期段階の分析結果としてイランかその影響下にある武装勢力が関与した可能性があると伝えました。

ただ、これについてもイランは関与を否定しています。同じく14日には、サウジアラビアが、国内の原油パイプラインが無人機による攻撃を受けたと発表し、その後、イランが支援するイエメンの反政府勢力、フーシ派が「攻撃が成功した」と主張する声明を出しています。

この日、イランの最高指導者ハメネイ師はツイッターに「われわれは戦争を求めていないし、それはアメリカも同じはずだ」と投稿しました。

イラン外相 なぜ急きょ訪日

会談前日に急きょ発表されたザリーフ外相の訪日の背景には急速に「イラン包囲網」を強化させるアメリカに対し、日本を含む国際社会との連携を深めることで事態打開の糸口を探りたいねらいがあるものとみられます。

特に日本は、イランの伝統的な友好国であることに加えて、安倍総理大臣はイランへの強硬姿勢を続けるトランプ大統領とも良好な関係にあり、互いに国交がない両国とやり取りができる国です。

さらに来月にはG20サミットが日本で開かれることから、イランとしては、アメリカとの衝突を回避するために、アメリカとの意思疎通に日本に一役買ってもらいたいという意図もうかがえます。

また、ザリーフ外相は対イラン強硬派で知られるアメリカのボルトン大統領補佐官やイスラエルのネタニヤフ首相、それにサウジアラビアのムハンマド皇太子などを、いずれも名前にアルファベットのBが含まれていることから「Bチーム」と呼んで、イランの体制転換をねらった軍事衝突を引き起こそうとしていると批判しています。

このためザリーフ外相は、核合意を一貫して支持している日本のほか、ロシアやインドなど、イランへの理解が得られそうな国を相次いで訪問していて、緊張緩和に向けた外交を進めています。

緊張が高まったきっかけは

アメリカとイランとの間で緊張が高まった直接的なきっかけは、今月5日、トランプ政権が地中海に展開していた原子力空母「エイブラハム・リンカーン」などを中東地域に派遣すると突然、明らかにしたことです。

派遣の理由について国防総省は「イランがアメリカ軍や国益に対して攻撃を準備している兆候がある」と説明してイランからの脅威が背景にあるとしていますが、具体的にどのような脅威なのかは明らかにしていません。

これに対し、イラン側は「でっちあげの情報だ。イラク侵攻に導いたのと同じ人たちによってつくりあげられたものだ」として大量破壊兵器があるという誤った情報に基づいて踏み切ったイラク戦争を引き合いに出して、アメリカを非難しています。

また、トランプ政権は空母の派遣に先立って今月初め、イランの生命線とされる原油の全面禁輸につながる制裁強化に乗り出していました。

これに対し、イランはアメリカが核合意から一方的に離脱してから1年となる8日に合わせて核合意の一部の義務に従わないことを表明。

これを受けてトランプ大統領は同じ8日、イランに対して鉄鋼やアルミニウムなどの分野で新たな制裁を科すと明らかにし、緊張が高まります。

その後、アメリカの同盟国サウジアラビアなどのタンカーがホルムズ海峡の近くの海域で何らかの妨害行為を受けたほか、サウジアラビアの原油パイプラインが無人機による攻撃を受けたともされ、いずれもイランによる何らかの関与が取り沙汰されています。

トランプ政権はイラン側からアメリカや同盟国が攻撃を受けた場合、対抗措置をとるとしていて、トランプ政権の出方に注目が集まっています。

トランプ政権の対イラン政策

トランプ大統領は一貫してイランへの強硬姿勢をとっています。

これは核合意を結ぶことでイランとの関係改善に取り組んだオバマ前政権とは対照的とも言える政策です。

就任直後から中東でイランと敵対するイスラエルやサウジアラビアとの同盟関係を強化し、イランへの対決姿勢を打ち出します。

そして、去年、対イラン強硬派で知られるポンペイオ国務長官と安全保障問題を担当するボルトン大統領補佐官を起用して以降、トランプ政権はイランへの強硬路線を加速させます。

去年5月には国際社会の反対を押し切る形でイラン核合意からの離脱を表明し、オバマ前政権からの方針転換を鮮明にします。

その後、ポンペイオ長官は、ウラン濃縮の停止を含むすべての核開発を永久に放棄することやシリアからの撤退、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどへの支援の打ち切りなど、イランに対して12の要求を突きつける新たな対イラン戦略を発表しました。

去年11月には核合意からの離脱にともない「史上最強の制裁を科す」としてイラン経済の生命線とも言える原油の輸入を禁止することで、イランに打撃を与える制裁を発動させましたが日本や中国など8つの国と地域は適用から外し、輸入を認める措置をとりました。

しかし、今月にはその除外措置も打ち切り、制裁を一段と強化しています。

また、先月にはイランの最高指導者に直属する精鋭部隊「革命防衛隊」をテロ組織に指定し、圧力を強め続けています。

その一方でトランプ大統領は今月、「イランがやるべきことは私に電話をかけて話し合うことだ」と述べるなどイランの指導者に対して対話の席につくよう促しています。

トランプ政権は強硬なイラン政策の目的についてイスラム体制の転換ではなく、あくまでミサイル開発やテロ活動、それに市民への人権侵害などをやめさせることで「行動を改め、普通の国家になること」としています。

ただ、専門家などからはトランプ政権の目的は反米路線を堅持する体制の転換にあるという指摘が根強くあります。

来年に大統領選挙を控えるトランプ大統領としては保守層にアピールする必要があることから、イランに対して、一層強硬な態度に出て、両国の関係がさらに緊張するという見方も出ています。

アメリカ 軍事行動の可能性は

アメリカがイランに対する軍事行動に踏み切る可能性はあるのでしょうか。アメリカの専門家の間では、イランとの本格的な戦争につながるおそれのある軍事攻撃の可能性は極めて低いという見方が一般的です。

その理由としてアメリカ国内でもトランプ政権が強調する脅威がどこまで差し迫っているのか疑問だという意見があることに加え、軍事的、政治的なリスクが高いという指摘が出ています。

仮にアメリカが軍事攻撃に踏み切れば、高い軍事力を保有するイランからの反撃や報復が予想されるうえ、国際関係上もイランと協力関係にあるロシアやイランと結び付きの強いトルコなどの反発は避けられず、中東のみならず世界情勢が一気に悪化することは間違いありません。

また、トランプ大統領はアメリカ軍の中東への関与を減らす考えを繰り返し示しており、アフガニスタンやシリアからの撤退も進まないなか、新たな軍事作戦の着手は容易ではないとみられています。

一方でアメリカがイランの影響下にある武装勢力などに対して限定的な攻撃を加える可能性は排除できないという見方も出ています。

トランプ政権はイランが武装勢力への支援を通じて中東各地で影響力を拡大させることを懸念していて、いずれもイランの支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラやイエメンの反政府勢力「フーシ派」への警戒を強めています。

ホワイトハウスでは対イラン強硬派で知られるボルトン大統領補佐官が、厳しい対応を意見具申する可能性も指摘され、トランプ大統領としても外交面の成果としてきた北朝鮮との非核化協議が行き詰まる中、強硬姿勢をみせれば保守層へのアピールにもつながります。

トランプ政権はイランの脅威を強調して政治、経済、軍事のあらゆる面で圧力を強めていて、偶発的な衝突が起きる事への懸念も高まっています。

専門家は

イラン情勢に詳しい、ワシントンのシンクタンク、「軍備管理協会」のケルシー・ダベンポート氏が15日、NHKのインタビューに応じ、トランプ政権が中東でイランによる脅威が差し迫っていると主張していることについて「自分たちの軍事行動を正当化するために中東地域での低いレベルでのイランの活動を誇張している可能性もある」と指摘しました。

また、トランプ大統領がイランに対し圧力を強める理由について「イランを交渉のテーブルにつかせることができると考えているのかもしれない。交渉の達人を自認するトランプ大統領は北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長やロシアのプーチン大統領など各国の首脳との会談をショーとして明らかに楽しんでいる」と述べ、イラン核合意にかわる新たな合意を結ぶため、イラン指導部との対話を目指しているとの見方を示しました。

そして、「トランプ政権は核合意から離脱したことでイランの信用を失っており、イランが交渉に応じる理由はない」と述べ、トランプ大統領の思惑どおりに対話が実現する可能性は低いという認識を示しました。

その一方でダベンポート氏は、トランプ大統領自身はイランへの軍事攻撃に積極的ではなく、現時点でアメリカが軍事攻撃に踏み切る可能性も低いという見方を示しました。

ただ、政権中枢にはボルトン大統領補佐官など対イラン強硬派がおり、アメリカ軍や同盟国がイランから攻撃を受けた場合には、「トランプ大統領が自分の意に反して軍事行動をとらざるをえないと感じるかもしれない」と指摘しました。

そのうえでダベンポート氏は、「トランプ政権内にはイランはアメリカから軍事攻撃を受けても反撃しないという期待があるのかもしれないが、イランの体制内に根強く広がる反米感情を考えれば、それは非常に危険な思い込みだ」と警鐘を鳴らしました。

そして、アメリカ軍が駐留するイラクやシリアでは、イランが支援する武装勢力も活動しており、アメリカが軍事攻撃に踏み切ればこうした武装勢力との衝突も起きるリスクが高まるほか、イランが原油の主要な輸送路であるホルムズ海峡の封鎖に踏み切れば、大きな混乱に陥るおそれがあると指摘しました。

米紙“トランプ大統領 意見の食い違い”

アメリカの有力紙ワシントン・ポストは15日、トランプ大統領がイランへの対応をめぐってホワイトハウスで安全保障政策を担当するボルトン大統領補佐官らと意見が食い違い、不満を抱えていると伝えました。

ワシントン・ポストがトランプ政権の当局者の話として伝えたところによりますと、トランプ大統領自身は外交的なアプローチによってイランとの緊張を解消し、イランの指導者と直接、対話することを望んでいるということです。

それにもかかわらず、先週、軍事行動に向かうような計画がボルトン氏らによって勝手に進められているとトランプ大統領は感じ、憤ったとしています。

一方、トランプ大統領は15日、ツイッターで「フェイクニュースのワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズは、私の中東政策をめぐり内部抗争が起きていると書いているが、そんなことはない」と批判しました。

そして、「異なる意見が出ても、最終的に決定するのは私だ。非常に簡単なプロセスだ」と述べたうえで、「イランは近く対話を望むはずだ」と書き込み、イランがアメリカとの対話に応じることに改めて期待を示しました。