夫から逃げられない…DVの影に子どもへの虐待

夫から逃げられない…DVの影に子どもへの虐待
暴力をふるう夫から逃げ出さなかったら、子どもが同じようになっていたかもしれない…。千葉県野田市で小学4年生の女の子が虐待を受けた末に亡くなった事件に自分と子どもの姿を重ね合わせる女性たちがいます。(さいたま放送局記者 浜平夏子)

ひとつ屋根の下でDVと虐待

子どもの前で殴る蹴る、首を絞める。泣く子どもを激しく揺さぶる。30代の女性が、ひとつ屋根の下で同時に起きていた夫によるDVと虐待について語り出しました。
交際中は優しかった夫が結婚するとささいなことから暴力をふるうようになり、女性は「子どもができたら変わってくれるかもしれない」と希望を持って耐えてきたといいます。
しかし、念願の子どもが産まれると、暴力はやむどころか子どもにも向かうようになったのです。

産まれてまもない子どもを激しく揺さぶって泣き止ませようとする夫の姿を目の当たりにした女性は、ことばにできないほどの恐怖を覚え、初めて夫の暴力について専門機関に相談しました。

逃げることへの葛藤

しかし、暴力をふるう夫から逃げ出すことができませんでした。

それは経済的な理由が大きかったといいます。結婚前から続けていた仕事は、夫に促されて退職していたため女性自身の収入はなく、夫から逃げ出せたとしても小さな子どもを抱えながら生活していけるのか不安でした。
女性は「子どもを守るために逃げ出したい」という思いと、「子どもがいるから逃げられない」という相反する思いの間で葛藤したといいます。

専門機関からの支援を受けて子どもとともに夫のもとから逃げて暮らしていますが、いつ夫が目の前に現れるか、おびえて暮らしている女性。
小学4年生の女の子が虐待を受けた末に亡くなった事件で逮捕・起訴された母親に自分の姿を重ねていました。
「彼女は私だ…。夫から逃げ出せていなかったから子どもに向かう暴力を止められず、同じことになっていたかもしれない」

家庭内であらゆる方向に向かう暴力

20年にわたりDVを受けた女性を支援してきた精神科医の加茂登志子医師は、DVがある家庭では、表裏一体で子どもへの虐待も発生しているといいます。

加茂医師が行った調査では、母親がDVを受けていたという子ども、60人余りのうち半数が子ども自身が身体的な虐待を受けていました。
加茂医師は「力が強い側の暴力が、弱い立場にあるあらゆる方向に向きうるのが家庭内暴力の特徴。家族という小さな枠組みの中でDVの加害者と被害者、そして子どもだけという状態でいると何が正しくて正しくないことなのか、また自分がどのように行動することがよいことなのかもわからなくなる」と家庭という閉ざされた空間での暴力によって正常な判断ができなくなる恐ろしさを指摘しています。

DV夫のもとへ戻る女性たち

自治体のDV相談窓口の相談員を長年務めてきた遠藤良子さんは、女性たちが暴力をふるう夫のもとからただ逃げるだけでは根本的な解決につながらないと感じてきました。

せっかく勇気を振り絞って暴力をふるう夫のもとから逃げ出したのに、その後の生活で“経済的な不安”や“孤独”を感じて結局、加害者のもとへに戻ってしまう女性たちの姿を何度も見てきたのです。
そこで遠藤さんは、女性たちの“真の自立”の支援をしたいと、4年前にNPO法人を設立しました。

真の自立とは

NPOでは、着の身着のままで暴力から逃れてきた女性たちにまず、アパートなどの住まいを確保し、必要があれば生活保護などの行政の支援につなげ、経済的にも安定させます。
さらに、NPOの交流スペースを使い、月1回、同じ状況にある女性たちが集まって食事をする機会を作っています。

NPOの遠藤さんは、人とのつながりを持ち、気力を回復することが、新たな生活を送るためにはとても大切なことだと考えているのです。
4月に開かれた食事会に参加したのは子連れの母親など9人でした。同じ境遇だからこその気兼ねのない会話がはずみ、仕事や子育ての情報交換の場となっていて、参加した2人の子どもの30代の母親は「今はこの環境があるから自分も明るく心も健康に、子育てを楽しめています」と話していました。

こうした人とのつながりを持ち、経済的にも精神的にも安定することで、およそ40人の女性たちが、DVのない新しい生活をスタートすることができました。
女性たちを支援する遠藤さんは「女性たちが暴力から身を隠すだけではなく、“人生をやり直す”という自信が持てるように支援していくことが本当の意味で暴力から逃れたことにつながる。そのために支援を続けたい」と話していました。

対岸の火事ではない わたしにできること

DVの被害者は精神的に追い詰められ、正常な判断ができなくなり本人がDVを受けていることに気付いていない場合があります。
こうした場合、周囲が気付いて専門機関の支援につなげることが大切です。

専門家によりますと、DVの兆候は小さなところから感じ取ることができるといいます。

例えば「夫がだめだというから友人と会えない」などパートナーが交友関係や行動の範囲を制限している様子がある、理不尽なことばなどに対して、自分自身を責めている様子が見えるなどがあげられます。

そうしたことが見られた場合は「どうしたの?」と声をかけ話の内容を否定せずに最後まで聞き、状況によっては専門の相談窓口などに一緒に行ってあげたり、子どもを預かって相談に行く時間を作ってあげたりするなどの手助けの方法があります。

DVで悩む女性たちの後ろに、虐待にさらされている子どもがいるかもしれない。“DV”と“虐待”は密接に絡み合う問題として苦しむ被害者への支援が求められます。
さいたま放送局記者
浜平夏子