キム委員長 あすにもロシア訪問 初の首脳会談へ

キム委員長 あすにもロシア訪問 初の首脳会談へ
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長は、24日にも列車でロシア極東のウラジオストクを訪問し、プーチン大統領との初めての首脳会談に臨むとみられます。現地ではキム委員長が乗るとみられる車の車列が確認されるなど準備が大詰めを迎えています。
北朝鮮の国営メディアは23日朝、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が近くロシアを訪問すると伝え、キム委員長は24日にも列車で極東のウラジオストクに入り、25日にはプーチン大統領との初めての首脳会談に臨むとみられます。

これを前に、23日午前、北朝鮮から国営コリョ(高麗)航空の輸送機と旅客機1機ずつが相次いでウラジオストクの空港に到着し、首脳会談に関わる人員や物資を運んだものとみられます。

また、現地でキム委員長が乗るとみられる黒塗りでナンバープレートのない車などの車列がパトカーに先導されて首脳会談が開催されるとみられる会場に向かう様子が確認されるなど、準備が大詰めを迎えています。

首脳会談では、北朝鮮の非核化の問題や経済協力などが主なテーマになる見通しです。

キム委員長は、2回目の米朝首脳会談が物別れに終わり、完全な非核化まで制裁を解除しないとするアメリカの要求は一方的だとして不満を募らせています。

アメリカとの協議の後ろ盾となる中国とこれまで4回、首脳会談を行ってきましたが、中国と同じく制裁の緩和に理解を示しているロシアとも関係を強化することで、みずからの正当性をアピールし、アメリカをけん制するねらいがありそうです。

一方、プーチン大統領としては、北朝鮮の非核化をめぐる議論でロシアの影響力を強めたい思惑があるとみられます。

キム委員長 ロシア訪問のねらい

キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長としては、2回目の米朝首脳会談が物別れに終わり、アメリカへの不満を募らせる中、ロシアを訪問することで、みずからの後ろ盾を強化するねらいがありそうです。

ロシアは、中国とともに非核化の進展に応じて制裁の解除を検討するべきだという立場です。

このため、中国だけでなく、ロシアの後押しも受けて、完全な非核化まで制裁を解除しないとするアメリカをけん制し、制裁解除に向けたみずからの主張を正当化するとみられます。

また、経済の立て直しにつなげるためにも、ロシアとの経済的な結び付きを強めようという思惑もありそうです。

ロシアは、天然ガスを、北朝鮮を通じて韓国に輸送したり、ロシアと朝鮮半島を鉄道で結んだりする構想を練っていて、首脳会談では北朝鮮への経済支援についても協議する見通しです。

さらに、ことしはキム委員長の祖父、キム・イルソン(金日成)主席が最高指導者として旧ソビエトを初めて訪問してから70年の節目にあたり、伝統的な友好関係を確認する目的もあるとみられます。

プーチン大統領のねらい

ロシアのプーチン大統領は、北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長との初の首脳会談の機会を探ってきました。

去年5月にはロシアのラブロフ外相が、9月には議会上院のマトビエンコ議長が北朝鮮を訪れてプーチン大統領からの親書をキム委員長に手渡し、ロシアに招待しています。

プーチン大統領がキム委員長との会談に意欲を示してきたのは、ロシアとしても朝鮮半島情勢の安定を強く望んでいるためです。

北朝鮮と国境を接するロシアにとって、朝鮮半島の安定は、安全保障上きわめて重要です。

また、朝鮮半島を安定させることで、北東アジアでミサイル防衛を展開しているアメリカ軍の影響力をそぎたいねらいもあります。

さらに、ベトナムで行われた2回目の米朝首脳会談が物別れに終わり、北朝鮮がロシアに接近する動きを見せていることを好機ととらえ、伝統的な友好国である北朝鮮の後ろ盾としての存在感を国際社会に示そうという思惑もあるとみられます。

プーチン大統領は、キム委員長との首脳会談で、制裁の緩和や経済協力を取り上げて北朝鮮を後押しする姿勢を示しながら、非核化の議論にロシアも積極的に関わる環境を整え、朝鮮半島情勢をめぐるロシアの関与を強めたい思惑もあるとみられます。

キム委員長の外国訪問

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は、2012年に名実ともに最高指導者に就任してからおよそ6年にわたり、外国を訪問したことはありませんでしたが、去年からは、積極的な外交活動を繰り広げています。

最高指導者として、初めての訪問先に選んだのは、中国・北京で、去年3月に、習近平国家主席と会談し、核・ミサイル開発をめぐって冷え込んでいた中国との関係改善に乗り出しました。

そのおよそ1か月後には、北朝鮮の最高指導者として初めて軍事境界線を越えて韓国を訪問し、ムン・ジェイン(文在寅)大統領と10年半ぶりとなる南北首脳会談に臨みました。

そして、去年6月、シンガポールで、アメリカのトランプ大統領と史上初めての米朝首脳会談を行い、朝鮮半島の完全な非核化や北朝鮮の体制の保証を目指すなどとした共同声明に署名をしました。

ことしに入ると、すぐに中国の北京を訪れました。

キム委員長の中国訪問はこれで4回目で、異例の頻度で習主席との会談を重ね、アメリカとの交渉を見据え、後ろ盾となる中国との関係を強化しました。

そして、2月には、アメリカとの2回目の首脳会談に臨むため、ベトナムのハノイを訪問しましたが、北朝鮮の非核化とその見返りをめぐって双方が主張を譲らず合意文書の署名には至りませんでした。

また、首脳会談のあとには、ベトナムでの公式訪問の日程をこなし、ベトナムの最高指導者、グエン・フー・チョン書記長との会談などを行い、伝統的な友好関係を確認しました。

北朝鮮最高指導者 過去のロシア訪問

キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の祖父、キム・イルソン主席は、北朝鮮建国の翌年、1949年に旧ソビエトを最高指導者として初めて訪問しました。

翌年にも、朝鮮戦争が勃発する直前に再び旧ソビエトを訪れ、韓国侵攻に向けた協議を行いました。

また、1961年の訪問では、北朝鮮が外国から攻撃された場合、旧ソビエトから軍事的な支援を受けることが明記された条約を締結して、安全保障分野での協力を深めました。

その後、キム主席は、1984年に鉄道でモスクワ入りしたほか、その2年後にも旧ソビエトを親善訪問しました。

キム委員長の父親、キム・ジョンイル(金正日)総書記は、2001年と2002年、それに2011年の合わせて3回、いずれも列車でロシアを訪れています。

2011年には、ロシア極東やシベリアを回り、水力発電所などを視察したほか、東シベリアのウランウデで、当時のメドベージェフ大統領との首脳会談に臨みました。

この中で、キム総書記は、2年半以上中断したままになっていた6か国協議に前提条件なしに復帰すると表明したほか、核兵器とミサイルの実験や製造を一時凍結する用意があるという立場を示しました。

一方、ロシアからは、プーチン大統領が、2000年に、就任からわずか2か月でピョンヤンを訪問し、旧ソビエト時代を含めてロシアの最高指導者として、初めて北朝鮮を訪れました。

キム総書記がプーチン大統領を歓迎し、友好ムードが高まり、2人の名前を何度も連呼する「われらの親善、永遠なれ」という歌まで作られました。

ロシアと北朝鮮の政治対話は活発化

おととしまで核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返してきた北朝鮮は、去年に入ると、一転して、対話攻勢に転じ、こうした中で、友好国ロシアとの関係強化を図ってきました。

去年4月には北朝鮮のリ・ヨンホ外相がモスクワを訪問してラブロフ外相と意見を交わしたのに続いて、翌5月には、今度はラブロフ外相がロシアの外相としては9年ぶりに北朝鮮を訪問しました。

ラブロフ外相は、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長とも会談し、史上初めての米朝首脳会談が迫る中、キム委員長が朝鮮半島の非核化について「段階的に解決していくことを希望する」と述べたのに対し、ラブロフ外相は、「北朝鮮の立場を、全面的に支持する」と応じたということです。

6月には、サッカーワールドカップの開幕セレモニーに出席するため、当時のキム・ヨンナム最高人民会議常任委員長がモスクワを訪れ、プーチン大統領にキム委員長からの親書を手渡しました。

さらに去年9月には北朝鮮の建国70年に合わせて、ロシア議会上院のマトビエンコ議長がピョンヤンを訪問してキム委員長と会談しています。

同じ月には、ロシア極東で開催された「東方経済フォーラム」に、北朝鮮が閣僚を派遣するなど、さまざまな形で協議が行われてきました。

ことし2月の2回目の米朝首脳会談が物別れに終わってからは、貿易・経済や科学技術分野の協力に関する政府間協議や、両国の外務次官による会談がモスクワで相次いで行われるなど、北朝鮮とロシアは、一層接近したようにも見受けられます。

先月にはキム委員長の「執事」とも呼ばれる国務委員会のキム・チャンソン部長がモスクワやウラジオストクを訪れ、キム委員長のロシア訪問の実現に向けて、準備を進めたとみられています。

キム・チャンソン部長は、キム委員長のロシア訪問を前に、再びウラジオストクに入り、現地で最終的な調整にあたっています。

北朝鮮としてはロシアとの関係を強化することで、アメリカとの交渉に有利な環境を整え、ロシアとしても朝鮮半島への影響力を確保するねらいがありそうです。

伝統的な友好国

ロシアと北朝鮮は、ロシアの前身の旧ソビエトが北朝鮮の建国に関わるなど、歴史的につながりの深い、伝統的な友好国です。

キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の祖父のキム・イルソン主席はかつて朝鮮半島を統治していた日本からの独立を求める武装闘争、いわゆる抗日パルチザン運動の指揮官の一人で、旧ソビエトから軍事的な支援を受けていました。

1945年に第2次世界大戦が終わると、旧ソビエトは朝鮮半島の北部を占領し、キム・イルソン主席の派閥を中心とする国づくりを支援し、1948年の建国を後押しします。

1961年には北朝鮮が外国から攻撃を受けた場合、旧ソビエトが軍事的な支援を行うことを明記した、友好協力相互援助条約を締結し、同盟関係を結びます。

その後、旧ソビエトは北朝鮮への経済支援も進めますが中国と北朝鮮の関係が強まるにつれて、相対的に北朝鮮に対する影響力は低下していきます。

そして冷戦体制が終結して1990年に旧ソビエトが韓国と国交を正常化させると、両国の関係は冷え込んでいきました。ソビエト崩壊後、ロシアは北朝鮮に同盟関係の破棄を伝え、1992年には中国も韓国と国交を正常化させます。

北朝鮮の後ろ盾となってきたロシアや中国との関係が弱まり、安全保障面で不安を募らせたことも、北朝鮮が核開発を進める理由になったと指摘されています。

その後は再び関係改善への動きが強まり、2000年に就任したプーチン大統領は、旧ソビエト時代を含め、ロシアの元首として初めて北朝鮮を公式訪問してキム・ジョンイル総書記と首脳会談を行いました。

北朝鮮との経済的な結び付きも再び強化されていく中で、北朝鮮の非核化をめぐってロシアは、中国とともに制裁の緩和に理解を示すなど、北朝鮮の後ろ盾となっています。

北朝鮮の核開発は旧ソビエト支援

北朝鮮の核開発は、旧ソビエトから技術を得て、進められてきました。

朝鮮戦争の休戦から3年後の1956年には、北朝鮮の科学者が旧ソビエトの核の研究所に派遣されています。

1960年代には、ピョンヤンからおよそ100キロ北にあるニョンビョン(寧辺)に、旧ソビエトから実験用原子炉が導入され、その後、この場所に、北朝鮮の核開発の主要な施設が集まることになりました。

また、1961年には、北朝鮮は、外国から攻撃された場合、旧ソビエトから軍事的な支援を受ける条約を結び、双方は、協力を深めていきました。

しかし、冷戦が終結して、1990年に旧ソビエトが韓国と国交を結んだため、北朝鮮と旧ソビエトの関係は冷え込みました。

このため、北朝鮮は安全保障上の危機感を強め、自国の防衛のためだとして核開発に一層力を入れるようになったと指摘されています。

キム委員長は鉄道利用か

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は、ベトナムのハノイや中国で行われた首脳会談に向かう際、鉄道を利用していて、今回も、北朝鮮とロシア極東を結ぶ鉄道を利用するとみられます。

北朝鮮の首都ピョンヤンから首脳会談が行われるとみられる極東のウラジオストクまでは1200キロ余り。

ロシア側の関係者によりますと、キム委員長は、北朝鮮との国境付近にあるロシア極東のハサン駅に24日午前、到着するということで、23日夜にもピョンヤンを出発する可能性があります。

順調にいけばウラジオストク駅に到着するのは24日の午後とみられ、作業員が線路沿いを掃除したり線路に油をさしたりして、列車の到着に向けた準備とみられる動きも確認されました。

ウラジオストク駅に国家親衛隊が到着

ウラジオストク駅では、23日、ロシアの大統領直属の治安部隊「国家親衛隊」が鉄道で到着する様子が確認できました。

「国家親衛隊」はテロやデモに対応するために特別に創設された部隊で、黒い制服に銃で武装した隊員は、機材などが入っているとみられる大量の荷物を次々と列車から降ろし、現場は、ものものしい雰囲気に包まれていました。

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は、24日にも列車でウラジオストクに入り、プーチン大統領との初めての首脳会談に臨むとみられ、部隊は、両首脳の警護や、会談場所の警備にあたるものとみられます。

大学の敷地内では会談に向けた準備

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長とプーチン大統領の首脳会談が開催されるとみられるウラジオストクの極東連邦大学の敷地内では会談に向けた準備が進められています。

23日午後には大学の敷地内にある宿泊施設で、北朝鮮側の関係者とみられる人たちが時折、出入りしている様子が見られ、午後5時前にはキム委員長の「執事」とも呼ばれる北朝鮮のキム・チャンソン国務委員会部長が施設を出る姿が確認されました。

また、ロシアの警察が警察犬を使ってこの施設の周りを警戒していて、報道陣が近づこうとすると警備員に止められるなど、セキュリティーが強化されていることがうかがえます。

大学に通う20歳のロシア人の男子学生は、「首脳会談が大学で行われることを誇りに思う。キム委員長をぜひ生で見てみたい」と話していました。

一方、大学付近の街灯には北朝鮮とロシアの国旗が掲げられ、首脳会談を歓迎するムードも少しずつ広がっています。

専門家「米朝間の直接協議の重要性は認識」

ロシアのプーチン大統領が、北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長と、初めての首脳会談に臨むねらいについて、ロシア科学アカデミー東洋学研究所のアレクサンドル・ボロンツォフ氏は「両国は国境を接し、長い歴史もある」と述べ、安全保障の観点から、朝鮮半島の非核化を進める必要に迫られていると指摘しました。

また、非核化の進め方についてボロンツォフ氏は「アメリカと北朝鮮の話し合いが失敗すると、非核化に向けた進展がなくなってしまう」と述べ、ロシアも、米朝間の直接協議の重要性は認識しているという見方を示しました。

そして「プーチン大統領は、米朝対話が続くことにロシアも関心があると、キム委員長に示したいはずだ」と述べ、プーチン大統領は、今回の首脳会談をきっかけに、キム委員長との個人的な関係をつくり、北朝鮮を後押しする形で、非核化の協議に積極的に関与するねらいがあると分析しています。

さらにボロンツォフ氏は「北朝鮮は独特なパートナーだ。こうした国と一定の関係を維持できるような国は、明らかに大きな長所を得ることになる」と述べ、プーチン大統領としては、ロシアが北朝鮮に対して一定の影響力があると印象づけることで、対立を深めるアメリカなどとの外交を有利に進めるカードにもしたい思惑があると指摘しました。