WTO判断「十分議論行われなかった点を問題視された」

WTO判断「十分議論行われなかった点を問題視された」
WTO=世界貿易機関の上級委員会で、韓国政府による水産物の輸入禁止の撤廃を求めていた日本側の主張が退けられたことについて、外務省と農林水産省が説明を行いました。WTOの1審にあたる小委員会で十分議論が行われていない点を問題視されたためだとしています。
12日、外務省と農林水産省は、WTOの上級委員会がまとめた報告書を分析し、その内容を説明しました。

それによりますと、WTOの報告書では日本と韓国では自然環境から受ける放射線の量が異なるということを1審にあたる小委員会が十分議論していなかったと指摘しているということです。

さらに、小委員会では食品に含まれる放射性物質のデータのみに基づいて判断しているが、それ以上の可能性については議論されておらず、不十分だとしています。

また小委員会は、日本が食品に対して設けている年間1ミリシーベルトという放射線量の基準は同時に韓国の基準も満たしていることから、輸入禁止にするべきではないという日本の主張を認めました。

しかし上級委員会は、韓国がより厳しい安全基準に基づけば輸入禁止措置が妥当だと主張していたのに1審ではこの主張を十分議論していなかった、と問題点を指摘しています。

こうした理由によって小委員会の判断が覆り、韓国政府による水産物の輸入禁止の撤廃を求めていた日本側の主張は退けられて、日本は事実上敗訴した形になりました。

その一方で日本政府は、小委員会で認められていた、日本産の食品の安全性や、韓国側が輸入の禁止措置にあたり周知の手続きが不十分で日本側が是正を求めていた点については、今回の判断でも認められたとしています。

「安全性について丁寧な説明続ける」

WTOの上級委員会の判断について農林水産省の担当者は、日本の主張は退けられたものの、「科学的根拠に基づいて日本の水産物は安全だと認められた」としています。

そのうえで、日本の農林水産物や食品の輸入を規制しているほかの国や地域に対し、「安全性について丁寧な説明を続けていきたい」として、引き続き規制の撤廃を求めていくとしています。

ただ政府内では、上級委員会で日本に有利な判断が示されることを前提に、各国に対して積極的に規制の撤廃を求めていこうという思惑があっただけに今後の影響が懸念されています。

輸入規制の国・地域と韓国は

東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きたあと、54の国と地域が日本からの食品の輸入規制をとりました。

これまでに、カナダ、トルコ、メキシコ、タイなど31の国と地域は規制措置を撤廃しています。

一方で、韓国、中国、アメリカ、EU=ヨーロッパ連合など、23の国と地域では、一部で緩和する動きもあるものの規制措置を継続しています。

このうち韓国は震災後、2011年3月に、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県の8つの県の水産物の一部について輸入を禁止しました。

2年後の2013年9月には輸入を禁止する対象をすべての水産物にまで広げています。

この措置もあって、日本から韓国への水産物の輸出額は大幅に減少しました。

規制が強化される前の2012年9月から2013年8月までの1年間の輸出額は109億円、規制が強化された2013年9月から2014年8月までの輸出額は84億円となり、23%減少しました。

なぜ韓国だけ提訴した?

2011年の原発事故の直後には、54の国や地域が日本産の食品について輸入規制を導入しましたが、日本政府がWTOに提訴したのは韓国だけです。

その理由は韓国が原発事故から2年たって規制を強化した点にあると外務省は説明します。

事故以降、日本が食品の安全性を証明する措置について多くの国が一定の評価をして規制の撤廃や、撤廃はしなくても緩和に応じる一方で、韓国は事故から2年余りたった2013年9月になって、輸入禁止の対象を一部の水産物からすべてに拡大しました。

さらに輸入規制の科学的な根拠も乏しく、どのような対応をとれば規制は撤廃されるか、その見通しも示さなかったことも提訴の理由だと説明しています。

専門家「各国に丁寧な説明を」

東京大学の八木信行教授は今回のWTOの判断について「1審の小委員会では、日本と韓国が主張する放射線量の基準があまり変わらないとして日本の主張が認められていた。しかし上級委員会では、韓国側がほかにも重要であるとした基準を見落としているのではないかとして判断が覆ったことがポイントだ」と話しています。

その背景として八木教授は「上級委員会では小委員会に比べて法律的な整合性をみる傾向があると思っている。法律的なプレゼンがたけているか、どこに議論の中心を置くかなどが重要になり、韓国側が法律的な議論で巻き返す動きがあったかもしれない」と話しています。

八木教授は今後の日本の対応について、「日本の環境の実態からすれば今回の判決で各国が日本からの輸入規制を強めるのではないかと深刻にとらえなくてもいいと思う。ただ、懸念を持っている各国に対して日本の環境の実態を丁寧に説明していく努力は重要だ」と話しています。