乳児暴行死 母親に実刑判決「3つ子の育児 同情できるが…」

乳児暴行死 母親に実刑判決「3つ子の育児 同情できるが…」
愛知県豊田市で生後11か月の3つ子の1人に暴行を加えて死亡させた罪に問われた母親の裁判で、裁判所は「3つ子の育児を懸命に行ったことに同情はできる」とした一方、「執行猶予をつけるほど軽い事案ではない」として懲役6年の求刑に対し3年6か月の判決を言い渡しました。
愛知県豊田市の松下園理被告(30)は去年1月、自宅で生後11か月の3つ子のうち次男を床にたたきつけて死亡させたとして傷害致死の罪に問われました。

裁判で被告は「泣き声が耐えられなかった」と話し、弁護士は「周囲の支援がなく重度のうつ病だった」として執行猶予のついた判決を求めていました。一方、検察は「乳児が泣くのは当然で動機は身勝手だ」として懲役6年を求刑していました。

15日の判決で、名古屋地方裁判所岡崎支部の野村充裁判長は「無抵抗の乳児をたたきつけた犯行は危険で悪質と言うほかない」と指摘しました。そして「うつ病になる中、負担が大きい3つ子の育児を懸命に行ったことに同情はできる」とした一方、「執行猶予をつけるほど軽い事案とは評価できない」と述べ、懲役3年6か月を言い渡しました。被告の弁護士は、刑が重過ぎるとして名古屋高等裁判所に控訴する考えを示しました。

3つ子の育児状況

裁判では、被告の育児の状況が明らかにされました。

出産後、3人の子どもに1日8回ずつ、3時間おきにミルクをあげ、睡眠時間は1時間程度だったとしています。また、事件の8か月前、訪問してきた保健師に「次男が昼夜を問わず泣くので大変」と話していたほか、3か月健診の際、別の保健師に「長男と次男の口を塞いだことがある」と打ち明けていたということです。

被告の夫は育児休暇を取っていましたが、事件の2か月前に仕事に復帰していました。

「多胎家庭」の虐待リスク高い

双子や3つ子を抱える「多胎家庭」は排卵誘発剤の活用や体外受精といった不妊治療の普及で1980年代以降増えたということです。

医師や医療の専門家でつくる「日本多胎支援協会」によりますと、こうした家庭は2005年をピークに減少しましたが、100人の妊婦のうち1人は双子や3つ子を出産していて、愛知県はこの全国平均をさらに上回っているということです。

また、石川県立看護大学の大木秀一教授が9年前に行ったアンケート調査では、「子どもを虐待しているのではと思うことがあるか」という質問に対し、多胎家庭の母親の30%から40%が「はい」と答えていました。この割合は1人で生まれた子どもを育てる母親のおよそ2倍だということで、双子や3つ子を育てる母親の精神的負担が大きく、虐待リスクが高いことを示しています。

豊田市が再発防止の取り組み

今回の事件を受け、愛知県豊田市は再発防止に向けた取り組みを始めています。

育児に関する情報を得られるよう、双子や3つ子を妊娠した母親に特化した教室を先月、初めて開きました。また、新年度からは双子や3つ子をこども園に入園しやすくする取り組みを始めるほか、家事を手伝うヘルパーを利用できる期間を今より長くすることにしています。

豊田市子ども家庭課の塚田知宏課長は「双子や3つ子がいる多胎家庭への理解が足りていなかったと重く受け止めている。二度と同様の事件が起きないよう支援したい」と話しています。

NPOの取り組み

岐阜県にあるNPO法人の糸井川誠子理事長は3つ子を育てた経験から、多胎家庭の支援に取り組んでいます。

糸井川さんが3つ子を出産したのは24年前でした。「ミルクをあげたりおむつを替えたりするロボットになったように、感情を動かさずに作業をしていましたし、寝る暇もなく、日々生きているだけで精いっぱいでした。できていないことが多く、自分の育てかたが悪いと自己嫌悪になっていました」。

そう振り返る糸井川さんが助けられたのは、岐阜県多治見市で運営されている、双子や3つ子の親を対象にしたサークルでした。今月7日の集まりでは、初めての双子の育児に悩む母親が、同じ経験をした人に、お風呂の入れ方や外出のしかたを相談していました。育児のノウハウを共有することで、親の負担だけでなく、孤独やストレスを軽減するねらいがあります。

糸井川さんのNPOは今、保健師と、双子や3つ子を育てた経験を持つ親との連携を進めています。保健師は、家庭を訪問して子どもの発育や健康状態を把握し、行政サービスを提案する役割を担っています。

13日、岐阜県立看護大学で開かれた勉強会には、県内の自治体の保健師も参加し、服部律子教授が、双子や3つ子の母親は子どもの発育を比べてしまい、ストレスを感じやすいことや、妊娠の時期から保健師が相談に乗る必要があることを説明しました。また、母親たちも、自分の経験談を保健師に伝えていました。

参加した保健師の1人は「双子や3つ子の家庭の特性は、保健師の知識だけでは賄いきれない。新たに分かったことを行政サービスに組み込んでいきたい」と話していました。