怠け者って言わないで

怠け者って言わないで
「起立性調節障害」という病気、ご存じでしょうか。思春期に多くみられ、立ちくらみやめまいなどを起こしやすく、朝起きるのがつらくなって、不登校の原因にもなります。中学生の10人に1人に症状があるとも言われています。
根性や気持ちの持ちようでは治らない“病気”。でも「怠けている」「仮病だ」、そんな誤解を受けることが多いのです。苦しみを訴える声が、広がり始めています。
(ネットワーク報道部記者 和田麻子 大窪奈緒子 木下隆児)

4コマ漫画

「学校に行きたくないんじゃない、行きたくても行けないんだ」

そんな「起立性調節障害」の患者の悩みを描いた漫画が、ネット上で反響を呼んでいます。投稿したのはある女子生徒です。
中学2年生の夏休み。朝起きると激しい腹痛に襲われ、その日は、部活に行くことができませんでした。それから、朝起きると立ちくらみがするようになり、頭痛や腹痛にも悩まされています。学校を遅刻したり、休んだりすることが続くようになりました。症状が出始めてからおよそ半年後、病院で専門的な検査を行い、起立性調節障害だという診断を受けました。

“つらかった”“甘えだ”

学校に行くことができるのは、週の半分程度。午前中に行くことができても、1時間目は保健室で過ごしています。それでも体調が回復しない時は早退することもあり、授業は遅れがちになっています。

「病気のことを知らない人はただの怠け者と思うかもしれません。でも違うんです。行きたくても行けないんです」

病気を理解してほしいと漫画を描いてSNS上にあげると、およそ7000回リツイートされ、たくさんのコメントが多く寄せられています。
コメントの多くが同じ悩みを持つ人たちからでした。一方、「ただの生活習慣の乱れ」「なんでも病気と言える」「怠けている」「甘えだ」といった意見もありました。女子生徒は広く理解してもらうことの難しさを感じています。

「多くの人が反応してくれたことに正直、びっくりしています。でも、実際に経験しないかぎり、この病気を理解してもらうのは難しいんだと思いました」

中学生の10人に1人

起立性調節障害は自律神経の不調などにより、立ちくらみや失神、朝なかなか起きられない、だるさや頭痛などが続くという病気で、思春期に多く見られます。日本小児心身医学会はホームページで、症状の軽い人も含めると有病率は小学生で全体の5%、中学生では10%になると説明しています。
治療方法はさまざまあり、軽症の場合は2、3か月で改善しますが、長期欠席するような重症だと社会復帰に2、3年以上要するとしています。

原因求めず、診察を

「起立性調節障害の人たちは決してうそをついているわけではありません。周囲の人は、頭が痛い、おなかが痛い、だるい、起きられない、そうした症状を認めてあげてください」

そう話すのは起立性調節障害について詳しい東京医科大学茨城医療センターの小児科科長で日本小児心身医学会理事の呉宗憲医師です。
「患者の頭や体の血流、血圧、心拍などを検査すると生理学的に異常な反応が確実に起きています。“気のせい”や“なまけ”では決してないんです」
症状が出る原因は体の状態や気質、子どもが置かれている環境や状況などによりさまざまで、多岐にわたります。

「症状に気付いたら『学校で何かあったのではないか?』とすぐに原因を求めるのはやめてほしい。まずは起立性調節障害に詳しい病院で診察を受ける。その中で問題が見えてくることがあります」(呉医師)

日本小児心身医学会もホームページでこう記していました。

「子どもの症状を怠け癖や夜更かし、学校嫌いなどが原因と考えて、叱責したり、朝、無理に起こそうとして親子関係が悪化することが少なくない」
「起立性調節障害は身体疾患であり、根性や気持ちの持ちようだけでは治らない」

サボりでも、怠けでもない

起立性調節障害に苦しむ子どもたちをサポートしようという動きも学校現場で出てきています。

「学校に来られない子どもを『不登校』という言葉でひとくくりにしてはいけない。『起立性調節障害』を知り、対応を見直す必要を感じたのです」

こう話すのは、岡山県教育庁の生徒指導推進室で副参事を務める高橋典久さんです。きっかけは子どもの生活習慣についてアドバイスをもらっていた医療関係者から「起立性調節障害で苦しむ子どもがいる」という話を聞いたことでした。10年前まで小学校の教員をしていた高橋さんにも思い当たるケースがあったといいます。
「朝起きられず、昼から放課後にかけて学校に来ていた子どもが当時からいました。同級生たちからは『元気じゃないか』とか『なんで学校に来ないんだ』と言われていました。当時は、思いもつきませんでしたが、起立性調節障害のことを知っていれば、もっとサポートできたのではないか、そう思うようになりました」
高橋さんたちはおととし、不登校の担当教員やスクールカウンセラーなどに呼びかけて起立性調節障害を学ぶ研修会を開催。去年は病気に詳しい医師にも参加してもらい、支援の在り方を考える県の研究会を立ち上げました。今、現場の教員などに向けて起立性調節障害への対応をまとめたガイドライン作りを進めています。

どのような病気なのか、学校や家庭で求められる配慮などがまとめられ、症状のチェックリストなども掲載されることになっています。

「れっきとした病気だということを教員が理解し、保護者にも理解を広めることで1人でも多くの子どもたちの支援につなげていきたい」(高橋さん)

11のチェックリスト

岡山県が作ったチェックリストは日本小児心身医学会が作成したものを参考にしています。

「朝なかなか起きられず午前中調子が悪い」
「入浴時あるいは嫌な事を見聞きすると気持ちが悪くなる」

学会では11の項目のうち3つ以上あてはまれば病院で検査を受けるようすすめています。

有病率が中学生の10人に1人というのは、決して少なくない数字で、それにもかかわらず、あまり知られることがないままなのが起立性調節障害です。その病名さえ知らず貴重な学生時代を誤解と偏見と悩みの中で過ごした多くの人もいたと思います。この病気が多くの人に知られ、症状を持ちながら精いっぱい頑張っているのに、全く逆のことばを突きつけられる人が少しずつ減っていってほしい、そう願います。
起立性調節障害のチェック項目は東京医科大学病院小児科の“起立性調節障害外来”のHPに掲載されています。