ヨルダン 遺跡で土石流 観光客3000人超避難 日本人けがなし

ヨルダン 遺跡で土石流 観光客3000人超避難 日本人けがなし
中東のヨルダンにある世界遺産のペトラ遺跡で、9日に発生した土石流では、日本人の団体観光客ら47人を含む3000人以上の観光客が避難する事態になりましたが、日本人にけがなどはありませんでした。ヨルダンの気象当局は、年間の平均降水量の5分の1もが1日に降ったために大きな水害になったと説明しています。
ヨルダンでは9日、各地で大雨による洪水や急激な増水が発生し、政府は10日、これまでに合わせて11人が死亡したと明らかにし、行方が分からない人たちの捜索を続けています。

世界遺産に登録されている南部のペトラ遺跡でも土石流が発生し、3000人以上の観光客が避難する事態になりました。

首都アンマンある日本大使館によりますと、当時、ペトラ遺跡には日本人の団体観光客とガイドの合わせて47人がいましたが、全員避難して、けがなどはありませんでした。

ペトラ遺跡は、ふだんは乾燥していますが、土石流が発生したときの映像を見ますと、岩と岩の間を水が勢いよく流れ、観光客は岩場によじ登り、水がひくまで避難しました。

今回の土石流について、ヨルダン気象庁で予報部門を担当するサイダト氏はNHKに対し、9日はペトラ遺跡の周辺地域で年間の平均降水量の5分の1もが1日で降るほどの大雨となり、1963年以来の大きな水害になったと説明しました。

そのうえで、サイダト氏は「大雨を降らす雲は局地的に発生するため、正確に予想することは非常に難しい」と述べました。

ヨルダン政府は、10日も大雨の影響が懸念されることから、ペトラ遺跡をはじめ、被害が広がった地域での観光ツアーを中止しました。

ペトラ遺跡とは

中東を代表する観光地の1つ、ペトラ遺跡は、紀元前にアラブ系の民族ナバテア人が岩山を掘り抜いて都をつくったのが始まりとされ、ユネスコの世界遺産に登録されています。

王族の墓や円形劇場といった遺跡群を、多くの観光客はロバや馬車に乗って見学しますが、1日ですべての遺跡をまわるのは難しいほど遺跡は広い範囲にわたって残されています。

とりわけ、40メートルの高さを誇る王族の墓「エルカズネ」は、入り口に6本の柱がある神殿のような遺跡で、アメリカの人気映画「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」の撮影が行われたことでも有名です。

一方、ペトラ遺跡周辺の地域は「ワディ・ムーサ」と呼ばれていて、「ワディ」はアラビア語で「川の水が枯れた谷」を意味し、こうした地形の場所では、大雨で水があふれると昔から伝えられてるということです。

遺跡訪れた日本人客「とても怖かった」

災害が起きた当時、団体の観光客としてペトラ遺跡を訪れていた奈良県桜井市の山口恵美子さん(70)は、現地の滞在先のホテルでNHKの電話取材に応じ、現場では濁流に流される人もいて緊迫した状況だったと当時の様子について話しました。

ペトラ遺跡を訪れていた山口さんは、遺跡から1人で滞在先のホテルに移動しようとした9日午後1時半ごろ、日本時間の9日午後8時半ごろ、異変に気付いたということです。

山口さんは遺跡の出口に向かおうと馬車を待っていましたが、予定の時刻になっても馬車が来ず、山口さんより先に徒歩で出口に向かっていたほかの観光客が慌てた様子で戻ってきたため、異変に気付きました。

山口さんは何が起きたのかわからず遺跡内を歩いていたところ、近くにいた現地の子どもに手を引かれ、より高い場所に誘導されたということです。

そして、およそ10分後、山口さんがもといた場所に、濁った水が流れ込んできたということです。

高い場所からその様子を目撃した山口さんは「水に流されて来た人もいて、近くにいた現地の人が一生懸命、助けていました。水がモノと一緒にどっと流れてきて人のひざの上ぐらいの高さになりましたが、どこまで水かさが増すのかわからず、とても怖かったです」と話しました。

山口さんは合わせて2回、居場所を変え、被害を免れることができたということで「水は山の上から滝のように流れてきましたが、状況がわからず、震えていました。団体の添乗員は、誰がどこにいるのかわからず、周りにいる人に英語で尋ねて探し回っていました」と話しました。

山口さんによりますと、ペトラ遺跡では、現地時間の9日正午ごろから雷を伴う大雨が降り出したということで、天候が急に変化した状況をうかがうことができます。

「フラッシュフラッド」発生か

ペトラ遺跡で発生した土石流について、専門家は現地で「フラッシュフラッド」と呼ばれる現象が起きた可能性が高いと指摘しています。

土砂災害のメカニズムに詳しい砂防・地すべり技術センターの池谷浩研究顧問は、現地の映像を分析し、土砂を含んだ大量の水が一気に押し寄せる、現地で「フラッシュフラッド」と呼ばれている現象が起きた可能性が高いと指摘しています。

池谷さんによりますと、ヨルダンなどの乾燥地帯では、日照りによって地表が固くなっているため、雨水がしみ込みにくく、大雨になると、大量の水が一気に流れ下る現象が発生するということです。

また、ヨルダンには「ワジ」と呼ばれるふだんは干上がった川が数多くあり、映像には、護岸のような設備も映っていることから、このワジを流れ下った可能性が高いと分析しています。

池谷さんは「映像を見るかぎり、土石流は、毎秒5メートルから10メートルほどの相当な勢いだった可能性がある。異常気象の影響で、各地で大雨のおそれがあり、海外旅行に行く際には、ガイドブックや現地の情報を確認して、危険な場所を把握するよう心がけてほしい」と指摘しています。

ペトラ遺跡周辺では年間平均降雨量の5分の1の雨

ペトラ遺跡では、55年前の1963年、土石流が発生して外国人を含む観光客およそ30人が死亡しています。

9日、ペトラ遺跡の周辺の地域では、年間の平均降雨量の5分の1にもあたる量の雨が降っていて、ヨルダンの気象庁で予報部門のトップを務めるイブラヒム・サイダト氏は「今回は水害は1963年以来の異常事態だった」と述べました。

そのうえでサイダト氏は、ペトラ遺跡は高い山に囲まれていて、雨が降ると水が流れ込んできやすい地形だと指摘し、異常なほどの大雨とそうした地形のために土石流が発生したと説明しています。

一方、今回の土石流が起きる前の今月5日、ヨルダンの気象当局は、ヨルダン全域を対象に「9日と10日は激しい雨が予想され、洪水が起きるおそれがある」として、警戒を呼びかける情報を出していました。

それにもかかわらず、3000人以上の観光客が避難する事態になったことについて、サイダト氏は「大雨を降らす雲は局地的に発生するため、正確に予想するのは非常に難しい。ペトラ遺跡に行くのを恐れる必要はないが、事前に気象情報を確認してほしい」と述べ、ホテルやツアー会社などで最新の気象情報を確認してほしいとしています。