みんな大好き 狛犬ポジション

みんな大好き 狛犬ポジション
「狛犬ポジション」を知っていますか? 電車の出入り口の両脇にある、人ひとりが立てるくらいのスペースで、満員電車でも比較的ゆったり立っていられる場所です。朝夕の通勤時間帯には熾烈な競争も繰り広げられるほど人気でネット上ではユニークな利用方法が提案されている一方、最近ではその存在が脅かされているケースもあるようです。(ネットワーク報道部記者 岡田真理紗、吉永なつみ)
「イェア!電車で狛犬ポジション押さえられたぜ!!!」
「横から割り込んで来た人に狛犬ポジションを取られた」
「乗り降りが激しい駅でいったん降りて1本電車を見送り狛犬ポジションを取る人を見た」

朝夕のラッシュ時、SNS上で繰り広げられている「狛犬ポジション」の争奪戦の様子です。

争奪戦です!

「イェア!電車で狛犬ポジション押さえられたぜ!!!」
「横から割り込んで来た人に狛犬ポジションを取られた」
「乗り降りが激しい駅でいったん降りて1本電車を見送り狛犬ポジションを取る人を見た」

朝夕のラッシュ時、SNS上で繰り広げられている「狛犬ポジション」の争奪戦の様子です。
狛犬ポジションは、壁などに寄りかかることができるうえ、満員の車内でも混雑の影響を受けにくく、降りるのも簡単なことから人気の場所です。ドアの両側に立つ人が神社の入り口にたたずむ狛犬のように見えることから「狛犬ポジション」と呼ばれるようになったと思われます。

誰がこう名付けたのか定かではありませんが、3年前からSNS上で狛犬ポジションを弱者のための場所だと位置づけネット上で発信している人がいます。東京在住の「たられば」さんです。

譲られるとありがたい

きっかけは友人女性の経験談。子どもを連れてベビーカーで電車を利用した際、「狛犬ポジションを譲ってもらい助かった」と話すのを聞きました。

また、抱っこひもで幼児を抱えている親にとっては、座席に座るより立って子どもをあやせる狛犬ポジションの方が喜ばれることも知りました。

そして「自分が狛犬ポジションに立った時に必要そうな人に譲っている」と投稿したところ、多くの共感や感謝のコメントが寄せられたのです。

以来、狛犬ポジションのよさを一覧表にまとめ、広めています。
「幼児の手がドアに引き込まれないようになど注意する点はあるでしょうが、譲られるとありがたい人もいる場所だという認識が広まるといいです」(たらればさん)

批判的な声も

一方で、批判的な声もあります。「デカいリュック持ったお兄さん勘弁してほしいっす」

そう、この狭いスペースに収まりきらない場合、乗り降りする人の邪魔になることがあります。座席側にリュックサックが飛び出すと座っている人の頭にあたることもあります。

「狛犬ポジションに立って座席側を向いて立っている男の人、気持ち悪い」。座席側に向かって立つと、座っている人がスマホの画面や本をのぞき見されたような気になるのです。

メーカーは「??」

ところで「狛犬ポジション」と呼ばれるこのスペース、本来、何のためにあるのでしょうか。

ある鉄道車両メーカーに尋ねると「そんな呼び名があるのですね」と意外な反応です。担当者によりますと、鉄道会社の要望を受けドアの数や座席の長さを決めた後に余るのがこのスペース。どれくらいこのスペースを確保すべきか逆算して設計しているわけではないそうです。とすると狛犬ポジションに立つことはマナー違反なのでしょうか?

私鉄各社で作る日本民営鉄道協会に尋ねると、「一律にドア横のスペースに立ってはいけないという周知はしていません」という回答。

最近は大きなスーツケースを抱えた外国人観光客も多く、そうした人たちにとっても狛犬ポジションはやはり便利で、「お客様の乗降がスムーズにいくよう周囲の人への配慮さえしていただければ、禁止するものとは考えていません」ということです。

積極的に拡大

狛犬ポジションを積極的に広げた鉄道会社もあります。Osaka Metroです。

2年前に登場した御堂筋線30000系は、狛犬ポジションの幅をそれまでより16センチも伸ばして50センチにしました。大きなスーツケースやベビーカーを立てかけられるようにするためで、そのことを周知するための表示もしています。

「中途半端な幅の狛犬ポジションが乗客の乗降を妨げているという指摘が社内であり、だったら逆に広げてみようということになりました。誰もが気持ちよく利用できる車内の環境作りに引き続き務めたい」(広報担当者)

狛犬ポジションがない

一方、狛犬ポジションがなくなってしまったケースもあります。東急電鉄の田園都市線にことし3月から導入された「2020系」の車両では、ひとり当たりの座席の幅を1センチずつ増やしたところ、狛犬ポジションがほとんどなくなりました。ツイッターでは「新しい車両、狛犬ポジションがほとんどない」「減ってきてて困る」という意見もみられました。
JR山手線の車両「E235系」
3年前の11月に導入されたJR山手線の車両「E235系」でも、同様に座席の幅を1センチずつ増やしたため、狛犬ポジションは以前よりも狭くなっています。

電車の中は6つのゾーンに分けられる!

この狛犬ポジションを含め、私たちがなんとなく意識していた満員電車の乗り方を、わかりやすく解説しているユニークな人がいます。文部科学省の男性職員で、育児などについてブログを書いている「しんさん」で、狛犬ポジションを含め車内は6つのゾーンに分けられると分析しています。

最も危険なのは濁流ゾーン

狛犬ポジションは、「比較的安全なエリアである程度スマホをいじったりできる」と解説。でも「足を前に出したり、スマホが通行の邪魔になっている人もいるので、どこにいても周りの流れをみる意識は必要」とのことです。

その横はガーディアンゾーン。縦の手すりにつかまるポーズが衛士のようだとその名をつけたそうで、「狛犬の一歩内側で比較的安全だが、人の流れに押され巻き込まれる可能性がある。隙を見て狛犬ゾーンに移ろう」と説明しています。

危険が伴うと指摘するのは、駅に着くたびに出入りする人の流れが生じる「流動ゾーン」で、「しんさん」はここで他人にアキレス腱を蹴られた経験があるそうです。

さらに「流動ゾーン」が合流するところは「濁流ゾーン」と命名。しんさん曰く「最も危険なエリア。駅に着くたびに押し合いへしあい大騒ぎとなる。できるだけ流れに逆らわず、一度降車して降りる人を待とう。注意が必要だが、どう注意していいのかはよくわからない」のだそうです。

暗黙のルールを可視化

こうしたことを考えた理由について、しんさんは、「毎日乗車するなかで、人の流れの暗黙のルールみたいなものを感じていたので可視化してみました。『周りをよく見て行動しよう』と伝えることで、電車内で困惑したりイライラしたりする人を減らしたいというのが目的です」と話しています。
しんさんは、英語版も掲載しています。「外国の方が、流れが理解できずに出入り口付近で動かないのをよく見るので、いったん降りる、流れに身をまかせるということを知ってもらおうと思い英語にしました」(しんさん)

ちなみに狛犬ゾーンは、外国人向けに神社にある狛犬の意味から解説。そして「とても人気がある場所だが、言うまでもなく、その場所をゲットする競争率は非常に高い」としています。

社会のルールとして共有を

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの期間中には、延べ約1000万人が日本を訪れると見込まれ、期間中、都内の電車は競技場に向かう路線を中心に、大きな混雑が発生すると予想されています。

電車の乗り方の暗黙のルールどころか、混雑する電車自体に乗り慣れていない人たちが大勢やってくるのです。こうしたことを考えるとしんさんが訴えるように暗黙のルールを社会のルールと位置づけ共有することで、「混雑」が「混乱」に陥らないようにする知恵と工夫が求められていると感じました。