文系も知りたい「技術書典」

文系も知りたい「技術書典」
「技術書典」この4文字を見て「なにかの辞典?」などと思ったあなたは永遠の文系。心を熱くするのが日本のITエンジニアたちです。技術者たちの「コミケ」とも言われ、最近、注目のイベントの魅力を知りたい!永遠の文系記者2人が迫りました。(ネットワーク報道部記者 郡義之 飯田耕太)
3連休最終日の10月8日、東京・池袋で行われたイベントの会場となったビルの前には、数百人の列ができていました。

IT企業に勤めるシステムエンジニアの40代の女性は、以前から気になっていたというこのイベントに初めて参加。その時の興奮と周囲の様子をツイッターに記しました。

「着いた!すでに200人以上並んでる感じ」
「すごい勢いで列が伸びててこわい」

入り口に進むと本を掲げた女性のイラストが出迎えます。

これが注目のイベント「技術書典」の会場です。

すごい行列が

3連休最終日の10月8日、東京・池袋で行われたイベントの会場となったビルの前には、数百人の列ができていました。

IT企業に勤めるシステムエンジニアの40代の女性は、以前から気になっていたというこのイベントに初めて参加。その時の興奮と周囲の様子をツイッターに記しました。

「着いた!すでに200人以上並んでる感じ」
「すごい勢いで列が伸びててこわい」

入り口に進むと本を掲げた女性のイラストが出迎えます。

これが注目のイベント「技術書典」の会場です。

技術書典って

技術書典は、IT業界で働くエンジニアやその卵たちがみずから作った本などを展示即売するイベントです。

3000平米もの広さの会場では本を作ったグループなどがそれぞれブースを設け、プログラミング技術の解説本を中心に、最新の技術を使ったさまざまな「作ってみた」「やってみた」をまとめた冊子、それにIT業界独特の働き方の指南書まで、さまざまな内容の本を紹介・販売しています。

こうした技術書は、少し前まで漫画やアニメ好きの人たちが自作の同人誌を即売するコミックマーケットの片隅で取り扱われていたそうですが、平成28年から技術書専門のイベントして毎年、春と秋に開催されるようになり、今回は、来場者が1万人に上りました。

1人で28冊ゲット!

冒頭で紹介した初参加の女性は、販売される本をホームページで事前に調べ尽くしたうえで、当日はあちこちのブースを片っ端から回りました。
その結果、買い求めたのは実に28冊。
「ひとまず欲しかった本はほとんど買えた。朝から並んだかいはあったかも」

さらに会場に集まった同業者の多さからこんな冗談も。
「技術書典にロケットランチャー撃ち込んだら日本のIT業界終わりそう」

なぜ書店に売ってないの?

ところでこの女性が戦利品として撮影した28冊の写真を見ると…。

判別できるのは、「HTTP」とか「Alexa」の文字。わかるのは私たちの生活に欠かせないIT技術に関連する参考書なのだなということくらい。

でも、大きな疑問が1つ浮かびました。

こうした技術書は書店で売ってないの?

さっそく「技術書典」の主催者に聞きました。

「IT関連の技術書って、書店に出回っているのが意外に少ないんですよ」

こう語るのは都内で電子書籍の会社を経営する高橋征義さん。
高橋さんによると、日常生活に欠かせないIT技術について、初歩的な利用法を解説した書籍は書店にたくさんありますが、開発方法などの高度な技術を体系的にまとめたものはあまりないといいます。

というのも、日々革新するこうした技術を解説した書籍はすぐに古くなるうえ、読者もそう多くないために書店で売るほど多く作っても採算がとれないのだそうです。

では、そうした情報はネットで手に入るのではと思いますが、技術を体系的にまとめるのは大変な労力が必要で、そんな貴重な情報を提供してくれるようなサイトは数少ないのだそうです。

そこで特定の知識を持った人たちが個人、あるいはサークルで同人誌を作るように技術書を自費で製作して展示即売をするイベントが必要とされているというのです。

「今までこんな本がほしいと思っていたけど、なかったことを考えれば、まさにかゆいところに手が届くイベントといった感じでしょうか。またイベントには、それぞれの分野で有名なエンジニアも来ています。こうした人たちに会えることもだいご味なのだと思います」(高橋さん)

ここまで取材してようやく技術書典に関心が集まることや「戦利品をゲット」して自慢する人たちの気持ちがわかってきました。

猫からマンホールまで

技術書典の魅力はこれだけにとどまりません。

展示即売された書籍のタイトルをもう少し紹介しましょう。

「AIミニ四駆の作り方」「ミニマンホール製作法」「人工知能技術でポケモンバトルの戦略を構築」難しい技術を解説するだけではなく、それを活用するユニークなアイデアや発想方法を学べる本もあるようです。
前述の初参加の女性が「一番のお気に入り」と紹介してくれたのが「ネコを支える技術」という本で1冊1000円。

内容は、太った猫を飼っているエンジニア夫婦が、最新のテクノロジーを使って愛猫の健康管理を行う方法を解説したもので、▼体重計に乗せられるのを嫌がる猫のためにふだん使っているトイレを改造し、Wi-Fiを使って体重をクラウドに記録する仕組みや、▼えさ皿に取り付けた超音波センサーで食事の回数を記録する方法などが紹介されています。

さまざまなモノとインターネットがつながることで多様なサービスを実現するいわゆる「IoT」に関心があったという女性は、大好きな猫との暮らしにそれを活用するというアイデアに心をわしづかみにされたと言います。

すぐに読み終えツイッターで感想を投稿し、著者とも知り合いになったそうで、「新たな知識を得るだけでなく、技術者どうし新たなつながりができるのも魅力なので、今後も参加したいです」と話していました。

技術書典 企業も推薦

技術書典で研さんを積んでもらおうと、社員に技術書を購入する手当を支給する会社も現れました。
東京・台東区にあり、技術書典にスポンサーとしても関わっているAIの開発会社は、イベントで購入した本などの現物を提示すれば会社が最大で2万円を支給。インターンの学生にも認められているそうです。実際に利用した人はすでに社内で何人もいて、今後は技術書典に出版する記事を書くための有給休暇制度も設ける予定です。

「AIの開発に必要な専門知識を得る場として技術書典は極めて貴重で、今後も技術の向上を図りたい社員を、会社としても応援していきたい」(AI開発会社「ギリア」清水亮代表)

必要な本が流通しない現実

それにしても私たちの暮らしを支えるIT技術に関する専門書が、手に入りにくいという状況はどうなのだろうかと考えてしまいます。

一方で、主催者によると技術書典とは、「新しい技術に出会えるお祭りです」だそうです。

エンジニアが楽しみながら交流し学ぶ場だからこそ、新しいアイデアが生まれてくるのではないかという期待を感じました。