もう働けません!入社4年で約半数が辞めるって…

もう働けません!入社4年で約半数が辞めるって…
今、全国の路線バスが大変なことになっています。赤字路線だけでなく、大都市部の黒字路線までも減便・廃止せざるをえない事態になっているのです。その理由は運転手不足ー(詳しくは6月22日公開「もう維持できません」)。
どうしてそこまで足りないのか。調べてみると、衝撃的なデータを見つけました。
「入社4年で半数近くが離職ー」(国土交通省調べ・平成25年)。
どうやら全国で運転手が次々と辞めているようです。それも想像以上に…。なぜ、運転手たちは辞めていくのか。調べてみると、要因の1つにバスの運転手特有の勤務形態があることが見えてきました。
(ネットワーク報道部記者 後藤岳彦・宮崎局記者 牧野慎太朗)
「やりがいは感じているが、激務で身も心もぼろぼろ」。
「仕事は大好きだが、給料が安くて生活が大変」。

“やりがい”はあるが賃金は…

「やりがいは感じているが、激務で身も心もぼろぼろ」。
「仕事は大好きだが、給料が安くて生活が大変」。
各地のバス会社の運転手に話を聞いてまわると、多くの運転手が仕事に「やりがい」を感じている一方で、「激務」とか「給料が安い」という声を数多く聞きました。

どうやら運転手が辞めていく要因は「賃金」と「激務」にありそうです。

そこでまずは「賃金」について調べてみました。

国の調査によると、バス運転手の平均年収は448万円。全職業の平均年収の490万円を42万円、下回っていました。
(平成28年賃金構造基本統計調査より国土交通省作成)

さらに各地の運転手に話を聞くと、地方や中小のバス会社ではより厳しい現実があるようです。
「年収は300万円を下回っている。会社には400万円を超える人はいない」(運転手歴5年)。
「14年間働いたが、400万円を少し超える程度。東京などの大手バス会社や公営バスなどが平均年収をあげているのではないか」(首都圏のバス会社勤務 運転手歴14年)。

実際、賃金を理由にバス会社を辞めた元運転手(運転手歴10年)は「年収は300万円に届かなかった。働いても働いても給料が上がらなかった。仕事は大好きだったが、生活するのが大変で辞めざるをえなかった」と話していました。
路線バスの運転手

バス会社が賃金上げられない事情…

では、バス会社が賃金を上げれば運転手は集まるのでは…?そう簡単にはいかないみたいです。それは多くのバス会社が赤字に陥っているからです。

国の調査では路線バスを運行する246事業者のうち、およそ64%の157の事業者が赤字でした(平成28年度 国土交通省まとめ、30台以上の車両保有)。

特に地方は赤字が深刻で、東京や大阪、名古屋などの大都市部を除くと、165の事業者のうち136事業者、実におよそ82%にまで跳ね上がります。これはバス会社が郊外の利用者が少ない路線でもバスを運行しているから。公共交通として、利用者が少なくても、採算性ばかりを重視するわけにはいかないからです。
「運賃を上げることで給料を上げられないのか?」。いくつかのバス会社に聞いてみましたが、「日常的に使う路線バスは10円の値上げでも利用者への影響は大きい。値上げで利用者が離れ、狙いとは反対に収益が落ちるおそれもあるので、運賃を上げるのも難しい」との回答でした。

慢性的な赤字で、賃金を上げようにも上げられないー。運転手不足の要因の1つには、バス会社の厳しい経営状況があるようです。

バス運転手はやっぱり激務??

次に「激務」についても調べてみることにしました。

国の調査では、路線バスを含むバス運転手の平均労働時間は年間2520時間で、全職業の平均より396時間、長くなっています。さらに残業時間をみてみると、平均年間492時間と全職業平均より3倍以上も長くなっていました(平成28年賃金構造基本統計調査より国土交通省作成)。

確かに、データ上ではほかの職業より「激務」のようです。

ただ、各地の運転手に話を聞くと、「激務」の理由は、これだけではないようです。国のデータにも反映されない、バスの運転手特有の勤務形態があるというのです。

謎の“拘束時間”とは

あるバス運転手の勤務記録。15時間近い拘束の日も
「13時間を超える拘束は珍しくない」「16時間ぎりぎりの拘束もある」。まず、驚いたのがこう話す運転手が多かったこと。

「法的に問題があるのでは?」と尋ねると、あくまでも“勤務”時間ではなく“拘束”時間で法的にも問題がないといいます。

調べてみると、バス業界では、バスの便が多い、早朝と夕方の時間帯に1人でも多くの運転手を確保するために、便数が少ない昼間の時間帯に“中休み”と呼ばれる「長時間の休憩」を設ける会社が珍しくないのです。

休憩と勤務時間を合わせたものが“拘束時間”で1日に16時間近くに上ることも少なくないといいます。“中休み”などは、多くの会社で賃金が支払われていないようです。

人手不足が“拘束時間”に拍車

改善基準告示
ちなみに、16時間の拘束というのは、勤務が8.5時間とすると、休憩が7.5時間となります。

これ、本当に法的に問題がないのか、調べてみましたが、たしかにバス運転手などの労働条件を定めた国の「改善基準告示」によると、1日の拘束時間は最大16時間まで。15時間を超えるのは週2回までと決められています。
改善基準告示
さらに現役の運転手に話を聞いてみると近年、この拘束時間に異変が起きていました。
「14年前と比べて拘束時間が長い日が増えたと感じる」(首都圏のバス会社勤務運転手歴14年)。
「年々、拘束時間が長くなっている。人手不足が原因。拘束時間を長くしないとダイヤが回せない」(運転手歴5年)。

どうやら運転手不足が原因で、拘束時間が制限ぎりぎりの日が多くなっているようです。

バス会社に聞いてみても「運転手不足で、休日出勤をお願いしたり、拘束時間を長くしたりせざるをえない。そうしないとダイヤが維持できない」と認めています。

もはや拘束時間を長く設定しないと、ダイヤが維持できない状況にまで、運転手不足が深刻化している会社が少なくないのです。

実際、去年、国土交通省が行った調査でも、1日平均の拘束時間が13時間を超えると回答した人は全体の19%に上っていました。

運転手の多くはこう話しています。「休憩時間といっても、断続的に乗務が入ることもあり、ゆっくり体を休められるわけでもない。夜中までの勤務で睡眠時間も削られ、数時間しか眠れない日もある。どんどん人が辞めていく」。

地方のバス会社などでは、担い手不足で運転手の拘束時間が増え、それでさらに運転手が辞めていくという悪循環に陥っているようです。

運転手不足で廃止相次ぐ

この運転手不足はバス業界だけの問題ではありません。

国の調査では、回答した350社のうち、なんと、8割を超える会社が「運転手が不足している」と感じていました。しかも、このうち5社に1社が運転手が足りずに「減便」や「路線の廃止」などを検討しなければならない状況でした。

実際に路線バスは全国で廃止が相次いでいて平成28年度までの10年間で1万3991キロもの路線が消えました。
こうした状況にバス会社でつくる日本バス協会は「運転手の高齢化が進み、バスの運転に必要な大型2種免許の取得者も少なくなっている」と話しています。
首都大学東京 戸崎肇特任教授
一方、バスなどの交通政策に詳しい首都大学東京の戸崎肇特任教授は次のように指摘しています。
「休憩時間に運転手がしっかり休めるようにする環境整備とともに、中休みにも賃金を払うなどして待遇を改善したり、睡眠時間の確保や拘束時間の負担軽減など運転手の労働環境を抜本的に改善したりしなければ、路線バスの維持は難しくなっていく。路線の維持は、バス会社任せでなく、行政の関わりが欠かせない」。

今回取材したバス運転手の1人は、あるトラックの運転手からこんな言葉をかけられたことがあるそうです。
「バスは、人の命という世の中でいちばん重いものを運んでいる。しかも大量に。俺にはそんな責任のある仕事はやれない」。

今後、運転手不足がさらに深刻になれば、将来の路線の維持は難しくなり、私たちの生活に影響は必至です。私たちも引き続き、この問題、取材していきたいと思います。