「自分は大丈夫」 それ、正常性バイアスです

「自分は大丈夫」 それ、正常性バイアスです
強い台風20号が四国や近畿に接近しています。早めの避難を呼びかけるニュースを見ながら、心のどこかで「自分は大丈夫」と思ってしまいますよね。でもそれって「正常性バイアス」といって、災害時には危険な心理状態なんです。(ネットワーク報道部記者 吉永なつみ 目見田健)

異常事態での心の反応

「正常性バイアス」は、何らかの異常事態が起きた時に「これは正常の範囲内だ」と思い込んで、心を平静に保とうとする働きです。生きていくうえでは必要な心の働きですが、災害時には、危険を過小評価してしまうことにつながり、避難が遅れる危険があります。

西日本豪雨でも…

実際、ことし7月に起きた西日本豪雨の際の被災者の避難行動にも見られました。
NHKが災害の発生から1か月を前に広島県と岡山県、それに愛媛県の被災地で行ったアンケート。
被災者310人に対して「最初に避難するきっかけとなったのは何か」と尋ねたところ、周囲で浸水や川の氾濫、土砂災害が発生するなど、「周辺の環境の悪化」と回答した人が33.5%と最も多かったのです。

▽次いで多かったのは「消防や警察」の呼びかけで14.8%
▽「近所の人」の呼びかけが9.3%
▽「家族・親族」の呼びかけが7.7%でした。

一方で、
▽「防災無線」が7.4%
▽「テレビ・ラジオ」は4.5%にとどまり、実際に身に危険が差し迫るまでは避難を決断しなかった実態が明らかになりました。
災害リスクが専門の東京女子大学名誉教授の広瀬弘忠さんは、「一般的に災害の発生と被害の発生がほぼ同時に起こる地震などと違い、水害は被害の発生までに時間が空くので“正常性バイアス”がより強くかかるが、それが顕著に表れた結果だと思う」といいます。

そのうえで「近年、全国各地で毎年のように水害や土砂災害が発生しているが、それがかえって、『警報が出るのはよくあること』『今までここで災害は起きていないから大丈夫』という新たなバイアスを生んでいる側面がある」と述べて、私たちの、いわば「災害慣れ」した感覚が、新たな被害を生む可能性を指摘しています。

早めの避難 迷う声

実際、ネット上では「避難のメール来ているけど、晴れていて蒸し暑いので様子見してます」
「もう台風に備えて避難所の開設の町内放送がかかっている。今回、こっちの方はそんなに酷くなさそうだけど、どうなんだろうなぁ」といった早めに避難するかどうか迷っている人もいます。

じゃあどうしたら?

ただ、記者にも幼い子どもがいて、実際に台風の前に避難するとなればとても容易なことではありません。

まず、仕事の予定を調整したうえで有給をとり、自宅に浸水の危険があるとしたら、被害がなさそうな地域のホテルを予約するでしょう。
数日分の自分と子どもの分の着替えだけでも大荷物ですが、環境が変わって気持ちが不安定になるであろう子どものために、いつものおもちゃやお菓子も持ち出す必要があります。

これだけの精神的・肉体的な負担をかけても避難が空振りすることだってあります。いえ、空振りすることのほうが多いでしょう。

そんな事情を東京女子大学名誉教授の広瀬さんにぶつけると…。
「台風が近づいているから有給を取る、あるいはリモートワークにする。遠方にホテルを取る。お子さんを連れて、一種のピクニックに行くつもりでその一連の避難行動を一度やってみてください。それが習慣化すれば、災害に直面したときに役立つと思います」

避難してください

「いつもどおり」を崩すことはとても勇気が要ります。コストもかかります。しかし、何よりも大切なのは人の命です。台風20号は今夜にも四国と近畿にかなり接近し、上陸する見込みで、降り始めからの雨量は局地的に1000ミリを超える大雨となるおそれがあります。避難所に行くことだけが避難行動ではありません。
どうか「正常性バイアス」を取り去って今できるかぎりの命を守る行動を取ってください。