モスルIS解放から1年 復興遠く

モスルIS解放から1年 復興遠く
過激派組織IS=イスラミックステートのイラク最大の拠点だったモスルが解放されてから10日で1年がたちました。ISとの戦闘で多くの建物が破壊されたほか水道や電気も復旧していないことから、1年たっても故郷に戻れない国内避難民も多く復興が大きな課題となっています。
イラク第2の都市モスルは、4年前、過激派組織ISに制圧され、最大の拠点となりましたが、イラク軍がアメリカ主導の有志連合の支援も受けておととし10月に奪還作戦を開始し、去年7月10日にイラク政府が公式に勝利を宣言しました。

しかしISの3年にわたる支配と激しい戦闘の結果、特にISが最後まで抵抗したモスル西部の旧市街はがれきで覆われ、復興はほとんど進んでいません。

モスル近郊にはいまも避難民キャンプが点在し、IOM=国際移住機関によりますと、ことし5月末の時点でモスルのあるニナワ県から出たおよそ260万人の国内避難民のうち120万人近くが避難生活を続けているということです。

帰還できない理由としては自宅が破壊され、電気や水道なども復旧していないことや、周りに不発弾などが残っているおそれがあるほか、国際的な医療NGOは医療体制が崩れ、以前の3割程度しかない状況だと指摘しています。

イラク政府はモスルを含めISによって荒廃した地域の復興には、10兆円近い資金が必要だとして国際社会に支援を求めており、イラクでは復興が大きな課題となっています。

イラク首相「復興に向け困難を乗り越えてみせる」

ISのイラク最大の拠点だったモスルが解放されてから1年がたったのに合わせて、10日にイラクのアバディ首相は声明を発表しました。

声明では「われわれは本日、誇りとともにモスルの解放1周年に思いをはせる。イラク国民は多大な犠牲を払ってISを打ち破り、人生を取り戻すとともに、避難を余儀なくされていた住民の帰還に道を開いた。この偉業に貢献した人々に敬意を表する」と、モスルの解放をたたえました。

そのうえで、アバディ首相は「これからは解放した街を復興する段階に入る。われわれは今、復興に向けて最大限の計画と戦略を策定していて、これまでに経験した困難を乗り越えてみせる」と、決意を表明しました。

「時限爆弾」の元IS少年兵

ISは、支配地域を広げる中で拉致するなどした子どもたちに過激思想の教育や武器の使い方などの訓練を徹底的に行い、少年兵として戦闘員に仕立てました。

ISは、こうした子どもたちを組織の将来を支える存在として育てるとともに、戦況が悪化すると自爆テロを強制させたり、戦闘の最前線に送り込んだりしました。

イラク政府によりますと、子どもの戦闘員の数はイラクとシリアで3000人に上るとも指摘されていますが、詳しい実態は明らかになっていません。ISのイラク最大の拠点だったモスルが陥落したあと、こうした子どもたちの戦闘員がISから解放され、次々と地域社会に戻ってきました。

このうち、イラク北部のクルド人自治区の避難民キャンプで生活する14歳の少年がNHKの取材に応じ、10歳の時にISに拉致されたあと、3年余りにわたってISのもとで自爆テロなどの訓練を受け、戦闘に参加させられたり殺人を強制されたりした実態を証言しました。

この少年は、去年9月に家族のもとに戻ってきてからも凄惨(せいさん)な経験を思い出して眠れない日が続き、半年前から月に1度、心理療法士のカウンセリングを受けているということです。

しかし、現地で子どもたちの支援にあたる医師によりますと、550万人が住むイラク北部には心理療法士はわずか30人しかおらず、子どもたちのケアにあたる人材が圧倒的に不足し、専門家による治療を受けられる子どもは一部に限られているということです。

このため、地元の大学では、去年から心理療法士を養成する専門課程を新設するなどして対策を急いでいます。

また、ISから解放された今もISのメンバーを慕い、過激な思想が残っている子どもたちも多くいて、子どもたちに植え付けられた過激な思想の洗脳をとくことも大きな課題になっています。

イラク北部の都市、アルビルにある更生施設では、地元のクルド自治政府が戦闘員だった子どもの社会復帰に乗り出しています。

施設では戦闘員だった子どもたちが集団生活を送り、イスラム教の指導者が自爆テロなどのISの教えを否定する講義を行うなどして、過激な思想を取り除こうとしています。

また、施設を出てから社会で孤立しないように理容師や配管工などの職業訓練も行っています。

ISの実態を追っているシリア出身のジャーナリストは「ISの実態が失われたとしてもその過激な思想は多くの子どもたちに残り続けている。子どもたちは過激派組織にとっていつでも爆発させることができるいわば『時限爆弾』だ。中東だけでなくヨーロッパなど世界にとって脅威で、対策を急がなければならない」と指摘しています。